高市早苗首相が4月15日に開催されたAZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)オンライン首脳会談で、約100億ドル(約1兆6000億円)もの大盤振る舞いを発表したのには、実は日本の医療を守るためのやむを得ない事情がありました。しかし、その一方で高市首相は、石破前首相が医療団体や患者団体の声を聞いて見送った「高額療養費制度の見直し」をマッハで復活させ強行しています。今回のメルマガ『きっこのメルマガ』では、人気ブロガーのきっこさんが、高市首相の政策の矛盾と冷徹さ、そして透けて見える本性について鋭く切り込みます。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
トランプのせいで日本の医療物資が不足
書こう書こうと思ってるうちに1週間も経ってしまいましたが、4月15日(水)、アジアのエネルギー問題を議論する「AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)」に関するオンライン首脳会談が開催されて、高市早苗首相は総額で約100億ドル(約1兆6000億円)の金融支援を行なうと発表しました。なかなかの「ザ・大盤振る舞い」ですし「国民がこんなに物価高で苦しんでいる時に何でアジアに100億ドル?」と思った人もいるかもしれませんね。でも、これは仕方ない負担なのです。
「世界の疫病神」ことドナルド・トランプのせいで、今や産油国以外の国々は石油不足で大混乱!日本の場合、ガソリンを含む石油は現時点で約250日分ほど備蓄がありますが、プラスチックやシンナーなど化学製品の原料となるナフサ、通称「粗製ガソリン」の備蓄は3週間分しかないのです。そのため、製品の生産に必要なプラスチックやシンナーが不足しており、生産ラインをストップする工場が相次いでいます。
また日本では、国内生産するよりも人件費の安い国から輸入したほうが安上がりな石油由来の製品などは、そのほとんどをアジアの国々からの輸入に依存しています。たとえば、薄い合成ゴムでできた医療用手袋などの医療物資です。しかし、そのアジアの国々も石油不足で多くの製品の生産がストップしていて、その結果、日本の医療物資が不足し始めてしまったのです。医療用手袋はすべて使い捨てなので、常に一定量を輸入し続けていないと、国民に安全な医療を提供できなくなってしまいます。
今回、高市首相が金融支援を発表した「約100億ドル」によって、ASEAN(東南アジア諸国連合)は1年分、約12億バレルの原油や石油製品の調達が可能となり、当座は何とか凌げそうな見通しとなりました。ドナルド・トランプが第二、第三の「バカなこと」をしない限り、日本の医療はギリギリ守られそうなのです。
アベノマスクとは違う「サナエノテブクロ」
とは言っても、昨日の今日ですぐに生産体制がもとに戻るわけはないので、高市首相は翌16日、国が感染症の大流行に備えて備蓄している大量の医療用手袋のうち、5000万枚を5月から放出すると発表しました。安倍晋三元首相が約260億円をドブに捨てて全世帯に2枚ずつ配布した「アベノマスク」は、目の粗いガーゼマスクだったため何の役にも立ちませんでしたが、今回の「サナエノテブクロ」はちゃんとした製品なので役に立ちます。
でも、この5000万枚というのは、全国の医療機関で不足している医療用手袋の約2週間分でしかありません。国が備蓄している医療用手袋の余剰分は約5億枚もあるそうなので、今後もアジアの生産状況や輸入状況を注視しつつ、必要になればすぐに追加の放出ができるようにしてほしいと思います。小泉進次郎農水大臣(当時)が鳴り物入りで放出した備蓄米のように「焼け石に水」になってしまっては本末転倒ですから。
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高額療養費制度見直しという冷徹政策
で、ここまでは、あたしには珍しく高市首相の政策を評価しましたが、「飴」の次は「鞭」と言うわけで、同じく医療に関する高市首相の政策でも1ミリも理解できないものにツッコミを入れさせていただきます。それは、多くの医療団体や患者団体が大反対しているのにも関わらず、そうした声を完全に無視して高市首相が強引に進めた「高額療養費制度の見直し」です。
日本の「高額療養費制度」は、現行では所得によって5段階に分かれています。一例として、中間的な所得(年収約370万円~770万円)で70歳以下の場合は、月の上限額が8万100円です。また、70歳以上の場合は、年収に応じてさらに上限額が下がります。つまり、1カ月の医療費がどれほど掛かろうとも、患者の自己負担は最大8万100円でいい、というありがたい制度です。
ただし、まずは全額を自己負担して、審査後に上限額を超えた金額が返金されるシステムで、返金されるまでに3カ月ほど掛かります。また、入院時の差額ベッド代や食事代、癌などの先進医療の技術料など、対象外の項目もあります。それでも、この制度のお陰で医療を受けられている人は数えきれないほどいます。たとえば、癌で入院して手術を受け、その後、抗がん剤や放射線治療を受けた場合、1カ月の医療費は3割負担でも数十万円になります。
これでは、中には支払いが無理だからと治療を諦めてしまう人も出て来てしまいます。しかし、この「高額療養費制度」を使えば、いったんは数十万円を支払わなければなりませんが、先ほどの条件の人なら、8万100円以上は3カ月後に返金されるのです。さらには、もっと年収の低い人なら、自己負担の上限額は5万7600円、さらに年収が低ければ3万5400円です。これなら何とか払えると思います。
石破政権が見送った制度改悪をマッハで復活
この制度のお陰で治療が受けられた人、命が助かった人がどれほどいるでしょうか。それなのに、高市首相は今年8月に自己負担の上限額を一律7%引き上げ、さらに来年8月には現在5段階の所得区分を13段階に細分化して、それぞれの上限額を変更すると言うのです。現在、上限額が8万100円の人は、今年の8月から8万5700円になり、1年後にはさらに引き上げられるのです。現在5万7600円の人は6万1600円に、3万5400円の人は3万7900円に、今年の8月から引き上げられるのです。
ちなみに、この「高額療養費制度の見直し」が決定したのは、2025年1月、石破茂政権の時です。しかし、多くの医療団体や患者団体から「これでは治療断念に繋がってしまう」と反対の声が挙がりました。すると、石破首相はそれらの声をちゃんと聞いてくれて、3月に引き上げを見送ると発表したのです。そして、もう遠い記憶となってしまいましたが、自民党安倍派の裏金議員どもの「石破おろし」によって、この年の10月、首相の座から引きずり下ろされたのです。
で、今の高市政権がスタートしたと思った瞬間、高市首相は前任の石破首相が見送った「高額療養費制度の見直し」をマッハで復活させ、就任からわずか2カ月後の12月に、現在の「2026年8月に一律7%、2027年8月に細分化して再度引き上げ」という改定案を発表し、2026年度の予算案とともに閣議決定したのです。つまり、2026年度の予算案が成立すれば、この「高額療養費制度の見直し」も自動的に決定してしまうという、審議無視の乱暴なやり方でした。
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660万人を苦しめてわずか117円の削減
この「見直し」が強行されると、この制度を利用している患者の8割に当たる約660万人の負担額が増加すると民間団体は試算しています。そして、この、まるで「低所得者は病気になっても治療など受けるな!」とでも言わんばかりの冷徹な政策で、一体どれくらいの予算が削減されるのかと言うと「1000億円前後」とのこと。これじゃ分かりづらいので、1人当たりの負担額に換算すると、1カ月にわずか117円だそうです。つまり、国民負担をわずか117円減らすために、660万人もの患者に大きな負担を強いるわけです。
麻生太郎財務大臣(当時)は8年前の2018年、「運動もせずに好きなだけ飲み食いして病気になった人の医療費を、健康のために努力している俺が払うのはアホらしい」と述べましたし、同じように思っている人もいるでしょう。しかし、全員から広く薄く集めたお金で困っている人を救うのが民主主義であり、そのように税金を再分配するのが政府の仕事です。それに、麻生氏と同じように思っている人たちにしたって、自分の負担が117円減ったところで何の実感もないと思います。
透けて見える高市首相の本性
で、ここで最初の話にクルリンパと戻りますが、高市首相は日本の医療を守るために、アジアに約100億ドル(約1兆6000億円)の金融支援を発表したのです。これって何か変じゃないですか?予算をたった1000億円削減するために、660万人もの国民の命を人質にするような冷徹な政策を強行する人が、同じ日本の医療のためにアジアにポンと1兆6000億円って、この人は日本の医療を守りたいのか破壊したいのか、やってることの整合性がとれません。
たとえば、アジアへの金融支援を約94億ドル(約1兆5000億円)にして、「高額療養費制度の見直し」は石破首相のように医療団体や患者団体の声を聞いて見送るとか、そういう判断はできなかったのでしょうか?結局はこの人、考えてるのは「いかに自分が国際社会で目立つか」ってことだけで、国民など二の次なんじゃないのかと感じてしまいました。家族には厳しいのにソトヅラだけいい親父って日本人に多いそうですが、今回のことであたしは、何だか高市首相の本性が透けて見えたような気がします。
(『きっこのメルマガ』2026年4月22日号より一部抜粋・文中敬称略)