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竹内栖鳳の「班猫」にそっくりなキジネコと暮らし感じていること

想像を超える動きや姿を見せるペットたちの動画や写真は、SNSで大人気。イタズラに悩まされるケースも含めて、ペットとの生活の喜びを発信する人が多くいます。メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんには、日本画家の竹内栖鳳(たけうちせいほう)の代表作「班猫」にそっくりな飼い猫がいて、生態的特徴を理由に「想像上のもの」という説もあるポーズと同じ姿も毎日見せているとのこと。そんな絵から出てきたような飼い猫の、子猫の頃のイタズラ話などとともに、猫との暮らしを綴っています。

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班猫のこと

うちには1匹ネコがいる。キジネコだ。正確にはキジトラ白という柄らしい。姿かたちをイメージするのは簡単である。竹内栖鳳の「班猫」にそっくりだからである。なかでも顔はほぼ生き写しである。目の色から口の右上の方にあるスポットまで瓜二つである。違いは「班猫」は肩甲骨周辺が白いのに対してうちのはそこもキジトラである。あとはまんま「班猫」である。

この竹内栖鳳の「班猫」について美術評論などでよく言われていることがある。それはこの独特のポーズについてである。リアルのネコはこんなポーズはしない、あるいはできない、という生態的特徴を根拠に、つまるところこの「班猫」のポーズは栖鳳の想像上のものであり、それ故に見る者の心を捉えるのだ、といった主張である。

しかし、ペットとして人間に飼われて久しい動物の生態的特徴というのは、とてものこと動物学上の一般論だけで網羅できるものではない。いやもう既に半分その家の人になりかかっているのではないかとさえ言いたくなるほどにその家的なペットにおいてはドメスティックなあり方こそがその動物の(ペットとしての)本来であり本性である。

そして、それほどともなると、飼っている人しか気づかないことも当然多かろうと思われるのである。その辺のところはネット動画を見ればよく分かる。ネコもイヌも飼われているからこそ個性的なのである。

然るに、うちのキジネコは栖鳳の「班猫」ポーズをやるのである。当たり前にやるのである。キジネコにとっては無理でも何でもない普通の居姿なのである。自分の育った家では子供の頃から多くのネコを飼って来た。しかし知り得る限りにおいてキジネコだけがこのポーズをやるのである。もしかしたら栖鳳もそれを面白いと思ったのかもしれない。

さて件のキジネコだが、実は私が大人になって家を出てから初めて飼ったネコである。もともとは保護ネコであった。それを引き取った奴がどういう訳か飼えなくなり私が引き取ることになったのである。生き物の命を救うという功徳をネコごと押し付けられたような恰好である。その時はまだコートのポケットに入るほどの子ネコであった。

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このキジネコがとにかく悪い。その類稀なる運動能力を余すところなく悪さに使うのである。ポケットサイズの頃である。カーテンに両の手の爪を立ててつかまり、体と足を左右にスウィングしながらその勢いで左・右・左・右と手と爪の力だけで上に上にどんどん上って行くのである。上まで行きつくとどうしようもなくなり「ニャーニャー」鳴いて助けを求める。抱いて下ろしてやるとまた上る、こんな調子である。

箱と見れば中身も確かめず飛び込み、紐と見れば辺り構わずじゃれつく。いつだったか体にビニール紐が絡まったままベッドの脚の周りを猛スピードでグルグル回り、挙句首が絞まりかけて「グェグェ」言っていたこともあった。極めつけは、大枚はたいて購入したカーボンファイバー製の自動車部品を爪とぎに使い、炭素の繊維をケバケバにしてしまったことだろうか。

それでもやはり憎めないところがあるのがネコというもので、こうしている今も私の膝の上に乗って「ゴロゴロ」喉を鳴らしている。これを鬱陶しがって押しのけたりしようものなら今度はキーボードの上に寝転がって書いている文章をたちまち解読不能の文字列だらけにしてしまうのである。まったく仕様がないネコである。

この前、予防接種を受けさせるために動物病院に行った時「このネコ、人間で言ったら何歳くらいですかね?」と聞いてみた。対応表によればちょうど自分と同じ歳であった。確かに最近高い所へ上るのもそこから飛び降りるのも以前よりは慎重に行っているように見える。体型もすっかり福々しくなって、歩いている姿を真上から見ると戦艦大和みたいなシルエットである。それでも日に1回くらいは「班猫」を見せてくれる。

ついこの間まで子ネコだったのに、もう自分の歳に並ばれてしまった。きっとすぐに追い抜かれてしまうことだろう。「人ばかり久しきはなし」(『徒然草』「第七段」)と改めて思うのであった。

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image by: 竹内栖鳳, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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