菅総理の「携帯値下げ」を航空券にたとえるなら「LCC殺し」と一緒

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菅新総理が目玉政策の1つとして掲げる携帯電話料金の値下げ。内閣発足後すぐに武田良太総務大臣と会談し、その強い意欲を示したことで、携帯キャリア大手3社の株価は軒並み大きく下落しました。しかし、新総理の政策により苦しめられるのは本当にキャリア大手なのでしょうか。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者で、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、「低価格を売りにする格安スマホや格安SIMへ移行する利用者が減ってしまう」と、航空業界の構図を例にわかりやすく解説しています。

菅総理の圧力にキャリアは戦々恐々――キャリアの大幅値下げでMVNOは生き残れるのか

菅総理が誕生したが、自民党総裁選立候補の記者会見から「携帯電話料金を値下げする」とアピール。メディアやSNSでの反響がすこぶるいいせいか、再三、値下げを訴えている。武田良太総務相も便乗し、「1割値下げ程度じゃ許さん」と発言。欧州並みの4割値下げに執念を燃やしている。

この騒動を受けて、キャリは株価を落とす一方、日本通信などの株価は上昇している。しかし、本当にキャリアで値下げが実現すれば、逆にトバッチリを受けるのはMVNO(格安SIMを提供している事業者)の方ではないか。

現状、キャリアの通信料金が高く感じるからこそ、格安スマホを提供するMVNOの存在価値があるというものだ。これで、キャリアの大容量プランが値下げに踏み切り「安くてたくさん使える」ようになれば、格安スマホの出番はなくなる。当然のことながら、全国にエリアを広げている途中の楽天モバイルも、早晩、用無しとなる。

Twitterにも書いたが、空港の発着枠を与えられている航空業界は、フルサービスキャリアと格安航空会社(LCC)が共存している。マイルが溜まり、座席の広さも確保され、飲み物も無料。遅延や欠航した際にはしっかりとサポートしてくれるが、航空券の金額はそれなりのフルサービスキャリア。

一方で、マイルはたまらず、座席も狭く、飲み物は有料。遅延や欠航した際には自分でなんとかしなくてはいけないものの、破格の金額で乗れることもできるLCC。ユーザーが時と場合によって、自分でどちらかを選べるからこそ、フルサービスキャリアとLCCの存在価値があるというものだ。

菅総理がやろうとしていることは、全日空や日本航空に「空港の発着枠を割り当てもらっているにも関わらず儲けすぎている。値段を下げろ」と迫っているようなものだ。国民目線としては「フルサービスキャリアが安く乗れる」と大歓迎かもしれないが、競争相手となるLCCにとっては逆風でしかない。

本来であれば、LCCというかMVNOが競争力をつけるための政策を打つのが政府のやるべきことではないのか。実際、2年縛りの見直しやMNPの無償化など、ユーザーが移行しやすい環境は整備されてきた。

しかし、一国の総理が「キャリアは値下げすべき」とメディアで散々、発言すれば、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクを使っているユーザーとすれば「このまま、居座っていたら、安くなりそうだ」とMVNOや楽天モバイルに見向きもしなくなりつつある。

3キャリアの解約率が落ち、MNPの数字が伸び悩んでいるところをみると、菅総理の発言が市場の流動性を落としているような気がしてならない。競争環境の足を引っ張っているのは、菅総理自身であることは間違いない。誰か、菅総理にきちんと伝えたほうがいいのではないだろうか。

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日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

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