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豊田章男トヨタ会長の「凡庸すぎる答え」に絶句。若者からの「核心を突いた回答」を一蹴する致命的なコミュニケーション

新年度が始まったばかりですが、入社当日に退職する新入社員もいるといわれる今の時代。何事にもスピードやタイパが求められる一方で、世代間のコミュニケーションギャップはますます広がっているように感じられます。そんな今、学ぶべきものは何なのでしょうか。今回のメルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』では、著者の辻野晃一郎さんが、トヨタの豊田章男会長と若者のやり取りを捉えた2本の切り抜き動画から見えてきた違和感について、率直な思いを綴っています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

トヨタ豊田会長と若者の「夢の車」をめぐるやり取り

新年度が始まったばかりですが、入社当日の昼には退職という新入社員もいるそうです。忍耐力の大切さを教える「石の上にも3年」という言葉がありますが、今や死語になりつつあるのでしょうか。入社して3年どころか、3時間しかもたない人がいるというわけで、これも何事にもスピードやタイパを重視する時代の反映でしょうか。悪く言えば忍耐力が無さすぎ、良く言えば見切りが迅速、ということなのかもしれません(笑)。

さて、そのような中、今回はトヨタの豊田章男会長に関するポストを2件取り上げます。いずれも豊田氏と今どきの若者とのやり取りに関するものです。最初のものは、私が引用ポストしたものですが、経験的には、トヨタについて批判すると、必ずトヨタ親衛隊のようなアカウントからの反撃があります。単なるトヨタファンの場合もあれば、トヨタのSNS対策の場合もあるようです。今回は特に批判したわけではありませんが、インプレッション数が約70万と、かなりの反響がありました。

この切り抜き動画は、テレビ東京の『カンブリア宮殿』からのもののようです。ここでは新入社員と書きましたが、トヨタ工業学園の学生との指摘があり、動画後半では訓練生と呼んでいますから、その指摘が正しいのかと思います。ただ、それは本筋とはあまり関係がなく、新入社員でもトヨタの訓練生でもどちらでもよくて、注目したのは、豊田章男会長と新入社員または訓練生とのやり取りの中身です。

「仕込み」とか「やらせ」という指摘もありますが、それもどちらでもよく、この若者から「夢の車」について質問された豊田氏の反応と、それに続く若者とのやり取りに思うところがありました。

豊田氏は、若者からの問いかけに対して一瞬間をおいてから、「ずーっと乗っていて楽しい車」とまず回答し、その後、質問した若者に、「車って何だと思っている?」と聞き返します。するとこの若者は「移動手段」と応えて、会場からは嘲笑するような笑い声が一斉に起きます。そして豊田氏も笑いながら「もっと学ぼう」と返事をした上で、「動く」という意味の英単語「move」には「感動する」という意味もあることを伝え、「単なる移動手段ではなくそこに感動を与えたい」と語って、最後に再び「もっと勉強しよう」と締めくくりました。

この一連のやり取りを見て私が感じたのは以下のようなことです。

まず、「夢の車」について聞かれた豊田氏の回答が「ずーっと乗っていて楽しい車」という、ひどく面白みのない凡庸なものだったことにややがっかりしました。それこそ、「空飛ぶ車」とか「水陸両用の車」とか「地底に潜れる車」とか「時空を超えて瞬間移動できるタイムマシン」とか、何でもよいのですが、車一筋に人生を捧げてきた人として、少しは気の利いた意外性のある回答を期待しましたが、そうではありませんでした。

また、車とは何かということを聞かれた若者が、シンプルでストレートに即答した「移動手段」という回答は、まさに車の本質を突いたものだったと思います。しかし、それに対する豊田氏の第一声が「もっと学ぼう」というものだったことにもやや失望しました。 顔には出しませんでしたが、この若者からすれば、まっとうな回答をしたにもかかわらず、雲の上の存在のような豊田氏から半ば呆れたような顔をされながら「もっと学ぼう」と言われ、会場からは失笑を買うような場面となったことは悔しかったのではないでしょうか。 もし、豊田氏が、「ご名答、その通り!」と返答し、失笑する聴衆をたしなめた上で、「まさにそれこそが車の原点だよね。でもそれだけでいいのかな?」というように受けてからmoveの話をしてあげれば、この若者にとっては、若き日の忘れ難い良き思い出として、今後の人生の励みとなる体験になったかもしれません。

また、豊田氏に受け止める力や聞く耳があれば、この若者が即答した「移動手段」というドライな一言は、車離れが指摘されて久しい最近の若者が、端的に車をどう捉えているかということを、逆に謙虚に学ぶ機会になったのではないかとも思います。

もちろん、このやり取りを若者がどう受け止めたか、また、豊田氏がどのような心境でこのやり取りをしたのかは、本人たちに聞いてみないことにはわかりません。あくまでも、切り抜き動画を見て私が抱いた印象、想像、感想に過ぎませんが、あらためて、「変わりゆく車の本質とは何か」「上司と部下のコミュニケーションとは」「人生の先輩としてのふるまい方」等々、いろいろなことを考えさせられました。

ちなみに、もちろん車には移動手段という以外に様々な側面があります。嗜好品でもあり、モータースポーツやレジャーのための道具でもあります。しかし、あらゆる後付けの要素を削ぎ落としていったときに、最後に残るのが移動手段で、それが車の原点であることは間違いないと思います。

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F1参戦に反対する豊田会長の本音

2件目は以下のポストになります。

こちらは、最初のものとはまた別の角度から豊田氏の一面が伺える切り抜き動画だと感じました。

いつ撮られた動画なのかは調べていませんが、こちらはトヨタに内定した新入社員だと思います。F1への復帰についての質問に対し、豊田氏は、まず、「次、トヨタとしてF1やるかどうかは今の社長が決めること」と前置きした上で、自分は反対の立場であることを明確に伝え、モータースポーツにおける3つのP(Product、People、Pipeline)の話をします。そして、F1で得た知見が、トヨタのグローバル事業における商品展開にはあまり役に立たない、という自分の意見を伝えています。そして最後に、「F1をやりたいならホンダに行きなさい」と勧めています。最後の一言は半分冗談かもしれませんが、「金持ちの道楽」とか「金食い虫」とも言われるF1に参戦した経験を踏まえた、企業経営者的な結論が明確に伝わってきます。

世代を超えた双方向コミュニケーションの重要性

今の時代、経験豊富な大企業の経営者といえども、若い人たちから学ぶことはたくさんあります。一方で、若い人たちにとっては、経験豊富な大先輩から学ぶことがたくさんあります。この双方向のコミュニケーションを機能させることは、社会を発展させる上で極めて大切だと思います。

また、あらゆることがどんどん変わっていく中で、日本の中だけで後ろを振り向きながら、多くの人が変化していないから大丈夫だと思っていたらとんでもない大間違いです。常に人も組織も、世界の最先端の動きに敏感でなければならず、その最先端と自分の距離をどう縮めるかということに注力し続け、できることならその最先端に自分が立とうという意欲を持つことが大切です。それができる人や組織は、これから5年や10年もあれば、今とは格段に差がある大飛躍ができるのではないでしょうか。(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年4月17日号の一部抜粋です。「メインコンテンツ」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください)

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image by: martignani / Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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