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「ワクチン」の一点張りで1年も時間をムダにした日本政府の準備不足

政府は20日から新たに7府県に緊急事態宣言を発出し、10県にまん延防止等重点措置を適用すると発表しました。既に発出されている地域も含め期限は9月12日までとのこと。首都圏の住民にとってはもはや「あ、またね」くらいの受け止めになってはいないでしょうか。メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、この半年ほど「ワクチン」頼みで、デルタ株への準備をしなかった菅首相と日本政府が現在の惨状を招いたと指摘。このままでは一点張りのギャンブラーと同じく「負け」への道を歩むと警告しています。

デルタのこと

「過去最多」という言葉に驚かなくなってしまった自分がいる。これがほんの半年前だったら震え上がるほどの感染者数なのに「慣れ」というものは本当に恐ろしい。

いやこれはきっと「慣れ」ではない。皆、無理矢理にでも無視しようとしているのだ。自分の行動の心理的根幹を守るためなら、これくらいのことはやってのけられるのが人間である。宣言ばかり(つまりは口ばかり)の国にあって己の正気を保とうとすればこれもまたやむを得ぬことのようにも思える。何もしないということは、これほどまでに罪深いのである。

そもそも今あるガイドライン等は、せいぜいアルファ株(英国型)、ベータ株(南ア型)、ガンマ株(ブラジル型)くらいまでを念頭に置いて策定されたものである。現下のデルタ株(インド型)に通用する筈もない。当然このまま何もしなければ、減少も横ばいもあり得ず、ただただ増えるばかりである。

一方、肝心の政府は、と言うと「ワクチン、ワクチン」の一点張りである。こうなると結構ヤバい。他に策なし、ということだからである。大体において、一点に張るギャンブルは負けるのが相場である。

その頼みのワクチンも接種先進国では、既に当初ほどの万全性は期待できないといった見方もちらほら出て来ている。確かに2回目接種後6ヶ月までの発症予防効果は実に9割超えとのデータまでは確認したが、それ以降に関してはあまり聞かない。その代わりに耳にするようになったのが、ブースター接種である。以上のことを総合すれば、今あるワクチンの効果は大体半年程度ということが想像できる。

とすれば、今のワクチン接種がおおよそ一回りした頃には二回り目を開始しなければならない計算になる。問題なのは、その時の優先順位である。ワクチンには発症予防効果だけでなく重症化予防効果もある。実際、高齢者の重症化率は下がっている。本来だったら、これで一息というところであった筈だ。

ところがデルタ株が拡がるや重症化の中心は40代、50代にシフトした。今までだったら何とか持ち堪えることができていた世代がバタバタと倒れているのである。どう見ても、ウィルスの毒性が強くなったとしか考えられない。接種二回り目からは働き盛りの(言い換えれば、先の長い)中年層を優先すべきかもしれない。

さらに悪いことに、このデルタ株は若年層どころか子供や乳幼児にまで有症状感染する。実際には無症状感染も未だ多いのだろうが、現場である小児科では現実の問題としてデルタ株蔓延以降明らかに有症状の感染者が増えていることは確かである。子供の治療に関してはほとんど知見がないという残念極まりない事実を考えると、これ以上事態が悪化しないことを祈るばかりである。

もう一つ、日本が考え、準備しておかなければならなかったのがワクチン接種進行中における蔓延についてである。これは先進国であるイギリスの例を見れば分かった筈である。そのイギリスでは成人の68%が2回目接種を終えた段階で猶5万人超の新規感染者を出す日もあった。これもデルタ株が原因とされているが、その一方で死者はさほど増えなかった。

イギリスは早々に「死にさえしなければいい」というふうに大舵を切っていたのである。当然ワクチンの位置付け、つまり期待値も同程度まで引き下げられる訳だから接種回数も2回にあまり拘らなかった。その代わりに重症者病床だけはしっかりと準備していた。死なない分、当然その前段階である重症者は増えると予想したからだ。

この策はそれなりに機能したが同時に大きな問題を先送りにするものでもあった。後遺症である。ただ、当時のイギリスを思えば「Hail Mary」的な策もやむなしといったところまで追いつめられていたことも事実であるから、これはこれで評価せざるを得ないであろう。

どんな施策でも必ずその反作用は生じる。だからこそ準備が大切なのである。日本はこの1年、何も準備して来なかった。ワクチン政策のみであった。8月16日現在、東京だけで2万2000人を超えるほどの自宅療養者が出てしまったのはその無策がもたらした結果なのである。

数ヶ月前、インドの病院の廊下や中庭に感染者が力なく横たわっている様子が報道されたりしたが日本もそれと同じである。もしかしたら近くに医者がいる分、向うの方がいくらかましかもしれない。そんなふうに思えてしまうほど今の日本の現状は深刻なのである。

頼むから、口を開けばワクチン攻めはもう勘弁してもらいたい。こちらとしては閉口するばかりである。もう既に「ワクチン」という単語にはトランキライザーとしての機能はなくなっているのである。

image by: 首相官邸

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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