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脆弱すぎた日本の医療体制。なぜ「救急搬送困難事案」は激増したのか

新型コロナウイルスの感染拡大により医療現場の人員と病床が逼迫し、危惧されていたことが現実になり始めているようです。急患の受け入れ先が決まらない「救急搬送困難事案」と呼ばれるケースが全国で激増していると各紙が伝えました。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、ジャーナリストの内田誠さんが、「救急搬送困難事案」で抽出した東京新聞の記事を検証。昨年5月にはあった「たらい回し」という表現が消えていることも「医療崩壊」の瀬戸際にあることの証左であり、コロナではなくとも搬送先が探せない危険な状態にあると伝えています。

「救急搬送困難事案」について新聞はどう報じたか?

きょうは《毎日》の順番なのですが、取り上げたいタームが東京に出ていましたので、きょうは《東京》からということに。「救急搬送困難事案」という言葉があるようです。「医療崩壊」の現れ方にはいくつかの形がありますが、これ、1つのパターンと言ってよさそうです。

これを東京新聞の「TOKYOWeb」で検索すると、5件ヒットしました。サイト内に今日のニュースを含めて5件の記事が対応しているということです。まずは《東京》6面記事と関連で1面記事の見出しから。

(6面)
救急搬送困難 1カ月で倍増
コロナ急拡大、病床逼迫 全国集計

(1面)
病床 世界最多でも逼迫
民間病院の受け入れ困難

人口当たりの病床数が世界トップクラスであり、欧米に比べて新型コロナ感染者数が少ないにも関わらず、国内の医療が逼迫しているのは、「新型コロナ患者受け入れ可能な病院が25%しかない」からだという。

全国4255カ所の急性期病院で見ると、公立病院は7割、公的病院は8割がコロナ患者を受け入れているのに、民間病院は中小規模のものが多く、2割ほどしか受け入れていない。コロナ患者を診ることは、院内感染のリスクがあり、通常の何倍も人手が掛かる上、他の診療や手術ができなくなり、病院は赤字に陥る。

新型コロナウイルス感染拡大で病床が逼迫するなか、全国52の消防本部などで今月4~10日の週、急病人の搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」は2707件となり、1か月前と比べて倍増したという。

「救急搬送困難事案」とは、医療機関に受け入れ可能か4回以上照会し、救急隊の現場到着から搬送を開始するまでに30分以上掛かったケースと定義されている。先週の「救急搬送困難事案」のうち、東京消防庁のケースは1384件で、全体の約半数を占めた。

●uttiiの眼

まさしく「医療崩壊」が実例となって表れだしたということだろう。記事によれば、第一波の頃は、コロナに感染した人の受け入れを拒否するところが多かったようだが、今は、コロナ病床を確保した影響で通常の病床が減っており、物理的に満床で受け入れられないケース、また、ホテルや自宅で待機している陽性者の病状が急変した場合に、受け入れる先がないなどの事例が多いという。コロナ患者であろうがあるまいが、急に具合が悪くなっても、病院へのアクセスが困難になっているということだ。

欧米に比べて患者数が少ないのにこうした問題が起きていることについて、各病院の個別的な努力で解決するのは難しいだろう。厚労省が、「未知の感染症の蔓延」という事態に対応できる医療体制を準備してこなかったからだが、都立広尾病院などをコロナ専門病院とするのは有効な策の1つ。コロナ患者の治療を効率化する効果が見込まれる。

【サーチ&リサーチ】

5件の記事で最も早いのは2020年5月のもの。

2020年5月1日付
「4月下旬の1週間に、急病人らの搬送先がすぐに決まらない「たらい回し」の事案が1656件あった」という記事。

*8カ月前の段階では1656件として、前年同期の2倍に上っているとして記事になっている。今はさらに増えて2700件以上。

*因みに「たらい回し」という言葉が使われているが、この言葉に反発する病院関係者は多い。「たらい回し」という表現には、受け入れられるのに勝手に拒否しているというニュアンスがあり、病院関係者には「病院を責めるのはお門違いだ」という思いがある。このときの記事にはまだ「たらい回し」が使われているが、今日の記事には使われていないことに注意。

2021年1月13日付
「東京都は13日、新型コロナウイルスに感染し、入院先の調整が付かずに自宅療養中だった都内の80代男性が死亡したと発表」した。昨日の記事。医療崩壊で死なずに済んだはずの人が亡くなってしまったケース。

2021年1月14日付
埼玉県の状況についての記事。「大野元裕知事は13日の定例会見で、新型コロナウイルスの重症者用病床の確保が計画よりも遅れていることを明らかにした。患者の急増を受けて11日までに131床を準備するとしていたが、すぐ使えるのは112床にとどまった。その後に微増し、14日には124床になるとしているが、目標に届いていない状態となっている」という。

*上記はきょう付けの記事。紙面ではなくサイト内で公開されている。

●uttiiの眼

「病床占有率」の多寡で見ていた「医療崩壊」の状況をより具体的に見せてくれるのが「救急搬送困難事案」の数や増加率。感染がさらに急拡大するようなことになれば何が起こるか、具体的にイメージすることができる。新たな感染者を1人でも少なくすること、そのために、まずは自分とその周囲の人々の感染リスクを減らすこと、感染の機会を摘み取っていくことが必要であるのは言うまでもない。

【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。救急車に乗ったことがあります。脳梗塞で倒れた父に付き添ったのですが、隊員の方は何カ所も断られながら、一生懸命に病院を探してくださったことを覚えています。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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