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岸田首相が泣きついたか。統一教会べったり山際大臣更迭劇の裏側

旧統一教会を巡る質問についてはあくまで白を切り続けたものの、有権者からの想定以上の激しい逆風にとうとう辞任に追い込まれた山際経済再生担当相。岸田政権はこの一件をもって、すっかり失ってしまった国民からの信頼を取り戻すことはできるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、山際大臣の辞任について「遅きに失した感は否めない」と評した上で、事実上の更迭劇を振り返りつつその舞台裏を推測。さらにこの先、岸田政権が襲われかねない「新たな不安」を挙げています。

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遅きに失した山際大臣更迭。政権はさらなる窮地に

統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とズブズブの関係でありながら、鉄面皮でウソをつき通し、身内の自民党幹部からも、セトギワ大臣と揶揄されていた山際大志郎経済再生大臣がとうとう辞任した。

記憶がない。記録もない。報道されたのだから事実なのだろう。そんな言いぐさ、通るわけがない。あまりに評判が悪く、野党の攻撃に勢いを与えるばかりとなったため、与党内からも更迭を求める声が上がっていた。

辞任劇のあった10月25日。参院予算委員会の集中審議で、山際氏を更迭するのかと、一部報道をもとに野党議員に問われた岸田首相はそれを完全否定した。山際氏が辞表をしのばせて官邸を訪れたのは、その3時間後だった。

どうやら、数日前から動きがあったようだ。山際氏の答弁では政権が持たないと観念した岸田首相は側近たちと相談のうえ、更迭を決断。山際氏の所属する麻生派の会長、麻生太郎副総裁に電話して了解を得た。山際氏が辞表を出し、岸田首相が受理したという体裁をとっているが、事実上の更迭といえるだろう。

しかしこのタイミング、いささか遅きに失した感は否めない。どうして、臨時国会を召集する前に、手を打っておかなかったのか。統一教会問題に対する毅然とした姿勢がないまま、ズルズルとここまできたために、危機はより深まり、岸田首相の政治勘の鈍さを露呈してしまった。

岸田首相はみすみす政権浮揚のチャンスを逃したともいえるのではないか。ガタ落ちの内閣支持率を反転させるには、大向こうをうならせるような大胆な策をとるしかない。たとえば、かつての小泉純一郎首相が「自民党をぶっ壊す」と言って喝采を浴び、構造改革を進めたように。

かりに岸田首相が、教団と関係の深い萩生田自民党政調会長や山際大臣らを、悪党を成敗するとばかりに更迭し、安倍元首相や細田衆院議長と教団との関係についても調べを進めると公言していれば、現下のようにひどい状況には陥っていなかっただろう。

岸田首相の決断が遅れた背景には、山際氏の後ろ盾といわれる甘利明氏に気を遣ってきたこともある。昨年の総裁選で岸田氏の勝利に貢献した甘利氏は党幹事長となり、同じ麻生派の鈴木俊一氏と山際氏の入閣を強く進言し、実現させた。甘利氏にとって山際氏は、同じ神奈川県が地盤であり、ともにエネルギー政策などに取り組んできた子飼いの政治家だ。

だから、岸田首相が“山際更迭”の腹を固めたあと、麻生氏のみならず甘利氏にも了解を得ていたことは容易に想像できる。ひょっとすると、甘利氏が岸田首相に泣きつかれて、山際大臣に引導を渡したというのが真相かもしれない。

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山際氏は、統一教会にとって、よほど重要な政治家なのではないだろうか。10月19日の参院予算委員会を見ていて、つくづくそう思った。

山際氏は2011年にナイジェリア、16年にネパールへ海外出張し、統一教会関連団体のイベントに参加したことが明らかになっている。

小西洋之議員(立憲)が、ナイジェリアとネパールへの渡航費が政治資金収支報告書に記載されていないことに着目し「統一教会に出してもらったのではないか」と質したところ、山際氏は「どちらも自費だった」と答えて、その理由を語り始めた。

「海外出張に関しては、学生時代から海外で動物学の調査研究を行っていたので、政治活動だけでなく、あわせて自然環境や植物の観察を行うことが常だった。このため政治資金として処理するのは自分のポリシーに反する。ネパールに出張した目的は大地震からの復興状況を確認するためだった。ナイジェリアについては、私はずっとアフリカをテーマに政治活動をしてきた人間で、貧困、人種、環境などアフリカの問題の縮図のようなところなので機会があれば訪問したいと思っていた」

つまり、ナイジェリアへは主としてアフリカ問題への個人的関心で、ネパールには大震災からの復興状況を視察するために行ったというのである。それなら政治資金を使うのに何らはばかるところはないように思えるが、それはともかくとしても、なぜ、たまたま個人的関心にしたがって渡航した先で、統一教会関連団体のイベントが行われているのかの説明がつかない。

誰が考えても、山際氏は統一教会のイベントがあったから渡航したと考えるのが妥当だろう。旅費を教団が出したのではないかと小西議員が疑うのも無理はない。

小西議員は「ネパール、ナイジェリアとも詳細に記憶されている」と皮肉り、ならば「統一教会関連についても記憶しているはずだ」と迫った。

それでも、山際大臣は「どちらも、副次的に(スケジュール)を合わせたので、その会合については記憶していない。前から申し上げている通りです」と言い張った。教団関連のイベントは副次的なものなので記憶していないという言い訳が、いかに不合理なものかは誰だってわかることだ。

「ネパールの会合で山際さんがスピーチしている写真がある」「ナイジェリアで文鮮明夫妻と会ったか」と小西議員がたたみかけても、山際氏は「記憶はない」「記憶の限りではお会いしていない」と繰り返すばかりだった。

これまでに報道などで指摘され、山際氏が出席を“後出し”で認めた統一教会がらみのイベントは、2010年の韓国におけるセミナー、11年のナイジェリア会議、16年のネパール会議のほか、2013年の「平和大使協議会」、18年に開かれたアフリカビジョンセミナー、2019年に都内で開催された会合などがある。

18年のアフリカビジョンセミナーについては、子どもたちから花束を受け取る韓鶴子総裁とステージ下で見つめる山際大臣の姿をとらえた写真が、教団のホームページに掲載されていた。

当日は山際氏ら2人の国会議員が出席し、祝辞を述べている。機関誌『世界家庭』2018年8月号によると、「2011年にナイジェリアで3、4時間にもなる真のお父様のメッセージをお聴きしたとき、言葉を超えた真実を感じた」というのが祝辞の内容で、ナイジェリアの会議に出席した山際氏のスピーチであることが強く推測される。

山際氏と韓鶴子総裁が一緒におさまった写真も最近、インターネット上にアップされている。19年10月に名古屋市内のホテルで撮影された10人の集合写真だ。自民党国会議員7人と教団側の3人が横一列に並び、真ん中に立つ韓総裁の真横に山際氏が位置しているところを見ても、教団から好待遇を受けていることがうかがえる。

これだけ教団と親密な間柄でありながら、山際氏は、指摘されたほとんどのことに「記憶がない」「記録は廃棄した」などと主張しているのだ。これでは、岸田首相が匙を投げたくなるのも、うなずける。

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振り返れば、8月の内閣改造で山際氏を経済再生担当大臣に留任させたこと自体、岸田首相にすれば悔やんでも悔やみきれないのではないか。そのころにはすでに、教団との繋がりが指摘され始めていた。山際氏と教団の関係についてはある程度、官邸も把握していたはずである。

内閣改造が行われた8月10日の記者会見で、岸田首相はこう語っている。

「政権の骨格として、松野博一官房長官、林芳正外務大臣、鈴木俊一財務大臣、斉藤鉄夫国土交通大臣、山際大志郎経済再生担当大臣には留任いただきます」

山際大臣は政権の骨格を担う1人だから留任させたという。そして、こう続けた。

「今回の内閣改造に当たり、私から閣僚に対しては、政治家としての責任において、それぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを言明し、それを了解した者のみを任命いたしました」

つまり、山際氏は経済再生担当大臣を続けるにあたって、統一教会との関係を点検し見直すことを岸田首相に約束したはずである。

ところが、山際氏は記憶がない、記録もないと言い続けている。それでは点検のしようがないではないか。自分から言うのは損だと思っているのか。よほど知られたくないことを隠していて、それにつながるかもしれない材料を公表するのが怖いのか。とにかく黙っておいて、報道されたら、仕方がないからそれを事実と認めるというのを原則としてきたフシがある。

しかし、それは愚かなことだった。安倍・菅政権下で、モリトモ・カケ・サクラなどの疑惑が浮上するたび、知らぬ存ぜぬとウソをつき通してほとぼりが冷めるのを待ち、逃げ切りをはかる流儀が横行したが、それに倣おうとして墓穴を掘った形だ。

ともあれ、野党のいちばんのターゲットを閣外に放逐し、岸田首相はひとまずホッとしているだろう。だが、新たな不安も、もたげてくる。矛先が他の閣僚に向かい、“辞任ドミノ”とやらが起きないとも限らないのだ。統一教会との癒着だけでなく、政治資金や資質の問題も浮上している。

統一教会と政治の根深い癒着構造を断ち切るには、政権の命運を賭して大鉈を振るう覚悟が必要だ。岸田首相にそれができるだろうか。

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image by: やまぎわ大志郎 - Home | Facebook

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