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進次郎の「投稿削除」が何よりの証拠。自民党大会で“陸自の歌姫”に国歌斉唱させた高市政権の「公私混同」

民主主義国家であれば、常に問われて然るべき政治的中立性。そんな「原理原則」の根底を覆しかねない案件が、十分な検証を経ないまま処理されようとしています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党大会での「君が代」斉唱をめぐる騒動を取り上げ、現職自衛官起用の経緯とその問題点を検証。さらに自衛隊の政治利用という構図と、個人に責任が転嫁される構造の歪みについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自民党大会「君が代」騒動と、政治の道具にされた“歌姫”の悲劇

高市政権の犠牲者がまた一人。自民党大会で政治の道具にされた“歌姫”の悲劇

陸上自衛隊中央音楽隊の鶫 真衣(つぐ みまい)3等陸曹といえば、知る人ぞ知るソプラノ歌手である。YouTubeを見ている人なら、馴染みがあるはずだ。肩章やメダル、バッジなどで飾られた制服に身を包み、オペラのアリアはもちろん、ポピュラーから童謡・唱歌まで、幅広く歌い分ける。

音大の声楽科を出て、若き音楽家のためのコンクール最優秀賞、フレッシュコンサート最優秀賞など数多くのコンクールに入賞し、2014年4月、陸上自衛隊で初めて声楽要員として入隊した。世間では“陸上自衛隊の歌姫”との呼び声が高い。かくいう筆者も、何度となく彼女が歌っている動画を楽しませていただいた。

この人が今、とんだ騒動に巻き込まれている。4月12日に開かれた第93回自民党大会。司会者のあいさつの後、参加者全員で「君が代」の斉唱が行われた。その中心となってステージに立つ役割を鶫3等陸曹が担ったために、大きな問題となった。

自民党大会で「君が代」が斉唱されるのは恒例のことだが、これまではプロ歌手や合唱団を招いたり、録音音源を使用するのが普通だった。ところが、今回は、よりによって自衛官という異例の人選だ。特定政党の行事で歌っていいのか。自衛隊の政治利用ではないのか。つけ入るスキさえあれば何事も批判対象にしたがるメディアの餌食となった。

確かに、「政治的中立性」の観点から非常にデリケートな問題ではある。自衛隊法第61条は、選挙権の行使を除く自衛隊員の政治的行為を原則として禁止している。国歌を日本人が歌うことを政治的行為と言えるのかという意見もあるだろうが、その行事が政党の党大会である以上、政治的行為と受け取られても仕方がない。

野党は自衛隊法違反だと激しく攻め立てる。だが、政府側は「違法には当たらない」と反論する。小泉進次郎防衛相はその理由をこう説明した。「職務としてではなく、私人として旧知の民間人からの依頼を受けて国歌を歌唱したからだ」。

自衛隊も自民党も関係なく、あくまで民間人と鶫真衣さんが話をして、自民党大会で歌ったという、まことに奇妙なことを平気で言う。この説明に納得できる人がいるだろうか。これでは、鶫さん個人の問題になってしまうではないか。むろん、そんなことはありえない。自民党の依頼を受け、防衛省の承認を得て、3等陸曹は歌ったのだ。彼女にとっては職務以外の何物でもなかっただろう。

朝日新聞の記事(4月18日)には、以下のような記述がある。

複数の防衛省関係者によると、自民党大会の企画会社から出演依頼を受けた隊員は、所属部隊である中央音楽隊の上司に相談。そこから陸上幕僚監部に連絡があり、いわゆる「背広組」と呼ばれる内部部局で、職員の規律などを担う「服務管理官」の担当職員に問い合わせがあった。担当職員は、自衛隊法違反にあたらないことを確認し、「問題ない」旨を回答。

つまり、企画会社は自民党の担当者と相談したうえで3等陸曹に白羽の矢を立て、交渉した。そして、防衛省・自衛隊は「問題ない」と判断した。むろん彼女も、自衛隊法についての懸念は抱いていただろう。だが、この出演を断ることができただろうか。ほかならぬ自民党の依頼である。そして、防衛省の内部部局が許可を出しているのだ。

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自民党と自衛隊の「強い絆」を示す小泉進次郎氏の投稿

長年にわたり与党として防衛大臣を送り込んできた自民党が、自衛隊にとって特別な政党であることは論を俟たない。自民党もまた、国防族を中心に自衛隊との強い絆を有する組織といえる。

鶫3等陸曹と握手するツーショット写真を付けてXに投稿した小泉防衛相の文面が、その関係性を如実に示している。

今日は一年に一度の自民党大会。全国から党員らが結集する自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれたのが、陸上自衛隊の鶫真衣さん。

鶫さんをはじめ自衛隊の音楽隊を誇りに思います。

ところが、この件が問題化すると、小泉氏はあわててこの投稿を削除した。「事実関係などを確認するため、いったん取り消した」と釈明したが、後の祭りだ。「私人だから問題ない」というなら、手のひら返しをする必要などないはずである。

だいたい、この件の取扱い方がおかしい。どの新聞を読んでも、「自民党大会で自衛官が国歌斉唱をした」という書き出しから始まる。いかにも自衛官に問題があるかのような言い方だ。正式な手続きを経て出演した鶫さん個人が批判されるのは、自衛隊組織と自民党の問題を個人に押し付けているに等しい。

正しくは、自民党が陸上自衛隊中央音楽隊のソプラノ歌手に党大会で「君が代」歌唱をさせたこと、つまり自民党が自衛隊を「政治利用」したことが問題なのである。

もちろん、自衛隊の「政治利用」を規制する法律はないが、政党のカラーがついた場所に、国民の税金で運営される組織の隊員を立たせることが、民主主義国家にとってどんな意味を持つのか、何ら疑問を持たなかったとすれば、あまりに感度が鈍すぎる。

これまでの自民党は、自衛隊の政治的中立性を保つという建前を重んじ、党大会という政党の行事に現職の自衛官を制服姿で登壇させることは避けてきた。今回は何が違うのかと考えると、高市政権だから、としか思いつかない。

高市首相は、就任以来「自衛官が誇りを持って働ける環境」を強調し、憲法9条への自衛隊明記を最優先課題に掲げている。党側や事務方がその意向を汲み取り、「自民党こそが自衛隊を最も理解し、尊重している」というメッセージを視覚的・聴覚的に演出するために、鶫さんの起用を企画した可能性は否定できない。「政治利用」と批判されるリスクを承知のうえでの“強行突破”だった可能性もある。

今回の党大会で、高市首相は憲法改正を高らかに打ち上げた。

「時は来た。改正の発議にめどが立った状態で来年の党大会を迎えたい」

憲法改正に前のめりになったトップのもと、自民党は手続きや形式の正当性を軽視し、自衛隊を我が物顔で取り込んだ。その結果、「自衛隊の誇りを守る」と語る政治家たちが、一人の自衛官を政治的な論争の火中に投げ込んでしまった。党のエゴが招いた事態と言わざるを得ない。

憲法に自衛隊を明記し、隊員の誇りを守るという。その志自体を否定はしない。しかし、政治がその「誇り」を、党威発揚のための安っぽい舞台装置として消費してしまったのなら、それは敬意ではなく冒涜である。

鶫真衣3等陸曹の清冽な歌声は、本来、党派を超えて国民の心に届くべきものだったはずだ。その歌声に政治の泥を塗った責任は、あまりに重い。高市政権が掲げる「新しい国のかたち」が、こうした「公私の混同」の先にあるのだとすれば、その行く末に暗澹たる思いを禁じ得ない。

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image by: 自由民主党

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