菅新総理が掲げる目玉政策の1つ「携帯電話料金の値下げ」について、前回の記事で「航空券にたとえるなら『LCC殺し』と一緒」と評し、キャリア大手による寡占状態を助長すると警告したケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さん。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では、菅政権誕生後初のキャリア側トップ、KDDI高橋社長の会見で示された値下げ要求への回答を紹介。国側への配慮の中にも不満と困惑の本音がチラついていると読み解きます。
KDDI高橋社長が「菅総理4割値下げ」を真摯に受け止め――「マルチブランドで低廉な料金を提供していく」
9月25日、KDDIが5Gサービス新製品発表会を開催。菅総理の誕生後、初めてキャリア社長が登壇するイベントということもあって、発言が注目された。
質疑応答の冒頭、「本日、発表された内容に限る」という注意がされたが、当然、そんな無理な要請に記者たちが納得するわけもなく、のっけから料金値下げに関する質問が飛んだ。
高橋誠社長というか、広報的にはもちろん想定問答を用意していたようで、かなりの長文が読み上げられた。以下、高橋社長の回答。
「総理大臣、総務大臣からご意見をいただいている携帯電話料金の値下げ。我々としてもこの要請に対して、真摯に受け止めなくてはいけないと思っている。対応方針については検討していきたい。
当社はこれまでもお客様のニーズ、政府からの要請もあり、より低廉な料金をお届けしなきゃいけないと頑張ってきたつもり。auとしては2017年7月にピタットプラン、フラットプランという料金と端末の分離プランもいち早く導入した。
5G時代に向けたデータ容量も無制限で使い放題のプランを出している。NetflixなどのOTTプレイヤーと組んだプランも業界初で導入してきた。一方、10月からはMNO事業として承継したUQ mobile事業で、低廉で使いやすい料金を提供していく。
MVNOのBIGLOBE、J:COMを通じて、低廉な料金を提供していく。今後もauブランドとして、多様なサービスをデータ容量を気にせず、無制限で使えることを提案することを大事にしたい。
一方、UQブランドではシンプルで、なおかつ、お手頃価格にこだわった提案をしていきたい。これに加えて、MVNOのグループ会社を含めてマルチブランドでご提供したい。お客様の用途に合わせた料金プランをお届けするのが重要だと考えている。
5Gの展開については精一杯やっていくつもり。日本に比べて諸外国のスピードが速い。1周も2周も遅れている状況になっているのではないかと認識している。政府が掲げるSociety5.0の基盤が5Gであるので、こちらのほうもスピード感を持って、エリア展開していきたいというのが我々の使命。こちらも積極的に展開したい。
我々は公共の電波を使わせていただいている。そういう立場は理解している。昨今、頻発する自然災害に対して、24時間365日、1日も早く災害の復旧にも対応をしていかないといけない。コロナウイルス禍の中、しっかりと対応していく。社会の環境がこれだけ急激に変化する中において、公共の電波を使わせていただいている中、事業者としての使命はしっかりと果たしていきたい。
いずれにしても国際的に比較しても遜色ない料金を求められていることは重々、承知している。政府、総務省の要請に真摯に受け止める。
ただ、我々企業として持続的に成長しなければならない。通信だけではなく、それ以外の事業も含め、持続的に成長することも含めて、しっかり要請にau、UQのマルチブランドで対応し、さらなる低廉化に向けて頑張って参りたい」
かなり厳選された言葉が並んでいた。しかし、節々には「これまでも総務省に言われたことはやっている」「Society5.0を進めていくために5Gネットワークを作っていくのにお金もかかる」「災害対策もしなくちゃいけない」「UQモバイルという料金プランの安い選択肢もある」「株主の手前、企業として成長もしなくちゃいけない」という本音がチラついていた。
ただ、個人的に聴きたかったのは菅総理からの難癖をどう感じているかという点だった。「利益率20%なんて儲けすぎだ」「電波利用料を上げてやる」というプレッシャーに対して高橋社長はどんな答えを用意していたのか。利益率20%の発言については「先ほどお話しした内容が全て。いずれにしても利益率も大事だと思うが、大事なのは国際的に比較しても、しっかりと遜色のない料金が大事。そこが一部、劣っているというご指摘ではないか。そこに着目して検討していきたい」と明確な回答は避けた。
一方で、電波利用料の見直しについては「電波利用料について、よくわからないところがある。これから議論がされていくのではないか。単純にはコストが上がると(料金に)反映していくことになるが、このあたりは正確に総務省からお話をいただいているわけではないので、議論を見守っていきたい」と困惑している感があった。
総務省としては年内にも方向性を示したいなんて話があるようだが、それにしてはあまりに時間がなさすぎる。キャリアとしても、方向性が見えなければ、料金値下げに着手できない。総務省がどう出てくるかが注目と言えそうだ。
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