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作り手も危険視。SNSが子供の人格を歪める「麻薬」として作用する訳

「バイオレンスなゲームは子供たちを乱暴な行動に走らせる」「過激な書物やアニメ、映画などが子供たちに悪影響だ」。まだ10代で犯罪を犯した子供たちの自宅から出てきたときに、そのような議論が出ることはよくあります。しかし、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で、かつて若者向けのSNSを運営していた経験のある世界的エンジニアの中島聡さんは、若者向け「SNS」の危険性を指摘。「SNSが子供の人格形成に及ぼす影響の方がはるかに深刻だ」として、その理由を述べています。

SNSと人格形成

Netflixのドキュメンタリー「The Social Dilemma(邦題:監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影)」を観ました。Facebookや TwitterなどのSNSが何を目的にどうやって作られているかを解説する番組ですが、同じくSNSであるPhotoShareを運営していた私としては、色々と思い当たる節もありますが、一つだけ当時の私が気がついていなかった重大な事実があることに気がつきました。

それは、ティーンエージャー向けのSNSを提供するということは、単に彼らから勉強する時間を奪うだけではなく、彼らの人格形成に多大なる影響を与えることを意味する、と言う事実です。

ゲーム業界では、バイオレンスなゲームが、子供たちを乱暴な行動に走らせる可能性があるという話がしばしば話題になりますが、それとはレベルが違う話です。

ゲームの世界でのバイオレンスは、仮想世界でのバイオレンスでしかなく、そこで何をしようと、誰かが傷つくわけでも死ぬわけでもありません。仮想世界と現実世界の違いが明確である限り、それが子供たちの人格形成に直接的・根本的な影響を与える可能性は少ないと思います。

しかし、SNSの世界はリアルの世界なのです。SNS上の友達は、(たとえ会ったことがなくても)本当の友達であり、SNS上のいじめは本当のいじめなのです。SNS上の発言で、人を傷つけることは可能だし、その結果、自殺に追い込まれている子供たちも大勢いるのです。

人の人格形成において、子供の頃の周りの人たちとのやりとりはとても重要な役割を果たしていますが、今では、そのやりとりのほとんどがSNS上で行われていることに、そろそろ私たちは気づかなければならないのです。それも、そのやりとりは単なる言葉だけではなく、写真や映像を含む、(電話や手紙と比べると)情報量の多い、リアルな世界のコミュニケーションに近いものになりつつあります。

それでも、SNSが、電話や手紙のように単なる「受け身のツール」であれば、影響は大したことはありません。しかし、SNSは、「The Social Dilemma」に解説されているように、広告収入を最大化するために、ユーザーに中毒症状を起こさせるように設計されているのです。それも、単にプログラマーが「こうすれば、もっと病みつきになるはず」とアルゴリズムを組んでいるのではなく、ユーザーから集まる莫大なデータを活用して、感情を刺激し、病みつきになるように改良し続ける自己学習型のアルゴリズムから構成されているのです。

つまり、現代の子供たちは、FacebookやTwitterのエンジニアたちが、最新の機械学習の機能を駆使して作った広告収入を最大化するための人工的な土俵の中で人格形成をしていると言えるのです。エンジニアたちの「利益を最大化する」ための行動が、何百万、何千万人の子供たちの精神的な成長に、直接的・根本的な影響を与えているのです。

私は、PhotoShareを運営しているときに、16~17歳ぐらいのティーンエージャーが、PhotoShareに一日4時間も張り付いていることに罪悪感を抱いていましたが、その時の罪悪感は、単に「勉強する時間を奪って申し訳ない」程度のものでしたが、実際はそんなレベルではないのです。

彼らをターゲットにした SNSを提供すると言うことは、彼らの人格形成に直接的かつ多大な影響を与える役割を果たしていることを意味するのです。この問題は「バイオレンス・ゲーム」が子供たちに与える影響なんかよりも、はるかに危険視されるべき大きな問題なのです。

image by: AlesiaKan / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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