先日掲載の記事では、ネット上でささやかれている「東京五輪汚職事件での竹中平蔵氏逮捕」の可能性について検証した、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。その中で、「残念ながら竹中氏の逮捕はない」とした大村さんですが、根拠はどこにあるのでしょうか。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で今回、そう断言した理由を詳しく解説。さらにこれまで竹中氏が続けてきた法律の抜け穴を突くような行為を、「日本社会が抱えている病巣の一つ」と強く非難しています。
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※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2022年10月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
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なぜ竹中平蔵氏は逮捕されないのか?
前号では竹中平蔵氏に関して次のような記事を掲載しました。
- 最近ネットなどを中心に竹中平蔵氏の逮捕があるのではないか?という噂が流れている
- その噂の根拠は、東京オリンピック関係で贈収賄の逮捕が相次いでいるし、竹中平蔵氏が最近パソナを辞めたのも逮捕が近いからではないのか?ということである。
- しかし、筆者としては竹中平蔵氏が最近パソナを辞めたのは偶然であり逮捕はあり得ないと考える。
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今号ではその件について、もう少し深く掘り下げたいと思います。
筆者が、「東京オリンピック関連で竹中平蔵氏が逮捕されることはない」と考える最大の理由は「贈収賄は逮捕されるけれど天下りは逮捕されない」からなのです。
今回東京オリンピック関係者が逮捕された容疑である「贈収賄」という犯罪について、ご説明したいと思います。贈収賄という犯罪は、政治家や公務員など「公的な権力を持っている人」に、私企業などが「特定の目的のために金品を送る」という犯罪です。そして渡した方は贈賄という犯罪になり、もらった方は収賄という犯罪になるのです。
この贈収賄という犯罪は、「特定の目的」がなければ成り立ちません。たとえば、今回の東京オリンピックであれば、「安いお金でスポンサーの枠に入りたい」と思っていた企業が、オリンピック理事に金品を渡して、その枠をもらったということです。直接金品を渡したわけではなく、理事の会社への委託料などという形をとっていますが、その委託料が賄賂だと認定されたわけです。つまり、「スポンサー枠の確保」のために「金品の授受」があったという関連性が認められたから贈収賄で逮捕されたのです。
たとえば、ある国会議員がある私企業からお金をもらったとします。そしてその国会議員は、その企業に対して、いろんな便宜をはかったとします。しかし、これだけでは贈収賄罪は成立しません。その私企業が「駅前再開発事業の受注の便宜を図ってもらうため」など、具体的な目的がなければならないのです。具体的な目的もなく、「いろんな便宜を図ってもらう」ために政治家にお金を渡した場合は、贈収賄にはならず、ただの政治献金になるのです。
「特定の件で便宜を払ってもらう」ことも「いろんな便宜を払ってもらう」ことも、社会にとっては、同じような害悪であり、我々から見れば、腑に落ちない話ではあります。が、現在の法律では、このように贈収賄というのは、立件するにはかなりハードルの高い犯罪となっているのです。
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日本は“天下り”無法地帯
そして天下りの場合も、「特定の便宜」ではなく「いろいろな便宜」を図ってもらうために行われるものです。天下りというのは、公的な権力を持っていた公務員などが、私企業に就職して多額の報酬をもらうわけです。その元公務員は、今でも官庁に強いパイプを持っていたりして、その私企業にいろんな利便を働くわけです。
が、天下りは現在の日本の法律では犯罪ではないのです。なぜなら、「特定の目的」のために金品の授受があったわけではないからです。
竹中平蔵氏が、世間から批判を浴びている要因の一つは「天下り」です。
竹中平蔵氏というと、ご存じのように小泉内閣の経済政策を一手に引き受けてきた政治家であり、金融担当大臣、総務大臣などを歴任しました。また総務大臣の連続在職期間はその当時の史上最長記録でもありました。総務大臣というのは、国の様々な許認可権を持っており、公的権力の中枢のような立場です。そのような政治家が、引退後すぐにパソナという人材派遣会社の最大手企業に入るということは政治倫理のかけらもないものです。
竹中平蔵氏は、政界から引退した後も、政府の諮問機関である「産業競争力会議」のメンバーとなるなど、政権運営に深く携わってきました。竹中平蔵氏は、この「産業競争力会議」において、企業の「再就職支援のための助成金の支給」を強く提言しました。よくこんな露骨な提案をしたものだと感心するほどです。この再就職支援は、もろにパソナの利益に直結するものだったからです。この助成金の多くを最終的にパソナが吸収するような構造になっていたのです。竹中平蔵氏のこの助成金提言は採用され、2014年以降、数百億円単位の予算がつけられました。
パソナというと、新型コロナでの持続化給付金の中抜き問題が記憶に新しいところですが、ずっと以前から似たような事をしていたのです。
またパソナは、東京オリンピックのスポンサーになりましたが、パソナは東京オリンピックのアルバイト派遣業務などを引き受けていました。その際、アルバイト料の多くを中抜きするなど、相変わらず、倫理に欠いたことを行っていました。
そういうことから、竹中平蔵氏やパソナも逮捕されるのではないかと噂されるようになったのです。
確かに、パソナが東京オリンピックのスポンサーになり、東京オリンピック関連業務で大儲けしたことは、国民にとっては不快な話です。だからとって、竹中平蔵氏やパソナが逮捕されるわけではありません。贈収賄の容疑はどこにもないからです。
逮捕されたAOKIやKADOKAWAは、それ以前は公的権力と密接だったわけではありません。だからこそ賄賂を渡して、東京オリンピックのスポンサーの枠を手に入れようとしたわけです。
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“長年の癒着”ならば犯罪にならない
しかし、パソナはそうではありません。パソナは以前から公権力に深く結びつき、これまでも国の事業をたくさん受注してきました。東京オリンピックのスポンサーになることもかなり前から決まっていました。AOKIやKADOKAWAのように、駆け込み的に入ってきたわけではありません。
パソナは豪勢な施設で与野党の国会議員を接待漬けにするなど政治家との癒着がたびたび問題にされてきましたが、これは長年行ってきたことであり、「特定の目的」のためにピンポイントで行ったわけではありません。「特定の便宜」をはかったという証拠がないので、罪には問われないのです。
竹中平蔵氏は、パソナを東京オリンピックのスポンサーにしてもらうために、オリンピックの理事に賄賂を渡すような必要はなく、もとからその位置を与えられていたのです。
また竹中平蔵氏は、パソナの会長を長く務めており、パソナからは十分に報酬をもらっています。それ以上に金品をもらう必要もありません。だから、収賄の容疑もないわけです。
つまりパソナは、長年、国家権力に食いついて事業を行っており、単発的に国家権力に近づいたわけではない、そのため、贈収賄が発生することもない、ということです。
贈収賄という犯罪は、単発でやれば捕まるけれど、長年、継続的にやっていれば、罪に問われることはない、ということです。
事実上の「継続的な贈収賄」である「天下り」については、現在の日本ではこれを取り締まる機能はほとんどありません。以前は公務員の天下りについては、かなり規制があったのですが、現在は骨抜きにされています。また政治家や大臣が私企業に天下りすることについては、まったくといっていいほど制約はないのです。竹中平蔵氏は、この法律の抜け穴をついたわけです。もちろん、こういうことが公然と行われていて、社会がよくなるはずがありません。日本社会が抱えている病巣の一つだといえます。竹中平蔵氏関連については、今後も続報したいと思います。
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