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中国に忖度なし。日本が学ぶべき、台湾の蔡総統「新型肺炎」対応

新型コロナウイルスを巡る台湾の対応が評価され、蔡英文総統の支持率が急上昇しています。すべてが後手に回り場当たり的と批判される我が国とは異なり、なぜ台湾は迅速かつ的確な手を打ち続けられるのでしょうか。台湾出身の評論家・黄文雄さんは今回、自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』でその理由を解説するとともに、日本の対中政策は蔡総統に学ぶべきと記しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年3月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】新型コロナへの対処法は「中国断ち」をした台湾に学べ

台湾総統の支持率が急上昇 新型コロナウイルスへの厳格対応を評価

新型コロナウイルスによる肺炎拡大を防ぐために台湾政府が行った施策が、内外で大きな評価を得ています。2月24日に発表された調査では、蔡英文総統の支持率は68.5%で、先月の総統再選後の調査よりも11.8ポイント上昇しました。国政選挙後に総統の支持率が高くなるというのは稀有な現象です。

こうした様子を、朝日新聞やハフィントンポストなど、海外メディアも大きく報じるようになっています。

2019年12月31日に中国の武漢市衛生健康委員会が第一報として「原因不明の肺炎の集団発生」を報じると、即日で注意喚起を行い、武漢からの旅客機内立入検査や空港などでの入国時の検疫体制を強化しました。

「日本とは大違い」台湾の新型コロナ対応が爆速である理由
台湾の新型コロナ責任者が国民の圧倒的支持を集めるワケ

日本では最初の感染者が発表されたのが1月16日。そして28日に新型コロナウイルスを「指定感染症」として閣議決定しました。しかし、台湾では感染者が1人も出ていない1月16日の段階ですでに「法定感染症」に指定しています。

1月24日には中国への団体旅行の中止を旅行会社に通達、中国からの団体旅行受け入れも中止を決定。同時に台湾政府はマスクの輸出禁止と出国者の持ち出し制限や高値転売の取締強化を打ち出し、マスク生産者への増産依頼、国民健康保険のIDを使用してのマスク配給、マスク製造業者への残業代の補填など、マスク不足対策を打ち出しました。

台湾人は、こういうときに中国人が爆買いや転売に走ることをよく知っています。そして、そのために混乱が起こることも、あらかじめわかっているのです。だから対応が早かった。

また、中国人の入国拒否も素早く行いました。1月25日には湖北省からの来台を全面的に禁止、2月6日からは中国に住む中国人の入国を全面禁止にしています。日本が1月31日に湖北省からの外国人の入国を禁止し、その後、2月11日になって入国拒否地域を浙江省に広げたという対応に比べると、その速度、徹底ぶりが違います。

日本は2月27日に全国の小中学校や特別支援学校への休校要請を行いましたが、台湾では旧正月の冬休みを2週間ほど延ばして2月24日までとしました。そして、その間の休校中に小学生の世話が必要となる保護者のために、看護休暇を申請できるようにしたそうです。

台湾は2019年5月、災害時にデマを流し、人を死に至らしめたり損害を与えたものに対して、最大で無期懲役までを科すことができる法律を成立させました。そして、今回の新型肺炎の騒動では、「トイレットペーパーは原料も製造も中国だからもうすぐなくなる」といったデマをSNSで流した3人の女性が逮捕されました。

台湾、トイレットペーパー品薄につながるデマを流した女3人を逮捕

台湾では中国が世論操作のために流すフェイク・ニュースに警戒してきました。民心を惑わし、民主主義を阻害するデマに対して、蔡英文政権は断固たる措置を取ると宣言してきました。そうした厳しい態度が、新型肺炎の蔓延を防いでいると思われます。

また、前述のデマによりトイレットペーパーが一時的に品薄になったときには、行政院長(首相)の蘇貞昌が、自身のフェイスブックで「咱只有一粒卡臣」(私たちのお尻は一つだけ)と台湾語で買い占めを自粛するよう呼びかけました。そのユーモアある言葉も、内外で話題になっています。日本のテレビでも、そのことが紹介されたようです。

「咱只有一粒卡臣」日媒推崇蘇貞昌式幽默

台湾人と中国人の衛生観念はまったく異なります。台湾は世界でも有数の医者の産地となっていますが、中国では儒教の影響で医者の地位は低く、現在でも患者による医者への暴力が横行していることは、このメルマガでも何度かお伝えしました。

台湾が今回の新型肺炎で徹底した衛生管理を行ったのは、2003年のSARS流行時に中国の嫌がらせでWHOからほとんど無視され、そのうえ中国政府が情報隠蔽をしたことによって、感染者346人、死者73人で、さらに感染疑いも含めると死者180人にも達する、多くの犠牲者を出したという記憶があるからです。

今回は3月3日時点で感染者42人、死者1人にとどまっています。

とはいえ、台湾人の衛生環境が最初から良好だったわけではありません。むしろ19世紀末まで「瘴癘」(伝染病)の地として、渡来人が住めない島でした。その頃の様子は「十去、六死、三留、一回頭」(10人行っても6人が死に、3人が留まり、1人が戻る)という諺が残っています。

そのような疫病がはびこる土地であったことは、中国の歴史書にも数多く書かれています。1697年、郁永河の『裨海紀遊』には、「瘴癘所積、人至即病、総戎王公命弁率百人戍下淡水(屏東)、才両月、無一人生還」(瘴癘がはびこり、人は死に至る、総戎王公は兵100人を率いて屏東に派遣するも、1カ月後には誰一人生還する者はいない)、1717年、陳文遠の『鳳山県志』には、「水土毒悪、歴任皆卒於官、甚至闔家一無生還者」(水土悪く、役人はすべて死に絶え、一家揃って帰ってこなかったこともある)などと書かれています。

こうした劣悪な環境を変えたのが、日本統治でした。日清戦争後の下関条約で台湾を永久割譲された日本は、すぐに基隆病院を設置し、医師や看護婦を送り込みました。とくに4代目の台湾総督・児玉源太郎の時代に民政長官となった後藤新平は、医者でもあったために、とくに衛生を重視した施策を行い、医学校の設立や医師免許の制定を行い、台湾医療の近代化と制度化を推し進めました。

また、亜熱帯地域特有のスコールの多い気候を考えて、市街地の建物に「亭仔脚」(廊下)を設けたのも後藤新平です。現在も台湾の都市部の建物の下には、雨に濡れずに歩けるアーケードがありますが、もともと後藤新平が導入したものなのです。

このように日本によって台湾の衛生環境が整えられ、同時に台湾人に衛生観念が植え付けられたことで、台湾はわずか日本統治50年で「瘴癘の島」から近代国家へと大変貌したのです。

台湾は世界一の医者の「産地」としても有名です。戦後日本の無医村には多くの台湾人医師が出向きましたし、戦前の満州国でも医師といえば台湾人が主役でした。

私の友人で、アメリカに渡り大学教授を長年務め、定年後に台湾に帰国した人がいますが、彼の話を聞くと、アメリカ政府から退職金をもらい、老後は台湾で生活するというパターンが最高だと思います。

というのも、台湾は医療費が非常に安いだけでなく、世界超一流の医療制度があるからです。ビジネスのため中国で暮らす台湾人も、病気になると必ず台湾に戻ってきます。それは中国の医療制度とは比べものにならないほど台湾のそれは素晴らしいからです。

2014年の夏、私は台湾の野党議員(当時)と一緒に、ポーランドのワルシャワから約3時間離れた医学校へ実地調査に行ったことがあります。ポーランドの医学校では、ロシア語ではなく英語で講義していました。

ポーランドの医学校では約600人もの台湾人が卒業していますが、台湾では、彼ら留学生に医師免許を出すかどうかで国会でも賛否両論が渦巻いています。とくに台湾の医学校出身者からすると、「台湾の医学校に入れないから海外に留学した落ちこぼれ」ということになり、彼らは医師免許の交付に大反対しています。

中国での漢方医の教育はたいてい7カ月程度であり、西洋医とは大きな差があります。

台湾の言語学者にして台湾独立運動の創始者、明治大学教授なども歴任した王育徳氏は、著作『台湾─苦悶するその歴史』で、台湾経営における日本の貢献に関して「衛生」という項目をはじめて評価すべき点として加えています。

その後、1997年に台湾で新しい歴史教科書として採用された『認識台湾』(歴史編・社会編)では、王育徳教授の説を忠実に受け継ぎ、大日本帝国の貴重な遺産として、「衛生」的貢献を記述、評価するようになりました。

台湾の衛生医療が進んでいるのは、日本時代があってこそです。これまでも述べてきたように、アジアのみならず世界の疫病の発生地となってきたのは中国ですが、20世紀以降、その疫病を治療、感染防止により収束させてきたのは日本だったのです。

武漢発新型コロナウイルスの世界大流行をめぐり、現在、中国政府は責任転嫁の相手を鵜の目鷹の目で物色しているところですが、台湾への嫌がらせも忘れてはいけません。

しかし、WHOからの台湾排除をやりすぎて、外国の記者からも「台湾人も人間ではないのか」とまで問い詰められてしまいました。そのため、先日スイスで開催されたWHOの専門家会議には、一応、台湾もオブザーバーとして参加が認められるようになりました。

習近平主席の4月の訪日は延期になりましたが、日本の対中政策については、自民党幹事長の二階俊博氏に振り回されることなく、むしろ台湾の蔡英文総統に学ぶべきです。


 

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image by: 蔡英文 Tsai Ing-wen - Home | Facebook

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年3月5日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。

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