世界的人気となったニンテンドースイッチのゲーム「あつまれ動物の森」。自分の島を思い通りに作れるというこのゲームは、コロナ自粛も重なり、空前のヒットを記録しましたが、単なるゲームではない利用がされたことでも知られています。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、「あつ森」は香港ではデモ活動の場としても使われ、ゲームの中で反中闘争を展開していたと指摘。今やゲームは政治面でも欠かせない重要なアイテムとなったと述べています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年7月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国・台湾】ゲームの中で展開される反中闘争
● 台湾・故宮博物館も「あつ森」に 「翠玉白菜」などの名品を無料公開
今や世界中で大人気のニンテンドースイッチ「あつまれ動物の森」というゲーム。コロナ自粛があったからこその盛り上がりですが、今や世界中のプレイヤーによって独自の世界観を確立しています。
「あつまれ動物の森」(通称「あつ森」)というゲームの前身は、「とびだせ動物の森」というゲームだったそうです。ご存じの方も多いと思いますが、プレイヤーは、キュートな動物たちのキャラクターがたくさんいる自分の村に、様々な仕掛けを使って家や村民のための施設などをつくり、村を経営する一方、動物たちのコミュニケーションを楽しむという内容で、多言語に対応し、オンラインで「あつ森」仲間との交流も可能だということです。
コロナ自粛の中、自宅でゲームをする人が増えたことから、世界中の関心を集めました。あまりの人気で商品の品薄が続き、破格での転売も登場するなどの社会現象も生まれています。定価の数倍でも売れるとの報道もあります。
韓国では、今でも日本製品の不買運動を推進するグループがいる一方で、「あつ森」を求める人々が家電量販店で長蛇の列を作るという現象が起こっています。また、報道では、韓国ではマスクよりも入手困難だという表現を使っています。
● 不買運動も一蹴する「どうぶつの森」はマスクより入手困難?韓国でも人気
この「あつ森」、注目すべき点は、様々な立場の人々が、それぞれの思惑で使いこなしているというところ。例えば香港。香港では、コロナの感染を防ぐためにデモも禁止されたため、デモ活動の場として「あつ森」が使われました。以下、報道を一部引用します。
「USgamerによると、『あつまれ どうぶつの森』の中で香港デモを行う人物の島におでかけした際の様子を、『島に入って最初に出会ったのは、香港の林鄭月娥行政長官の写真の口元に、犬のエサ皿が置かれたものでした』と記し、そのスクリーンショットを公開しています。
このほか、島内には警察の残虐行為に関する公式の調査を求める声明や、デモ参加者への恩赦などを求める文字が、マイデザインを駆使して床に貼り付けられているとのこと。USgamerは『何かしらの抗議の文面などに突き当たることなく5フィート(約1.5メートル)を走ることもできません』と記しています。
USgamerによると、香港デモが行われている島へおでかけした際に、島の住人から黒マスクを渡され黒服に身を包むこととなったと記しています。
(中略)
20代の学生であるTwitterユーザーの@heung_yanさんは、これまでどうぶつの森シリーズをプレイしたことがなかったそうですが、香港で都市封鎖が発表されて以降、あつまれどうぶつの森を使ってデモ活動を続けてきたそうです。@heung_yanさんはゲームを入手してから2日後に香港デモ用の黒いシャツやアートワークをマイデザインで作成したとのこと。このアートワークはデモ参加者の間で人気を博している模様」
● 「あつまれ どうぶつの森」が香港デモの参加者が感染を気にせず集まることができる新たな場に
上記の報道には、林鄭月娥行政長官の写真の口元に犬のエサが置いてある場面や、デモのスローガンが書かれたポスターが地面一面に張ってある場面のスクリーンショットを見ることができます。
一方でアメリカでは、コロナで卒業式が中止になった友人のために、「あつ森」内で卒業式を行ったという人もいます。卒業生のスピーチは、ボイスチャット機能を利用。
● 新型コロナで”あつ森” が世界的ヒット 米メディアは「隔離生活のパーフェクトな過ごし方」と評価
冒頭の記事にあるように、台湾では故宮博物館の「翡玉白菜」などの名品を「あつ森」に無料公開しました。すでに、アメリカのポール・ゲティ美術館やメトロポリタン美術館などが所蔵する一部の画像を「あつ森」で無料公開しています。台湾はそれに追随した形です。
美術品の画像は、「あつ森」の中でどう使うかというと、自宅の壁に飾ったり、地面にペイントしたり、旗のデザインとして使ったりと、用途は様々です。自分好みの美術品をダウンロードして、美術展を開くこともできます。
各美術館や博物館が、所蔵の美術品を無料でゲーム内に公開するのは、コロナ支援の一環でもあり、豊富な美術体験を楽しんでほしいとの思いからということです。
● 台湾・故宮博物館も「あつ森」に 「翠玉白菜」などの名品を無料公開
また台湾では、台北市立動物園が園を代表する5種の動物のイラストを公開しました。公開されたのは、ジャイアントパンダ、タイワンツキノワグマ、レッサーパンダ、ウオミミズク、ユーラシアカワウソの5種です。ゲームを楽しみながら、動物保全の重要性を伝えるためだそうです。
● 台北市立動物園も「あつ森」に参入 園の人気者のデザインを配布/台湾
かつて、私が幼いころは、台北に行くといえば台湾神社とその近くにある圓山動物園でした。今の台北市立動物園のことです。大戦中、野獣の被害を恐れて、ほとんどの動物は殺されたと言われています。数年前、私はいまの台北市立動物園に孫を連れて行き、半世紀ぶりに再訪を果たしました。台北郊外の山中にあるのは昔と同じで、かなり広い敷地面積です。
話がそれましたが、商業界もこの動きに注目し、様々なファッションブランドが「あつ森」で独自のファッションを公開し、商機を狙っています。台湾の故宮や動物園が「あつ森」に参加したということは、少なくとも「あつ森」の中では台湾が世界の美術館などと肩をならべているということです。
それは中国が最も忌み嫌うことです。しかし「あつ森」は、台湾が政治経済だけでなく、文化の分野でも国際的に注目される魅力を持っていると発信しています。
2020年1月の台湾総統選挙では、蔡英文総統陣営が蔡英文をモデルにしたと思われるキャラクターを使ったゲームアプリを公開して話題を呼びました。今や、ゲームは政財界に欠かせない重要アイテムとなっているようです。
image by : Jimmy Siu / shutterstock