MAG2 NEWS MENU

中国は一体どこへ向かおうとしているのか?全人代の「政府活動報告」から読みとく“次の5年”

国際情勢が大きく揺れる中、中国では年に一度の重要政治行事である全国人民代表大会(全人代)が開催されました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、李強首相の政府活動報告から中国が何を重視しているのかを考察しています。

国際情勢が厳しい最中の開催となった全人代は何を伝えたのか

今年の中国は、正月を迎える気分とはほど遠い春節となったはずだ。

直近の元宵節は、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃が始まったことで、お祝いムードはたちまち吹き飛んだ。

その前にはドイツのフリードリヒ・メルツ首相が就任初の中国訪問を果たしたことで、中国は春節を返上して出迎えた。

そして予定されていた全国人民代表大会(ほぼ同時に開催される全国政治協商会議=政協とともに「両会」と呼ばれる)だ。全人代は政協の翌日、3月5日に北京で始まり、李強首相は世界のメディアが注目する中、「政府活動報告(=報告)」を読み上げた。

年に一度の大会では、一年ごとに設定される国内総生産(GDP)の成長率の目標値が毎年大きな話題となるが、今年はそれに加えて今後5年間の中国を占う「15次5カ年計画(=「15・5」)」のスタートを切る重要な大会だ。中国共産党・政府の面々は準備に余念がなく、とても正月気分ではなかったはずだ。

その注目の「報告」でまず目を引いたのはGDPの成長率の目標値が昨年の5%から、今年は4.5%~5%と慎重な値に変更された点だ。目標値は1991年以来となる低水準で、多くのメディアは中国経済の「見通しの厳しさ」として受け止めた。

だが、一方ではむしろ「現実的」な目標値であり、経済運営がかえって目標に縛られる弊害から解放されたと指摘する声もあった。

香港のクオリティ・ペーパー、『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』は、〈(中国の)GDP目標は積極的な景気刺激策による拡大ではなく、構造改革、リスク管理、質の高い開発の余地を優先する〉ためだと分析した。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

現状、中国経済が抱える問題を簡単に整理しておけば、まず国内では不動産市況の低迷とその影響を受けた個人消費の湿り。さらには地方政府の債務の問題、投資では過当競争の問題が挙げられる。

対外的には貿易の先行き不透明だ。「一帯一路」参加国との貿易は堅調だが、一方で地政学的なリスクも付きまとう。

3月末から4月にかけてドナルド・トランプ大統領が訪中する予定だが、対米貿易の先行きは依然不透明だとされる。

もっとも中国側は、アメリカとの関係をそれほど悲観していない。すでに5回にわたる米中貿易協議で前向きな成果が生まれ、さらに韓国での米中首脳会談で重要な共通認識に達し、関係はより安定した基盤に立ったと考えているからだ。

いずれにせよトランプ大統領の訪中が大きなカギを握ることは間違いない。

一方、視点を国内経済に移せば、その抱える問題への対処は、世界経済の行方にも直結する。

対策のベースになるのは前出・SCMPが指摘したように〈積極的な景気刺激策による拡大〉は目指さないことだ。

目先の景気刺激策より貧困対策を優先するというのは、ここ数年中国が採ってきた政策の特徴である。

実際、「報告」でも、昨年5%のGDPの伸びを達成したことと同時に「住民所得の伸び率が経済成長率と同じペース」で伸びたことを高らかに謳っている。コロナ禍前から可処分所得の伸び率を成長率と同じく重視してきた中国式「民主主義」の特徴ともいえるだろう。

「報告」の前半では、貧困脱却と貧困への逆流防止、児童の教育問題に大きな面を割いて触れている。

こうした中国の特徴を踏まえた上で消費喚起への対策はどうなるのかを見てみたい。

「報告」では「国内経済が大きな転換期を迎え、深層部の構造的な問題が顕在化しつつあり、消費と投資の成長に必要な原動力が不足した」と懸念が表現されている。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

問題の中心は繰り返しになるが不動産市況の低迷と個人消費の湿りである。

対策で注目されるのは昨年末の中央経済工作会議で打ち出された8大任務の中の「内需喚起」策だ。「消費押し上げ特別行動を踏み込んで実施する」と「報告」でも記されてある。

そのキーワードは、「改革措置とマクロ政策との連携を強化すること」。「報告」では、「消費分野の不合理な制限措置を撤廃」し、「引き続き適度な金融緩和政策を実施する」とある。今年も「相当規模の財政支出が維持される」ということだ。

具体的には、例えば「個人向け消費ローンとサービス業経営主体向けローンの利子の補給に1000億元が充てられる」ことなどだ。

その上で学生から労働者まで休暇取得を奨励し、サービス消費の拡大を目指し、インバウンドをさらに発展させるという。

つまり信用を拡大して余暇を増やすことで消費を喚起したいのだ。

また昨年以来の「買い替え支援策」も引き続き継続し予算が充てられる。

こうした政策を実行するための財源や地方財政の立て直しのために、いくつかの税金に対して調整が加えられるという。

太陽光パネルの輸出に対する付加価値税の還付を廃止し、バッテリーの付加価値税の還付も9%から6%に削減した上で、段階的に廃止する。さらに高賃金労働者や個人の海外収入に対する監視も強化されるという。

財源の問題を抱えるのはどの国も同じだが、資金が長期戦略に的確に投じられ、見事に成果と結び付けられてきたのが中国のこの数十年だ。具体的にはEVや新エネルギーでの成功だ。

そうした視点から見た「報告」の注目点は、何といっても「15・5」である。

次の「15・5」では量子技術、エンボディドAI、ブレインマシンインターフェス(BMI)、6Gなど「6大未来産業」の発展が中心となると考えられている。

「報告」では、こうした先端技術で勝ち続けるために「社会全体のR&D費の伸び率を年平均7%以上とすることを提起」と記された。人材育成も従来以上に力を入れることが示されている。

つまり新エネルギー車やロボット、人工知能(AI)で目覚ましい進歩を遂げた「14・5」の勢いを、今後5年間も進んでゆくという強い意思が伝わってくるのだ。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け