ウクライナに侵攻したロシア軍の前線の兵士には、多くの戦死者が出ていると伝えれられています。徹底抗戦するウクライナからある程度の譲歩を引き出し停戦が叶っても、プーチン政権の前途は明るくないと見るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。ロシア兵戦死者を顔認証で特定し、本人のSNSアカウントを通じ知らせるというウクライナの戦術が、ロシア国内での反戦気運高めると予想。コソボ紛争で空爆に参加した米軍パイロットを特定し脅迫した新ユーゴの戦術が進化した「新たな戦争の時代」の始まりを伝えています。
「新たな戦争の時代」が始まった
ウクライナの首都キエフ東部のロシア軍の後退について、生物・化学兵器を使う準備ではないかとの憶測も飛び交い、ウクライナ情勢は予断を許さない「危険水域」を漂い続けています。
そうした中で、ウクライナの東部と南部でのロシア軍の猛攻撃を停戦の兆しととらえる見方も出始めています。もともと親ロシア勢力が実効支配してきた東部ドネツク、ルガンスク両州と南東部のマリウポリ周辺でのロシアの実効支配について、ロシア側の要求通りに独立を認めることはないまでも、自治権を持つ州や地域にすることで合意し、停戦を実現するという方向です。
これなら、軍事侵攻によってウクライナの国土の10%以上を削り取ったことをロシア国民に成果としてアピールすることができ、プーチン大統領の顔も立つという考え方です。それでも、いったん揺らぎはじめたプーチン政権の前途は明るいものではありませんが、それに拍車をかける動きがウクライナ側から仕掛けられていることを見逃してはなりません。以下は、そのニュースです。
「ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は3月23日(現地時間)、戦闘で死亡したロシア兵の顔をAIで特定し、SNSを介して家族や友人に知らせていると、Telegramに投稿した。
同氏は米Reutersに対し、ロシア兵のSNSアカウントを見つけるために、顔認証プラットフォームを手掛ける米Clearview AIの技術を使っていると語った。
ウクライナによると、2月24日のロシアによる侵攻以来、約1万5000人のロシア兵が戦闘で死亡したという。
Reutersは13日、Clearview AIがウクライナに顔認証プラットフォームの提供を開始したと報じた。Reutersが入手した同社のホアン・タン・タットCEOからウクライナ政府に送った書簡で同氏は、Clearview AIはロシアのSNS「VKontakte」で公開されている20億点以上のロシア人の顔写真を保有していると語った。
同社は、SNSに投稿された人物の画像に顔認識技術を適用し、自社のデータベースに追加していることで知られている。同社の顔データベースには100億点以上の画像が蓄積されている。この手法については人権団体などがプライバシー侵害だとして批判している」(3月25日付ITmediaNEWS)
このニュースに接して思い出したのは、1999年のコソボ紛争でのユーゴスラビア側の戦術です。NATO軍の熾烈な空爆に対して、ユーゴスラビア側はハッカー部隊を米国の国防総省のサイトに侵入させ、出撃しているパイロットの個人情報を盗み出し、留守宅に脅迫状を送りつけたのです。
このときの脅迫状戦術は効果を発揮したとは思えませんが、今回の戦死者の顔認証によるSNSを使った肉親や友人・知人への働きかけは、ロシア国内の反戦気運を高めていくうえで一定の効果が期待できそうです。
ウクライナでの戦いは、様々な面で新たな戦争の時代に入ったことを教えてくれています。(小川和久)
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