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遅すぎた武漢封鎖。新型肺炎パンデミックで死の淵に立つ世界経済

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、世界各地で患者が増え続けています。日本政府も強制的な入院などの措置が可能となる「指定感染症」とするなどの対策を講じていますが、はたして国内での爆発的感染を食い止めることはできるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、甘すぎと言わざるを得ない安倍政権の対応を批判するとともに、新型肺炎が世界にもたらす影響について考察しています。

新型コロナウィルスで株価急落へ

中国の新型コロナウィルス感染拡大で、武漢市は封鎖したが初期対応を間違えて、パンデミックになり世界経済は減速する可能性が出て、NYダウも下落した。今後を検討しよう。

米国株価

NYダウは、史上最高値更新で1月17日29,373ドルとなったが、1月24日28,989ドルと29,000ドルを割り込んだ。1月24日NY時間14時には28,843ドルまで下がった。ドル円109円20銭まで円高になっいる。

中国の新型コロナウィルス感染拡大で世界経済の減速を織り込んだことによる。そして、上海市場は2,976ポイントと3,000ポイントを割り込んでいる。

2018年期末の米国企業決算が出ているが、好調を維持している。この新型コロナウィルス感染拡大がなければ、NYダウは上昇した可能性もある。しかし、米国でも2人の感染を確認して、それの折り込みが必要になったことと、中国景気悪化で、世界景気悪化を警戒した株価下落になったのであろう。

そして、PwCが公表した最高経営責任者(CEO)の意識調査で、半数以上が今年の世界経済について減速を予想。83カ国のCEO、1,581人に実施した調査によると、世界経済の成長減速を予想したCEOは53%と、前年の29%を上回り、PwCがこの質問を開始した2012年以降で最も高い比率となった。

そろそろ、株価の最高値から下落しているのかもしれない。

日本の株価

日経平均株価は、1月17日24,115円になった。1月20日までは24,000円台をキープしたが、1月21日に中国政府が新型コロナウィルス感染拡大を発表した以降下落して、1月24日23,827円になっている。ということで、新型コロナウィルス感染拡大による下げである。

日経平均のシーズナルチャートを見ると、1月、2月に大きく下落すると言ったが、その通りになっている。

もう1つ、気になるのが、株1%以上に届け出義務という投資規制がかかるが、海外投資家らは不評であり、日本株への投資を控えるようであり、そのためか、1月20日の週は海外投資家の売り越しである。

もう1つが、GPIFが日本株比率25%を2020年3月までに見直して、下げるという噂があることだ。これも下げの要因になる。

新型コロナウィルス感染拡大

新型コロナウィルス感染者数は、1月27日15時現在2,817人になり、死者数も81人と、急増している。12月初めに最初の患者が出て、1月下旬まで感染拡大を無視したことで中国全土に広がり、パンデミックが起こった可能性が高い。

中国からのSNSの情報によると、「実態は隠されていた。医療関係者らは、10万人の命が危ないと主張したが、武漢市当局は物資不足を隠ぺいし、海外援助を拒否した。湖北宇宙病院の医師であるHu Dianbaoは思い切って外部に公表した。湖北省では10万人以上に発熱があり、病院は地獄のようで、どこにでも助けを求めている。しかし、湖北省政府は事実を隠蔽するために物資は十分あると語り、海外からの援助は断った」という。どうも感染規模は、SARSのときの10倍を超えているようだと情報元の医師はいう。

もう1つ、武漢生鮮市場に居た出稼ぎ労働者は、春節を前に故郷へ帰ったので、中国全土に新型コロナウィルス感染の拡大は起こりえるという。武漢封鎖も遅すぎたようである。

そして、武漢封鎖で、自動車産業の一大拠点での生産が停止して、その自動車部品を納入する日本企業、欧米企業などに影響が及んでくる。世界的な景気後退になる確率は高いし、中国経済でもGDPが1.5%程度も下押しすると言われている。

その上に、上海の一部地域も封鎖になり、上海ディズニーランドも閉鎖となり、武漢市の封鎖が遅かったために、北京や上海でも感染が拡大しているようである。武漢から上海や北京での感染拡大が封じ込めできるかどうかに焦点が移っている。もし、今後、上海と北京でも拡大すると、中国経済は一層の景気後退になる。

このため、北朝鮮や台湾は、中国からの観光客を入れたのようにしたし、フィリピンは、武漢から来た観光客500人を送り返したなど、感染拡大を防ぐ処置を厳しくしている。

とうとう、中国政府は1月27日から海外団体旅行禁止となり、個人旅行も制限するようである。中国全土に感染が広がり、海外に感染を広げることはできないということである。

米国は、自国民救出のために、武漢に特別機を出して、自国民を全員退去させることにした。日本は、中国からの入国者に本人申告のカードを配り、それで自己申告してもらうことを水際対策と言うが、それでは、日本での流行は起こってしまう危険性が高い。フランスに入国した女性は解熱剤で体温を下げて入国審査を潜り抜けたと、得意げにSNSで述べている。

中国は、日本の様な対応ではすり抜けが出てくることが心配になる。中国人感染者が中国より医療レベルが高い日本の医療を受けようと入国する可能性も考える必要がある。

ということで、性善説的な対応で、中国より防疫体制が明らかに弱い。専門家でも危機感が広がっている。中国は公共交通機関に乗る人全員に対して、検査を実施し始めた。

というように、中国政府以上に防疫体制の甘い日本で流行したら、問題になりそうである。安倍政権は、対応が甘く、政権維持のやる気を失っているように感じる。もう少し、危機感を持って取り組んでほしいものである。

もう1つ、心配なのが経済への影響で、日本への中国人観光客が来ないと、インバウンド消費がなくなり、日本の景気が悪化することと、中国経済の景気後退で、債務不履行や企業破綻が多発して「バブル崩壊」が誰の目にも明らかになることで、中国の「バブル経済清算」が起きることだ。もし起きると、中国の消費が激減して、日本から中国に進出している企業の業績も大幅なダウンになり、その観点からも新型コロナウィルス感染拡大を見る必要がある。この件は世界的な景気減速になるので、世界的に要注意である。

米国の貿易戦争と入国制限

トランプ大統領は、欧州が通商交渉を始めないなら、欧州車に25%関税を掛けるとダボス会議で述べた。米中通商交渉は1次合意で休戦状態になっているが、トランプ大統領は、今度は欧州との通商交渉を行うようである。

フランスは、米国企業にデジタル課税を掛ける方向で検討しているが、これに対しても対抗関税を米国は行い、フランスのワインなどに25%の関税を掛けると述べているが、一時休戦する方向で交渉をするとことで一致した。

これらに対して、ハーバー駐米ドイツ大使は、米国が自動車関税を掛けるなら、EUも米製品に同等の報復関税で対応する意向だと述べて、一歩も引かない姿勢を示した。EU全体でもデジタル課税を検討しているので、それも交渉対象になるようである。

ということで、とうとう、米欧の貿易戦争が始まったようである。

対中国では、米議会を中心に2020年2月より対米投資には審査が必要になり、特に懸念国の企業からの投資は、基本的に禁止になった。

また、NY市場に上場する企業に対しても、3年間企業情報の提供をしない企業の上場を廃止するという法案と、年金基金などの公的基金は、中国への投資を禁止する法案が、米議会で審議中になっている。

もし法案が成立すると、3年間情報の提供がない中国企業250社が、上場廃止になる可能性があるし、公的基金は中国への投資ができなくなる。米金融市場から中国企業の排除になる。

対して、中国は金融市場開放を行い、海外投資家らの中国企業投資を無制限にできる方向にして、そのため、米金融業界も準備をしている。米中の対応がどうなるのか、目が離せない。というような米中金融戦争が起きている。

また、トランプ大統領は、「(入国制限の対象国を)数か国追加する。われわれは無事でなければならない。わが国は安全でなければならない」と表明。対象国は7か国で、ナイジェリアやベラルーシ、エリトリア、キルギス、ミャンマー、スーダン、タンザニアで、特定の種類の査証(ビザ)発給を制限するという。しかし、追加される国の多くは、イスラム教徒が大半を占めておらず、この点で現在の入国禁止令の対象国とは異なり、一帯一路の関係で中国からの投資が多い諸国である。ここでも新しい戦争を始めるようである。

資本主義の修正

ダボス会議でも、資本主義の再定義が主題になった。資本主義体制の問題点が議論になっている。景気循環が中央銀行の金融緩和と資金放出で止まって、継続的に株価は上昇しているし、景気が上昇しているという。

トランプ米大統領は、ダボス会議の冒頭で演説し、米国経済の力強さで、失業率が半世紀ぶりの低水準に下がったことや対米投資の増加など、自身の大統領就任からの経済面での成果を列挙し、「米国は、世界がかつて見たことがないほどの好景気のさなかにあると誇りを持って宣言する」とした。会場に居た銀行経営者に対しても「私が、銀行の業績を上げているので、感謝してもよいのでないか」と発言している。

しかし、グッゲンハイム・パートナーズのスコット・マイナードCIOは、中央銀行の緩和的な金融政策による資産価格の膨張を「ポンジスキーム(ねずみ講)」になぞらえ、いずれ崩壊は避けられないと述べたし、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事も、世界大恐慌の再来を警告した。

資本主義の問題点は、経営者は株主が期待する株価を上げることであり、その期待に経営者が引きずられることで、資本主義がうまくいっているときは、社会全体に需要があり、拡大再生産が可能であり、売上高が上がり利益が増え、株価は上がることになる。

しかし、社会全体に需要がなく、生産拡大できないと売上高を増やせないので、利益が上げるために従業員の給与を下げるとか、1株当たりの利益を上げようと、自社株買いをすることになる。

金利が安いので、企業は株価を上げるために、社債を発行して資金を作り、自社株を買い、1株当たりの利益を上げて、株価を上げている。このため、中央銀行が金利を上げることは、企業経営者にとっては、死活問題となる。借り換えの社債の金利が上がり、金利分のコストが上昇して、利益が下がることになるからである。ゼロ金利であれば、無限回、借り換え社債を発行すればよく、コストなしで1株当たりの利益を上げることができる。

中央銀行も企業経営者の要望を無視できずに、金利を下げているし、資金を放出して、資産価値を上げている。金利が安いので、米企業の負債比率が史上最高値まで来ている。これは正常ではないと皆が思っている。

そのために、経営者に従業員や社会、環境にも配慮した「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」を求める声が高まっている。しかし、これを推進する制度もないし、株主の期待を裏切ると経営者は首になる。このため、このような資本主義を変えるには、仕組みを変えるしかないようだ。

ステークホルダー資本主義は本来、買い手、売り手、世間の満足を目指す「三方よし」と通じ、日本的経営となじみやすい。だがダボスで議論に積極的に参加する日本の経営者は少なく、日本の影は薄いが、そのようなシステム変更ができるのは、日本しかないように感じる。

資本主義の仕組みを変えて、修正資本主義にして、中国主導の「国家資本主義」に抗する新たな軸を来る必要になっているのだ。

逆に、中国は「国家資本主義」とも呼ばれる政府主導型で長期の安定成長を狙うようである。対峙する米欧は短期志向を脱し、資本主義に立脚した持続可能な安定モデルが求められているようである。

しかし、欧米では、どう資本主義の仕組みを変えてよいのか、よくわからないようだ。世界がやっと、中央銀行での金利と株価の統制という日本のモデルに追いついたことで、日本は次の資本主義修正モデルを作る必要になっている。

企業の上には国があるので、国が企業を緩く統制することである。法律で縛ることではなく、規範で縛り、規範違反が大きい時だけ、国が株主権利を行使するようなモデルになる見ている。

小さい企業が規範違反でもお咎めなしで、大企業のみお咎めありというモデルを作るには、法律での違反ではなく、規範で縛るしかない。このためには、中央銀行・政府が大企業の株主になっている必要があり、企業経営者に、企業価値は株価の上昇だけではないということを知らしめる必要がある。

日銀は、すでに大中企業では大株主になっている。日本は世界に先駆けて、資本主義修正モデルを作れる位置にいる。

その意味からも、日本の時代が来ている。バブル崩壊後、いつも、日本は、衰退途上国と言う資本主義の問題点と向き合う位置で世界に先駆けている。この40年、良いか悪いかを別にして、苦労して日本モデルを構築してきたのである。

もう1つ、規範を初等教育で教え始めて、日本人全員が、社会や他人への迷惑を意識する必要がある。高等教育にも安岡正篤氏などの日本的な論語思想が重要である。企業経営者としてのリーダーが持つべき規範をしっかりしないと、社員や国民に示しがつかない。このためには古典的な論語の教育が必要になっている。

予約の無断キャンセルや宅配での現金引換えでのキャンセルなど、日本人の規範意識が戦後の権利優先教育で弱くなっているように感じる。これは社会的コストを上げてしまうので、早急に是正することである。

さあ、どうなりますか?

image by: Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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