超一流のサービスとホスピタリティで、国内外にファンを擁する帝国ホテル。そんな「世界が称賛するおもてなし」は、どのようにして生まれ、そして引き継がれているのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では同ホテルの定保英弥社長がその秘訣を明かすとともに、「一流ホテル」を象徴する感動的なエピソードを紹介しています。
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帝国ホテルに伝わる「9つの実行テーマ」
明治時代に「日本の迎賓館」の役割を担って誕生し、2020年に開業130周年を迎えた帝国ホテル。
創業から連綿と繋がるおもてなしの精神を受け継ぐ定保英弥社長に、「さすが帝国ホテル」と評価され続けるために実践している極意を語っていただきました。サービス業のみならずあらゆる分野に通じる仕事・人生のヒントが満載です。
──現場力を高めるために、日頃スタッフによく語り掛けていることはありますか?
定保 「総支配人になった時から10年以上、いまもずっと言い続けているのは、『まずは当たり前のことを当たり前にやろう』ということです。
基本プレーという言い方をしているのですが、挨拶をきちんと交わすとか納期や約束を守るとか電話が鳴ったらすぐに出るとかお詫びとお礼は1秒でも早くとか、そういう基本動作を徹底することが一番大事だと思うんですね。
帝国ホテルには『9つの実行テーマ』というものがありまして、最初の3つが『挨拶、清潔、身だしなみ』、次の3つが『感謝、気配り、謙虚』、最後の3つが『知識、創意、挑戦』なんです。
中でも最初の6つは基本プレーですから、壊れかけのラジオのように繰り返し言い続けています」
──当たり前のこと、基本プレーをとことん追求すると。
定保 「現場力を高める上で欠かせないのが、20年以上前から実施している『さすが帝国ホテル推進活動』というサービス向上運動です。
これはお客様から名指しで褒められたスタッフを『さすが帝国ホテル個人表彰』として毎月5名ほどを選び、その中から全スタッフの投票によって年間大賞を一人決めるというものです。
投票率は非常に高く、常に90%台後半を維持しています。これを積み重ねてきたことで、『こういうサービスは皆で真似しよう』『こういうサービスにはならないようにしよう』といった形で、スタッフのモチベーション向上に繋がっていると思います。
過去の年間大賞の例では、ルームサービス担当者が客室に食事を届け、セッティングを終えて退室した後、閉まったドアに向かって一礼した様子を、偶然ドアスコープから見ていたお客様が手紙で褒めてくださったというものもありました。
いまでは各部署がそれを真似て実践に移しています。
何より嬉しいのは、弊社のサービスの多くが、総支配人や責任者から『これをやろう』と言われて始まるのではなく、スタッフたちの考えによって始められているということです」
──ああ、スタッフが自発的に創意工夫している。
定保 「そういうDNAが脈々と受け継がれているなと思ったのは、東日本大震災の時のスタッフの対応でした。震災発生後、交通機関が麻痺し、帰宅困難となった約2,000名の方々が帝国ホテルのロビーに避難してこられたんです。
当時私は総支配人でしたから、すぐに危機対応の現場指揮所を立ち上げ、現場を指揮する体制を整えました。
しかし、驚いたことに上からの指示がなくとも、現場のスタッフたちが率先してロビーに椅子や毛布を出したり、備蓄用の飲料水や乾パン、携帯電話の充電器を用意したりしたんです。
調理のスタッフたちは避難者の身体を少しでも温めることができればと考えて、震災の翌朝、避難者全員に野菜スープを振る舞いました」
──「さすが帝国ホテル」を象徴するような感動的なお話です。
定保 「震災直後はタクシーを待つお客様で本館の周りに長蛇の列ができていましたが、そこにお腹の大きな妊娠中の女性がいて、あるスタッフがサポートしてあげたのでしょう。
その女性から、『おかげさまで無事に生まれ、5歳になりました』というお手紙をもらった時には涙が出ましたね。
丸10年経った今年の3月にも、『あの時はお世話になりました』というお手紙をたくさんいただきました。そういうお客様の存在は本当にありがたい限りです。
(本記事は『致知』2021年8月号「積み重ね 積み重ねてもまた積み重ね」より一部抜粋したものです)
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