中国による台湾へのあの手この手の揺さぶりが、エスカレートの一途を辿っています。その裏に習近平政権の焦りがあると指摘するのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、国の内外に存在する「焦燥の原因」を記しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年10月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【台湾】台湾人スパイの懺悔をでっち上げる滑稽な中国の焦り
● 中国「台湾スパイ数百件摘発」 香港デモ参加者が公開懺悔も
中国が、あの手この手で台湾を揺さぶっています。コロナ後、世界で存在感を示し始めた台湾に対して、評判を落とすばかりの中国。その対比に焦りを感じたのか、中国から台湾への嫌がらせがどんどんエスカレートしています。
軍事的な威嚇はいつもの手でした。空と海で、お約束通りの嫌がらせです。空では防空識別圏への侵入。
● 中国軍機が東沙島に接近 台湾防空識別圏進入は9月中旬以降15回目
海では、中国の軍艦が台湾の接続水域を航行しました。
● 中国軍艦、台湾の接続水域に接近 国防部「把握、対応している」
特に空での接近は頻繁で、2020年10月10日のニュースでは、9月16日から10月9日の間に、中国軍機が15回も台湾南西の防空識別圏に侵入。報道によれば、実弾射撃を伴わない軍事演習を実施していたとのことです。
● 中国軍機が東沙島に接近 台湾防空識別圏進入は9月中旬以降15回目
そして迎えた2020年の10月10日の国慶節の式典で、蔡英文総統が行ったスピーチに対して、どうやら中国はさらにお怒りのようです。スピーチの内容は、以下、報道を引用します。
台北市の総統府前広場で10日、中華民国の建国記念日に当たる「双十国慶節」の祝賀大会が開かれ、式典に出席した蔡英文総統は演説を行った。対中関係について「両岸(台湾と中国)関係の安定を維持する決意がある」と強調しつつも、「これは、台湾だけが背負うことができるものではなく双方の共同責任だ」として中国に対し、台湾の主張を正視し和解や平和的な対話を共同で実現させるよう呼び掛けた。
台湾を巡っては、米国から8月にアザー厚生長官が、9月中旬にはクラック国務次官が相次いで訪問し、関係の緊密化を印象付けた。これに反発した中国はクラック氏が訪台前日の同16日以降台湾周辺の空域で軍用機の活動を活発化させ、台湾は警戒を強めている。
蔡氏は、演説の中で国防政策や経済戦略などにも言及し、非対称戦への対応力の向上や周辺国との安全保障面でのパートナーシップの強化、サプライチェーンの再構築への全面関与などに意欲を示した。
一方、世界から評価されている台湾の新型コロナウイルス対策をアピールし、医療従事者の尽力や国民の協力に感謝の言葉を述べた。
この「双方共同の責任だ」という部分が気に入らなかったようです。これは、関係改善に向け「対等な立場での対話を望む」姿勢を示したものであり、台湾と中国が「対等」だなどと図々しいにもほどがある、ということでしょう。
もちろん、これに対して中国側は強烈な不満を表明しています。同時に、このスピーチの後、中国は国営中央テレビで連日「台湾のスパイ」についての番組を放送して、蔡政権をけん制しました。
● 中国国営テレビ“台湾のスパイ”連日放送 蔡政権をけん制か
番組は10月11日から連続3日間放送されました。番組で登場した台湾人の李孟居氏は、中国当局に拘束されただけでなく、テレビカメラの前で「過去に悪事を多く働いた。祖国や国家を傷つけることもあったかもしれない」と、謝罪までさせられています。
李氏は、2019年8月に単身で香港に渡った後に消息不明になっていた人物だったそうです。番組の中では、李氏は国家安全維持法の導入で混乱している香港情勢を利用し、香港独立を図った罪で拘束されたと説明され、拘束時、彼が持っていたビラやポスターなども番組で放送されました。
このことは台湾のマスメディアでも大きく取り上げられ、蘇貞昌行政院長(首相)は、以下のようなコメントを出しています。報道を一部引用します。
中国は決まって無実の人に存在しない罪をかぶせて侮辱し、恐怖をあおると不快感を示した。
対中政策を担当する大陸委員会は12日、中国に対し、強い抗議を改めて表明するとし、罪をでっち上げて台湾人を理由もなく陥れるのはやめるべきだと訴えた。
● 中国国営放送「台湾スパイ」謝罪再び 蘇行政院長「大国のやることではない」
また、頼清徳副総統は次のようなコメントを出しています。報道を一部引用します。
頼清徳副総統は12日、イベント出席後に取材に応じ、両岸の意見の不一致を解決するため、中国は対話に応じるべきだと呼び掛けた。また、李さんや李さんの家族に対し必要な支援を政府として行っていくとの姿勢も示した。
● 中国当局に拘束の台湾人、番組で「過ち」認める 大陸委「悪意ある政治操作」
その問題の番組は、CCTV(中国国家中央テレビ)の『焦点訪談』という番組です。
● 焦点訪談・台湾間諜窃密案 《魅影重重》| 第一集《別有用心的“商人”》
この番組を見た私の感想としては、登場する警察官やイメージ映像などがとても芝居がかっているなという感想です。李氏がアメリカでも台湾独立活動を水面下で行っていたといった、壮大なノンフィクションになっています。李氏にはビジネスマンという顔のほかに、台湾独立分子の台湾スパイの顔もあった、という内容です。
まあ、国家間の駆け引きにおいて、スパイという存在は必要悪です。それにしても、情報合戦に長けている中国が、こんなわざとらしい番組をでっちあげて台湾を攻撃するとは、よほど焦って作ったとしか思えません。それほど中国は追い込まれているのではないでしょうか。
台米の距離が縮み、世界では台湾を支持する国家が増える一方で、中国の一体一路政策に不満を抱く国家が増えている現状、中国のメンツは丸つぶれです。
国内にも変化がみられます。今や中国の若者は、以前ほど愛国精神といった愚民教育にそまっていません。拝金主義の中国社会で、どれだけ自分が生き抜けるかに必死です。これについては2018年にNHKが「三和人材市場」という番組を放送しました。
● BS1スペシャル「三和 人材市場~中国・日給1500円の若者たち~」
国内政策も対外政策も思い通りに進まない中国共産党こそが、袋小路にはまってしまったのではないでしょうか。
習近平が、いくら国内でAIやデジタルによる人民監視を徹底させてても、自己を神格化するような時代錯誤ぶりです。中国は確かに14億の人口を抱えています。しかも、総人口は時代とともに昂進し続けています。一方で国際競争力は、2025年には中国のGDPはインドに追い越されるとも予測されています。
ことにトウ小平の改革開放路線以来、中国は世界最大の通商国家となりました。一部の食料はインドやタイなどからの輸入に頼り、イデオロギー資源も輸入に頼っています。すでに毛沢東時代の農牧時代とは違い、安定のみが課題の貿易(通商)国家に変わりました。そのため、どの国に対してもケンカ腰ではやっていけない国となっているのが現状です。
今は、AI、サイバー、宇宙、電磁波などが国力の勝負を決める時代であり、ミニ国家や都市国家のような小国がモノを言う時代です。いまだに中国が強大で、いつでも国家総動員ができると勘違いしている国家指導者たちは、明らかに時代錯誤であり、そんな国家指導体制下にある国民も時代錯誤なのです。
~中国五千年の疫病史が物語るパンデミック』
好評発売中!
image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年10月14日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※ 初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
2020年9月配信分
- 対米戦略に国連中心主義を持ち出した中国の欺瞞/「中国の台湾化」が世界を救う(9/30)
- 人民解放軍の「文攻武嚇」PRのお粗末ぶり/習近平が目指す全体主義の正体(9/23)
- 強まる弾圧と狭まる習近平包囲網/歴史を知らない韓国人が歴史を説教する厚顔(9/16)
- 9月15日から、ついに世界で敵と味方が明確になる/中国と絡むと映像作品も政治になる(9/09)
- 安倍首相辞任、次期総裁選びと親中派の焦り/世界の民主主義国が台湾を訪れて連帯を示し始めた(9/02)
2020年8月配信分
- チベット人の自由と権利のために戦った女戦士の死/世界が辟易し始めた韓国のご都合主義とOINK(8/26)
- ドル経済圏から追放される中国の焦り/台湾に受け継がれる日本人の自然観(8/19)
- なぜいま中国は香港民主活動家を次々逮捕するのか/香港潰しの次に中国は確実に台湾を狙う(8/12)
- 反日親中メディアの終焉/李登輝元総統との思い出と台湾が抱える課題(8/05)
2020年7月配信分
- 銅像で相手を貶めるのは中華の文化/ようやく中国の本質を理解したアメリカ(7/29)
- いよいよ日本企業も中国企業との取引が生死を分けるときがきた/三浦春馬氏の死に衝撃を受ける台湾(7/22)
- 中国にとって国際法とはなにか/「台湾鉄道の父」を日本人から中国人に変えようとする姑息な動き(7/15)
- 日本も本気で中国のスパイ対策に乗り出すべきとき/徴用工問題の報復を恐れる韓国が狙うWTO事務局長(7/08)
- 次は台湾を狙う中国と、滅びゆく香港の力を結集する台湾/三峡ダム決壊が招く中国分裂(7/01)
2020年6月配信分
- 朝日新聞が「中国の宣伝機関」としてアメリカに認定される可能性/ゲームの中で展開される反中闘争(6/24)
- もう歴史問題で韓国を相手にしても意味がない/ついにウイグル化がはじまった香港(6/18)
- 中国に近づいてやっぱりバカを見たインドネシア/台湾で国民党独裁からの民主化を描いたドラマ解禁(6/10)
- 中国のアメリカ暴動への関与疑惑が出はじめた/コロナで中国は旧ソ連と同じ道を辿るか(6/03)
2020年5月配信分
- 中国制定の「香港国家安全法」が日本の護憲派を殺す/親中カンボジアの「中国に近づきすぎたツケ」(5/27)
- 中国の恫喝はもう台湾に通用しない/世界が注目する蔡英文の総統就任スピーチ全文(5/20)
- 「元慰安婦」から反日利権を暴露された韓国慰安婦支援団体/中国から台湾に逃げてくる動きが加速(5/13)
- アメリカが暴露した中国の悪質な本性/韓国瑜へのリコール投票に見る「コロナ後の台湾」の変化(5/06)
2020年4月配信分
- 世界からの賠償要求5500兆円!中国は破産するか/他国へも情報統制を求める中国の卑劣(4/30)
- 「アベノマスク」も被害。今度は不良品マスクを世界に拡散する中国/フルーツ天国・台湾は日本人がつくった(4/22)
- コロナ発生源の中国が今度は黒人に責任転嫁/台湾発「WHO can help?」が世界に問いかけること(4/16)
- もう国民が国内旅行を楽しむ台湾と、緊急事態宣言の日本(4/08)
- 台湾の民主化とともに歩んだ志村けんさん/死者数の嘘が暴かれ始めた中国(4/01)
2020年3月配信分
- 欧州の新型コロナ感染爆発は中国共産党員が原因だった/国内では隠蔽、海外では恩の押し売りを続ける中国(3/26)
- 習近平の「救世主化」と天皇利用への警戒/小国発展のバロメーターとなる台湾(3/18)
- 【台湾】新型コロナ対策で注目される台湾の若きIT大臣が日本に降臨!?(3/11)
- 新型コロナへの対処法は「中国断ち」をした台湾に学べ/新型肺炎の責任を日本に押し付けはじめた中国(3/05)
2020年2月配信分
- 『韓非子』の時代から何も変わっていない中国(2/26)
- 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(2/19)
- 新型肺炎のどさくさで反体制派狩りをする習近平の姑息/戦後日本の軍事研究忌避が新型肺炎の感染拡大の一因(2/12)
- 新型肺炎が世界にとって思わぬプラスとなる可能性/疫病のみならず他国に厄災をばら撒く中国(2/05)
2020年1月配信分
- WHOを操る疫病発生地・中国の魂胆(1/29)
- 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(1/22)
- 中国の目論見がことごとく外れた台湾総統選/ご都合主義の中国が民主主義と人類を危機に陥れる(1/15)
- 黄文雄メルマガスタッフの台湾選挙レポート(1/13)
- 文化が残らない中国の宿命/中華にはびこる黒道治国と台湾総統選挙を左右する「賭盤」(1/08)
- 謹賀新年のご挨拶―激動の年の幕開け(1/01)