先日行われた衆院本会議で、野党でありながら政府予算案に賛成するという異例の対応を見せた国民民主党。同党を巡っては昨年にも「自公政権入り」が囁かれましたが、玉木雄一郎代表の真意はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、国民民主党の狙いと、玉木代表の壮大とも言うべき野望を推測。さらに彼を取り巻く「複雑な方程式」を解説しています。
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与党入りだけではない? 国民民主玉木代表の野望
国民民主党の玉木雄一郎代表の発言が目立っています。例えば、2月27日にはガソリンの急騰対策として一時的に揮発油税を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を政府に求めたそうです。これは純粋ポピュリズムですが、反射神経の良さをアピールしたいということでもあるのでしょう。
反射神経ということでは、ウクライナ情勢に対して西側が行った経済制裁に関して、日本がすぐに同調しなかったことについても、岸田政権の対応を「遅い」と批判するなど軍事外交面でもアピールをしています。
極め付けは予算への賛成です。2月21日に衆院予算委員会で採決された、22年度予算案については、自民・公明の与党と、国民民主党による賛成多数で可決されました。予算案は行政府の政策の柱ですから、それに野党が賛成するのはきわめて異例です。
こうした動きの背景には、与党入りを狙っているなどの声がありますが、これは「まんざらフィクションでもない」と思います。
まず直近の政治日程としてあるのは、7月の参院選です。現在の国民民主党は参議院に12議席を有していますが、このうち7議席が改選になります。ということは、まず国民民主としては今回の選挙は正念場であり、党勢を維持して拡大するためには非常に重要な選挙になります。ただ、改選議員の知名度ということでは、それほどではないので、とにかく党としての集票に必死ということが言えます。
一方で、もう少し先まで考えてみると、国民民主という政党には「与党入り」するチャンスがないわけではありません。あるとしたら、次の2つのパターンです。
- 総選挙で自民党が大敗し、自民公明だけでは過半数に達しない場合に、重要なキャスティングボードを握った格好で連立政権の与党入り。
- 仮に憲法問題などで公明が与党を離脱した場合、国民民主だけで必要な数を満たす場合は、率先して与党入り。
もちろん、この両者のパターンにおいても、自民党が維新と組む可能性はありそうです。ですが、全国区と一部はうまく行っている東京ではいいのですが、大阪では維新と自民は支持基盤も含めて超ライバル関係にあるわけです。大阪ではお互いを敵として必要とする関係と言ってもいいでしょう。
ということになると、自民党が維新と連立するのは非常に難しいわけです。その場合に、中道政党として連立に入れば、大臣のイスが自動的に転がり込んで来るし、数名の議員は副大臣や政務官になれるかもしれません。国民民主はこれを狙っているわけです。
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もっと言えば、1.のパターンの場合は、例えば「自社さ政権」において少数与党から村山富一総理が誕生したように、万が一の場合には総理の椅子が転がり込んで来る可能性もゼロではないと思います。適任かどうかは別として、玉木氏には単なる与党入りだけでなく、大臣、更には総理という野望も感じられます。
しかしながら、問題もあります。野党だから「反射神経よく」ポピュリズムに迎合して、一見すると正論めいたことを言い放っていてもOKという面が政治にはあります。ですから、仮に与党になってしまうと、存在感を発揮できずに埋没ということになりかねません。実はそれでも構わないし、玉木代表と一部の選挙に強い議員が堂々と自民党で要職に就ければ、まあいいじゃないかという計算はあるのだと思います。
あとは、小池知事の動向ですが、五輪を開催して「しまった」こと、そしてコロナ禍への対策、都財政悪化については民意がどこまでついて行っているのかという問題があるので、国政復帰は相当に遠のいた格好です。ですが、仮に小池氏がまだまだ国政に未練があるのであれば、玉木氏との関係はもっとスッキリさせないと、結局は「希望の党」の二の舞になると思います。
野望を持つのは結構ですが、玉木氏を取り囲んでいる方程式はかなり複雑のようです。
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