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軍事アナリストが苦言。今年もあった防衛大卒業式の非任官者差別

防衛大学校の卒業式では、今年も任官を拒否した卒業生の式典出席が許されませんでした。この悪しき慣例が、任官後すぐに退職する「もぐり」のような卒業生を生んでいると問題提起するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、全員が任官したらそれこそ「正常さに欠ける集団」であり、非任官者も含む卒業生の団結が日本の国家安全保障にとって重要であると持論を主張しています。

非任官者は防衛大学校学生綱領に忠実

今年も防衛大学校の卒業式について、書いておきたいと思います。3月22日に行われた防衛大学校の卒業式(本科卒業生437人)は、新型肺炎(新型コロナウイルス感染症)の感染防止のため家族や来賓などが出席しない形で行われました。

ちょっと淋しくはありますが、それはまずよいとして、今年もまた自衛官に任官しなかった35人について式典への出席を認めず、別室で卒業証書を渡しました。それが日本の国家安全保障上、由々しき問題をはらんでいるのですが、河野太郎防衛大臣はじめ、関係者は理解していないようです。

この日の記者会見で、河野防衛大臣はジャーナリストの清谷信一氏の質問に次のように答えています。

清谷氏「任官拒否については、第2次安倍政権から任官拒否を卒業式に参加させないというのは、いじめではないでしょうか。任官拒否をするということは、防衛大学校に入ってから、考え方が違うとか、自分が向いていないとか適性のこともあると思いますし、そういった人達をのけ者にする。卒業した人間を、やっぱりみんな一様にやるべきではないでしょうか。そういうふうには思われませんでしょうか」
河野大臣「特に思いません」

実を言えば、それまで叩かれる一方だった非任官者について、最初に正面から取り上げたのは私なのです。1986年のことです。講談社『週刊現代』に「任官拒否」というタイトルで短期集中連載し、それに加筆したものを『リーダーのいない経済大国』(1987年、太陽企画出版)という単行本にまとめました。1期生から26期生の瀧野隆浩さん(毎日新聞編集委員)まで13人の非任官者に登場してもらっています。

そのとき指摘したのは、18歳で入学した全員が任官したらそれこそ「正常さに欠ける集団」であり、20%くらいは他の分野に進むくらいが健全な組織であること、海上保安大学校などと比べても防衛大学校の学生にかかっている税金は多額とは言えず、特別職国家公務員の課業として教育・訓練を受けている立場を考えれば「食い逃げ」ではなく、学生手当を返済する必要はない、といった点でした。

その後、「任官拒否」という言い方についても、少なくともジャーナリズムは「非任官者」と表記すべきだともいい続けてきました。「任官辞退」は防衛省側に立った言い方ですし、任官拒否は反体制的な動きということを前提に、肯定的、否定的両面からのニュアンスに分かれるからです。

「同じ釜のメシを食べた同期生として、温かく送り出すべきではないか」ということも言い続けてきました。卒業式に出席させないという措置は、「同じ釜のメシ」についての考えが確立していないと言わざるを得ません。防衛大臣が替わっても同じように続いているので、おそらくは校長か防大幹事の考えによるものだと思いますが、これは改めるべきです。

防衛大学校卒の非任官者が一般社会に出てからも自衛隊を支え続けること、これこそ他国の侵略の意図をくじく「国民的抵抗の意思」の中核と言わずしてなんと言うのでしょうか。そのことに気づいた防衛大学校同窓会は、20年以上前、非任官者を排除してきた悪しき慣行を改めました(かつて非任官者が作った小原台クラブは、任意団体として現在も存続しています)。

このように、卒業生の団結が日本の国家安全保障にとっても重要であることをわかっていれば、非任官者を卒業式に出席させないなどという度量の狭い扱いはあり得ないことです。

そんなことをしているから、表向きは任官するように見せかけ、陸海空の曹長の階級章に幹部候補生徽章をつけて防衛大学校の校門を出たあと退職するという、薄汚い「もぐり」という姑息な手段に走る卒業生が出てくるのです。

自らの意思を明らかにして任官しない道を選ぶ学生こそ、防衛大学校の学生綱領(廉恥、真勇、礼節)に相応しいという評価に変わって欲しいと思います。(小川和久)

image by: shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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