JR東日本は、昨年8月に東京駅、新宿駅、池袋駅、立川駅に設置しスタートし、30か所にまで増えていた電話ボックス型や、駅近施設利用のコワーキングスペースによるシェアオフィス事業をさらに拡大していくと発表しました。コロナ禍による需要の急拡大に応えるものですが、そもそもの狙いや勝算はどこにあったのでしょうか。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』著者の理央周さんが、鉄道事業者としての強みを生かす戦略について解説します。
なぜ、JR東日本はシェアオフィスを始めたのか?エキナカオフィスの差別化ポイントとその勝算
JR東日本が、「駅ナカ」や駅付近で、シェアオフィスを本格的に開始しました。シェアオフィスは、結構どこにでも見られます。場所だけあればできるので、その分、エントリーバリアが低く、実は誰にでも参入できるビジネスモデルです。
たとえば、ホテルやカラオケボックスなどの、「設備」としての部屋がある事業体であればできますし、インターネットカフェはもちろん、スターバックスのようなカフェでも仕事はできます。
そんな中で、JR東日本はなぜ、この時期に、シェアオフィスをやるのか、その特異性や、勝機はどこにあるのか?を、マーケターの視点で考えていきます。あなたのビジネスの参考にしてください。
JR東日本のシェアオフィスのコンセプト
まず、この事業のコンセプトから考えていきます。JR東日本のホームページにあるように、“空いていればすぐに使えるシェアオフィス”というコンセプトで展開しています。
ネーミングも「ステーション ワーク」という名称の通り、駅の中に、1人用と2人用のブース型のワークスペース。その中には、大きめのデスクとチェアがあり、もちろん冷暖房は完備、ビジネス・パーソンに嬉しいのは、モニターがついていることと、Wi-Fiが使えることですね。
外観を写真で見た感じは、今はあまり見なくなった電話ボックスのような雰囲気で、半透明のガラスで外からは、あまりはっきりと中は見えない感じなので、プライバシーは守られているようです。
このスペースを、一人用であれば15分250円、2人用は15分300円で使うことができるのです。場所は、東京駅、新宿駅、池袋駅、立川駅を中心に、展開しているとのことです。
顧客価値は何か?
まず、JRということもあり、駅の中にあるので、ちょっとした時に、便利に使うというのはありそうですね。その辺りのニーズを汲み取って、15分単位での価格設定をしているのでしょう。目的地に早く着きすぎて、30分くらい時間がある時に、次の電車まで、簡単にひと仕事するとか、急に込み入った電話がお客様から入って、静かなところで電話をしたいとか、出張が多いビジネスパーソンなどは特に、このようなシチェーションがよくあるので、使用機会も多くありそうです。
また、2人用のスペースもあるので、簡単な打ち合わせもできる、というのも特徴です。東京駅や新宿駅などは、駅の中や近くにも、いくつかカフェなどの打ち合わせスペースはありますが、いつもかなり混んでいる印象があります。また、仕事だけの用途ではなく、ちょっと休みたい時なんかもいいかもしれませんね。
これらの大きな駅には、いろいろな食品が売っているので、ランチを急ぎで食べたい時に、ちょっと買ってコーヒーと一緒にこのブースで食べる、などという使い方もできるかと思います。
ITメディアの記事によると、JR東日本は、「都会を動き回るビジネスパーソンが、移動拠点の駅でも働けるようになれば、“もう1件追加でアポイントメントを取る”“移動時間を有効活用して仕事を早く終わらせる”といったことが可能になると考えた」とのこと。
シェアオフィスなどを駅中に作ることは、スペース的に難しかったので、ブース型になったということですが、そこが逆に新しいですよね。
マーケティングにおいて、誰に買ってもらうかという、需要が大きいかどうか、ターゲットは誰か、ということと、何を買ってもらうか、自社の差別化ポイントは何か、ということを、最初に考えます。
この2つは鶏と卵の関係のように、どちらを先にすべきか、ということは、状況に応じて変わりますが、このJR東日本のシェアオフィスのケースでは、ビジネスパーソンのスキマ需要に、自社が持っている立地という差別化ポイントを、うまく当てた、といえるでしょう。さらに、学生が「あ、自習室だ」という感じで使う、意外な需要もあったようです。
新常態でのビジネスはどう展開すべきか?
新型コロナウイルスの感染防止の中で、通勤自粛こそ減ってきましたが、リモートワークが増えたり、ということもあり、JRをはじめ鉄道各社は、本業の鉄道事業での収入がかなり減っています。そんな中で、駅という便利な場所の中に、働ける場所を提供して収益を上げる、という今までありそうでなかった発想での、新規事業といえます。
そこに、ちょっとしたスペースが欲しい、というユーザーのニーズと、JR側の空いている土地を活用したい、という、チャンスのマッチングになります。この考え方は、有休地の活用、という意味で、他の業界にも展開できるコンセプトですよね。
例えば飲食店の方々は自社が持っているスペースを、その場所にありそうな消費者のニーズを見つけて、できることを提供することで、本業に追加しての売り上げにつなげることも、できるかもしれませんね。
image by: JR東日本(「駅ナカシェアオフィス STATION WORK」ニュースリリース)