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専門家頼みで自滅する日本の危機管理。コロナと福島原発の共通点とは?

民間のシンクタンク「新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)」が、日本で最初の感染者が確認された1月15日から約半年間の政府の対応を検証し報告書にまとめ、そのポイントを公表しました。この調査を「画期的」としながらも「画竜点睛を欠く」と厳しい評価を下すのは、危機管理の専門家で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、感染症の専門家の見方や見解に引きずられることで、危機管理では重要かつ当然の「臨機応変」な対応をも批判することになっていると指摘しています。

コロナ民間臨調の画竜点睛

そろそろ、政府のコロナ対策が見直されてよいころだと思っていたら、日本の民間シンクタンクから画期的な報告書が公表されました。

「政府から独立した立場で日本の新型コロナウイルス感染症への対応を検証した『新型コロナ対応・民間臨時調査会』(委員長=小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長、政府規制改革推進会議議長)は8日、政府の対応は『場当たり的』だったが、結果的に、先進諸国の中では死亡率が低く経済の落ち込みも抑えられた、とする報告書を公表した。学校の一斉休校をめぐり、政治家同士の意思疎通の齟齬(そご)があったことも盛り込まれた。

 

臨調を発足させたのは民間シンクタンク『アジア・パシフィック・イニシアティブ』(船橋洋一理事長)。国内で感染者が初めて確認された1月から約半年間の対応について、安倍晋三首相や菅義偉官房長官、西村康稔経済再生相、横倉義武日本医師会長のほか、内閣官房や厚生労働省、経済産業省などの行政官ら(いずれも当時)計83人に延べ101回のインタビューとヒアリングを行った。

 

報告書には、2月27日に安倍氏が政府対策本部の会合で、『全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう』と突然の一斉休校を要請した際の経緯が記された。(中略)

 

報告書はこの決定を、『学校給食や学童保育の拡充の問題など教育現場に混乱をもたらした』だけでなく、これに対する批判的な世論が水際対策の遅れにもつながったとみている。政府の専門家会議の関係者は聞き取りに、『疫学的にはほとんど意味がなかった』と述べている。(中略)

 

報告書は、様々な制約の中で『場当たり的』な判断の積み重ねであったとして、今後の流行への備えを訴えた。特措法などを早急に見直し、罰則などの強制力を持った規定を設けることや、公衆衛生のために経済的犠牲を強いられる企業や個人には一定の経済的補償をすべきだと提言した。新型コロナの流行期に、こうした対応を総括した報告書は世界的にも珍しいという。今後、英語版を作って世界に発信する予定という」(出典:朝日新聞2020年10月9日朝刊、姫野直行

船橋さんのシンクタンクは福島第一原発の事故の時もいち早く調査委員会を立ち上げ、政府や国会の調査委員会に先駆け、最初に報告書を公表しました。さすが船橋さんと全体を高く評価したうえで、今回もまた、画竜点睛を欠いていると思われるところを述べておきたいと思います。

当事者や関係者83人に聞き取りをしたと言っても、提言が戦略的な視点をもとにまとめられていないからです。ここで参考になるのは、イスラエル・ヘブライ大学のシャシュア教授が出した提言「医療崩壊を防ぎ、経済を殺さない方法」にある次のような視点です。

だから、コンピュータ科学の知見によってモデルを描く必要があったというのです。

当事者や関係者に聞き取りをすると、ややもすると感染症の専門家の見方や見解に引きずられることになります。しかし、この人々には危機管理の見取り図を描く力が備わっていません。また、聞き取りをする側にも専門家の見解の当否を判断する能力が備わっているとは思われません。

福島第一原発の事故の時も、聞き取りを行った研究者らに質したところ、日米の政府の中枢から出てくる発言を適切に判断する能力を備えていないことが明らかになりました。今回もまた、同じ轍を踏んでいることは申し上げておきたいと思います。

だから、「『場当たり的』な判断の積み重ね」という言い方になってしまうのです。危機管理には臨機応変が求められ、「場当たり的」な判断と修正が続くのは当たり前ということが理解されていないと言わざるを得ません。独断も、場当たりも、唐突も、危機管理としては当然の帰結でもあるのです。

「特措法などを早急に見直し、罰則などの強制力を持った規定を設けることや、公衆衛生のために経済的犠牲を強いられる企業や個人には一定の経済的補償をすべき」という提言には全面的に賛成です。私も5月、経済広報センターの『経済広報』7月号に「コロナと企業の危機管理」という一文を書きました。

民間臨調の提言が説得力を備えるためには、感染症の専門家についても一長一短を指摘するところまで踏み込んで、危機管理の側面から早期収束のモデルを提示して欲しかったと思っています。次回に期待しましょう。(小川和久)

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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