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専門家も掴めない北朝鮮の感染状況と脱北者が語る悲惨な医療実態

肥料工場の現地指導に姿を現し、金正恩氏の隠遁騒動については決着を見ましたが、新型コロナウイルスの感染拡大以来、北朝鮮国内の情報を収集するのは専門家でも困難になっているようです。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で、北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんは、自身の情報源である人物も新型コロナに関しては「口が重い」と明かします。そんななか、『統一日報』に掲載された脱北者の手記から、北朝鮮で感染症が発生した場合の悲惨極まりない実態を紹介しています。

今年は田植え戦闘ではなく金正恩隠遁と新型コロナ

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「雲隠れ」して20日ぶりに姿を現した。毎年この時期の北朝鮮情報と言えば「モネギチョントゥ(田植え戦闘)」の話題なのだが、今や北朝鮮情報の関心事と言えば、「金正恩の隠遁(避難・雲隠れと重体・死亡説)と「コロナ感染者を巡る話題」である。

金正恩が満を持して出現した順川燐酸肥料工場の現地指導の映像で、前者の騒動はけりがついたが、後追いじゃんけんスタイルで申し訳ないが、実に幼稚で下らない情報かく乱であった。

もっともいまだに「金正恩死亡説」を唱えている評論家が日本にいると知人が教えてくれたが、私はこの同業他者(?)なる人物のことは寡聞にして知らないので、聞き流したが、「三国志」に登場する「死せる孔明、生ける仲達を走らす」とか「武田信玄の影武者」ではあるまいが、「白豚」と揶揄されている金正恩の動静は西側の情報筋や、何よりも平壌に大使館を置いている中国側の情報をキャッチすれば分かることである。

武漢発新型コロナの感染状況についても、北朝鮮では感染者ゼロとの報道がなされているが、北朝鮮はただWHOに「我が国は感染者ゼロです」と報告しただけで、誰もこのことは信じないのは周知の事実だ。

北朝鮮でコロナウイルス感染者がゼロであるはずがないなかで、「北、コロナ死者267人 実態隠蔽 すべて『疑い例』処理」という記事が新聞に載っていたが、この情報は、北朝鮮の軍出身者らで作る韓国の脱北者組織「北朝鮮人民解放戦線」がまとめた幹部用の報告書から引用しているが、実際のところはどうなのか。この報告書では中国に近い地域での感染が目立つと、地域ごとの「隔離者数」、「死者」を公表しているが、どこまで信用していいものかという疑問もある。

私が頼りとしている中朝国境に住む朝鮮族の情報提供者から何か生の情報でも入手できればと試みているが、事この件に関しては口が重い。中朝国境踏査のときに何度か行った朝鮮族の食堂のおやじさんが言っていた「向こう側(北朝鮮)との密輸は両国関係がどうであろうと関係ない。どんな状況のもとでも密輸は続けるよ」と言っていたことを思い出した。北朝鮮側からどのような物の要望があるのか、その品目を知れば北朝鮮内におけるコロナ感染状況の一端を知ることができるのだが、残念ながら「生の情報」は収集できない。

このような中で『統一日報』(2020年3月11日号)「ノースコリアンナイト──ある脱北者の物語──26」に「伝染病が発生しても誰にも頼れず、どこにも救いのない国」という記事があった。

「私が知る限り北朝鮮当局は国内でも情報共有をしなかったし、感染症に対処する能力も意思もなかった。衛生環境と栄養状態が悪い北朝鮮では、1995年以降の経済難に陥ってからいろいろな伝染病が以前より蔓延していた。伝染病が発生しても病原菌を分析するシステムがないので、病院に行くと医者が問診したり熱を測ったりして、病名を告げられて終わりだ。不安になって他の病院に行くとまた違う病名を言われるので、最初から病院に頼らないでアヘンを使って治療するのが普通になっている。

 

北朝鮮でアヘンは家庭の常備薬であり万能薬だ(これについては宮塚も脱北者の聞き取り調査で同じようなことを聞いている)。病院に薬はないので、医者に書いてもらった処方箋を手に個人の闇薬局に行くのだが、お金のない人は薬を買えないし、買えても中国から入った不法製造の薬で効果があるか分からない。

 

病院にある薬は国際支援で入った薬が多く、幹部用とお金持ち用で、目の前で死んでいく患者がいてもその『所蔵薬』は対象者以外には絶対使わない。…伝染病が発生した初期には衛生防疫所と軍隊が派遣され、発生地域を封鎖して消毒剤を撒いたりする。しかし、拘束時間が長くなると派遣された人たちの食料が調達できず、また派遣された人たちは防疫服などないため、病気がうつるのが怖くて逃げてしまって、封鎖地域の人は食べ物などを手に入れるためにあっちこっち行くからどんどん広がるのだ。一番ひどい状況は、伝染病で死んだ人の死体処理だが、その中でもひどいのは軍隊と教化所(刑務所)での死体処理だ…」

全文を紹介したいが長くなるのでこの部分までの紹介で終えるが、北朝鮮のコロナ感染者ゼロ説を唱えるアメリカの北朝鮮問題の専門家が、「北朝鮮が新型コロナが国境を越えるのを阻止するのに成功した可能性はあると思う」と述べたというが、果たして1500キロメートルにおよぶ国境線を完全に封鎖することはできたのだろうか。私はこの専門家にぜひ会って聞き出したいものである。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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