MAG2 NEWS MENU

日本を意図的に刺激か。北京五輪を前に中国で起きた「世論事件」

南京事件が起きたとされる12月13日に前後して、中国で日本を「標的」とするかのような複数の事案が発生していたようです。今回のメルマガ『黄文葦の日中楽話』では、2000年に来日し現在は日本に帰化されている中国出身の作家・黄文葦さんが、この時期に起きた日本に関連する3つの「世論事件」を紹介。さらに中国でこれまで許されなかった「違う声」が人々から上がり始めたことを、評価的に記しています。

日本と中国の間の「楽話(らくわ)」を評論する黄文葦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

日本に関連する三つの中国世論事件

最近、中国で起きた日本に関連する三つの世論事件を取り上げる。

☆その一 公祭日の「着物事件」

2021年12月13日、いわゆる「南京事件」の84周年の日(中国側は南京大虐殺や南京大屠殺と呼称している)。中国各地で「公祭日(国家追悼記念日)」記念活動を行っていた。

例えば、12月13日、南京大虐殺の公祭式が侵華日本軍南京大虐殺記念館で行われた。河北省邢台市では、「中国人民抗日軍事政治大学」展示館と全国20か所の抗日記念館が合同で、南京大虐殺犠牲者のための記念イベントを開催した。式典終了後、ガイドの案内で写真展「人類の大惨事-1937年南京大虐殺」を大勢の人たちで見学した。

そのような全国的に重厚の雰囲気の中、ある「着物事件」が起きた。浙江省海寧市で、一人の着物を纏っている女性が多くの議論を巻き起こした。女性は茶店の店長で、オンラインショップモデルにもなっている。その日ある店の方に誘われて着物を着て撮影をし、撮影後に自分の服に着替えてお茶屋さんに戻ってきたそうだ。

ところで、途中で、その女子の着物姿が誰かに撮られた。そして、警察に通報された。理由は「公祭日」なのに、日本の着物を着るのは極めて不適切な行為だという。警察は公式的に意見を出し、その女性を警告・教育した。

その後、当事者の女性はネットの「着物事件」に関する議論を見て、当日が「公祭日」であることに気づいた。また、関係各所から批判や教育を受け、彼女自身も自分の過ちを認め、「大変申し訳ない」と話していた。

☆その二 「南京大虐殺の犠牲者数」に言及した大学講師がクビにされた

中国マスコミによると、上海震旦職業学院東方映画学院の宋庚一講師は、12月14日午後、「ニュース取材」の授業で誤った発言をし、重大な教育事故と深刻な社会的悪影響を引き起こし、「上海震旦職業学院の教育事故の判断と処理に関する措置」及び「上教職員懲罰に関する暫定規定」に基づき、宋氏を懲戒免職した。

2009年に設立された東方映画学院は、演劇・映画・テレビ出演、映画・ドラマ脚本、監督、写真・映像技術、オーディオビジュアル技術の4つの専攻を設けている。

宋講師は授業の中、「南京大虐殺の犠牲者数」について言及した。宋氏は犠牲者数について、さまざまなデーターがあり、また精密に検証されていないという旨を学生に伝えた。さらに宋氏は「今は憎む時ではなく、戦争がどうして起きたのかを考える時です」と学生に向けて語った。

また、宋講師は「南京大虐殺が突然大々的に報道されたのを見て、突然公祭式が始まったのは、日本が北京五輪のボイコットを検討し始めたから、中国がそれに対抗して行動を起こしたのだと気づいた」とも言っていた。

ある学生が宋さんの声をこっそり録音し、編集し、ネットにアップした。因みに、中国社会では密告という行為がよくある。大学では、学生が先生を告発することもよくある。

上記の世論事件について、共産党のメディアである「人民日報」は、「南京大虐殺で30万人以上の同胞が殺され、その証拠は山のようにある」とコメントしている。歴史的な真実を推測し、疑うことは、無駄な教師であるということです。苦しみを忘れ、他国の悪行を否定することは、無駄な中国人になることだ!

☆その三 「自由に靖国神社に行くことができる」と主張した大学講師がクビにされた

12月10日、中国山東省の青島大学講師の高薇嘉氏が中国語版ツイッターで「私たちの世代は、自由に靖国神社に行くことができる」と書いた。それで、大きな波紋を広げてきた。

青島大学はいち早く調査グループを立ち上げ、調査を行った。その結果、「高氏の行動は、教師の職業倫理と行動規範に著しく反している」と結論づけられた。大学は、高氏を教職から異動させ、すべての教育活動を停止し、教員資格を取り消し、行政処分を下すことを決定した。

日本と中国の間の「楽話(らくわ)」を評論する黄文葦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

☆「一つの声しか許されなかったのが、違う声が出てきた!」

以上、日本に関連する三つの世論事件について、マスコミとネット世論は完全に当事者を猛烈に批判している。異論者がいても、その声はすぐにかき消され、結局一つの声しか許されない状況になっているのが、「違う声が出てきた!」という事実はやはり大事だ。

国家公祭日について、2014年2月27日、第12期全国人民代表大会常務委員会第7回会議において、9月3日を「中国人民の抗日戦争の勝利記念日」、12月13日を「南京大虐殺犠牲者公祭日」とすることが決議された。

歴史と戦争をどう記憶するのか。この問題について、中国と世界の間、ギャップがあると考えられる。

第二次世界大戦終了後、主要参戦国の政府は、犠牲になった国民に敬意を表し、戦災の歴史に対する記憶を高めるために、国家追悼記念日を導入した。ポーランドのアウシュビッツ記念館、アメリカのアリゾナ記念館、ロシアのビクトリー博物館、日本の広島と長崎の原爆死没者追悼平和祈念館などでは、毎年、平和の祭典だという国民的イベントが行われている。

しかし、中国の戦争記念行事は、平和の大切さを訴える一方で、より明確に日本を標的に向けられているものがみられる。そして、歴史と現実を混同しているらしい。歴史は憎しみで記念されるものではない。

そして、12月13日に着物を着ることがタブー視され、警察に通報されたというのはたいへん驚きだ。過去を忘れないことは、現在と未来の平和を大切にすることだ。今の日本人を戦争から切り離して考えるべきだ。今の日本と日本人に対する憎しみを持ってはいけない。戦争と着物を切り離して考えるべきだ。着物には罪がない。着物を着る人には全然非がない。むしろ、美の伝達者である。

「公祭日」は特別な日であるとはいえ、着物を着る人を非難するのは、日本の伝統や文化に対する理解や敬意を欠いていると言わざるをえない。また、12月13日に日本料理を食べるのもダメだろうか。

録音を聞く限り、宋氏の授業内容は、歴史問題に疑問を持つことへの表現は不適切な点が全然なかったと思う。しかし、中国では、南京事件の犠牲者数を議論すら禁止されているだろう。

世論の風向きは、10年前よりさらに悪くなっているかもしれない。過去、桜の季節に日本を訪れる中国人観光客の多くは、靖国神社の桜を愛でたと記憶している。中国国内の友人によると、現在、日本の国旗や天皇が描かれた資料の公式的印刷は禁止されている。

個人によって違っているかもしれないが、中国人は日本に対して、過去の戦争を蒸し返して延々と日本を非難する一方で、現在の日本政府を見下しながら批判するなど、複雑な感情を抱いている。一方で、日本の製品やサービスの質の高さには、うらやましさを持っているに違いない。

中国と日本の関係には以心伝心することが大切だ。自分が他人をどう思うかが、他人が自分をどう思うかにつながる。国もそうだと思う。外交にも、平等と尊敬が必要だ。

北京五輪が開幕する前に、日本に関連する世論事件が起きていることは、遺憾の意を言いたい。もし、これが日本を刺激するための意図的なものであるならば、間違いなく愚かな行為である。日本がもっと寛大になり、中日共通の利益のために中国に寛容に対応することを望む。

世論事件とは、「中国で、違う声が出てきた!」ということだろう。「人人心中都有一杆秤(誰の心にも物差しがある)」という中国語の俗語があり、誰もが自分の心の中に客観的な認識や評価を持っていることを意味する。

中国国内の知人たちも、上記の三つの世論事件について、公式とは異なる見解を持っているはずだ。まだ声を上げていないが、静かに自ら思考を醸し出しているに違いない。もっと多くの声が出されることに期待せざるをえない。

日本と中国の間の「楽話(らくわ)」を評論する黄文葦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

image by: NGCHIYUI / Shutterstock.com

黄文葦この著者の記事一覧

在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 黄文葦の日中楽話 』

【著者】 黄文葦 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 第1月曜日・第3月曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け