MAG2 NEWS MENU

WBCの大谷翔平を韓国人も称賛。新たな日韓関係を築くために必要なこと

3月16日、韓国の尹錫悦大統領が訪日し岸田文雄首相と会談。戦後最悪と言われた日韓関係に改善の兆しが見えています。ともすれば敵対感情の発露の場だったスポーツにおいても、大谷翔平選手の活躍が韓国で称賛されているように、純粋に「実力」を称える風潮の定着を期待するのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者で、記者時代に韓国に駐在していた経験がある引地達也さん。今はまだ「八方よし」と言える状態ではないものの、韓国における徴用工問題解決策に対するデモに日本批判の色がないことを伝え、新たな日韓関係を築くために必要なことは何か、考えを述べています。

日韓関係の改善で見えてくる新しい世界に向けて

韓国の尹錫悦大統領が来日し岸田文雄首相と会談したことを象徴として、確実に日韓関係が改善してきた。

日韓の両首脳が定期的に相互訪問するシャトル外交や韓国ドラマを代表とする韓流ブームによる蜜月時代から、小泉純一郎首相の靖国神社参拝や韓国側の竹島の領有権主張で一気に冷え込んだ境目に韓国に駐在していた経験から、「その前に戻れれば」と念じ続けて、長い歳月が過ぎた。

今回の改善は久々に本当の光が見える気がしている。とはいえ、韓国の保守と革新に二分された状況の中で、米国との協調を優先し北朝鮮を敵対する保守政権でもある尹大統領の背景を考えると、今もなお八方よしの状態には程遠い現実もある。

それでも今回、最も近い隣国との関係改善で、大きな役割を果たしているのがソフトパワーの力である。映画、ドラマ、音楽、スポーツ。自然な文化交流が前の世代が築いていた垣根を越えて、新しい価値観でそれを乗り越え、互いにポジティブに受け止めながら、新たな関係を築ける光が見える気がしてならない。

韓国のアーティストはもはや日本に広く浸透し、その「韓国性」のイメージはすでに刷新され、洗練された歌やダンス、それらのパフォーマンスの質は高く、その評価が人気の高さに結びついているから、それは実力派と言えるだろう。

「実力」への敬愛は国境を超える。絶対値の強さが出自への偏見を飛び越えていく。それは、ワールドベースボールクラシックで活躍した大谷翔平選手にも言える。

野球も根強い人気がある韓国からは、100マイルの速球とメジャーリーグで本塁打王を争う長打力を併せ持つ大谷選手の能力は、もはやアジア人が体力的に劣勢にあることを跳ね除け、「アジアの代表」としての誇りも見出しているようだ。

日韓が野球やサッカーでライバル関係にあることは重要だが、それは罵り合い争いではなく、今後はスポーツマンシップを基礎とした尊重のし合いも定着させたい。そのために大谷選手の存在は大きい。

この記事の著者・引地達也さんのメルマガ

初月無料で読む

日韓関係の改善を受けての韓国側の雰囲気を木村幹・神戸大学大学院教授はニューズウィーク日本版(4月3日)「日韓戦の勝敗に一喜一憂した、『かつての韓国』はもはや存在していなかった」との記事でこう伝えた。

韓国はナショナリズムの強い国として知られ、かつてこの国を支配した日本はその主たるターゲットだった。だからこそ、スポーツにおける日韓戦にも強い関心が向けられ、韓国人は勝敗に一喜一憂した。勝利した際には強さを誇り、敗れたときにはふがいなさを悲憤慷慨し、来るべき試合での勝利を誓ってきた。しかし、2023年3月の韓国にはその状況は存在しなかった。

さらに木村教授は、日韓関係改善の前提となった徴用工裁判をめぐる政府の解決策への反対運動について、街頭で決定に反対するデモはあるが、これまでの日本批判ではなく、韓国政府への批判であり、かつては安倍晋三首相のプラカードにバツ印を付けて抗議したような非難もなく、デモには岸田文雄首相の「姿」はみられないという。

木村教授は、この行動を「それが韓国の人々が日韓関係を冷静に考えられるようになった証しなら、それはきっと良いニュースなのだろう」と評価する。

「あの日に戻れたら」と思い続けた私にとってもそれは良いニュースだと思いたい。文化の全面においてそれぞれのアーティストを受け入れ、尊重し合い、政治における鍔迫り合いとは距離を置く状況はいつしか融合していくだろう。

その過程では1世紀以上前、日韓併合により植民地化した日本政府が朝鮮半島の自由を奪い、様々な苦難を与えてきた歴史があることを忘れないでおきたい。その史実を当事者視点でくみ取りながら、良好な関係を築くのは後世を生きる私たちの責務である。

その責務を担い、変化する社会、交流する文化と若者たち、新しい感覚とコミュニケーション環境の激変を自覚しながら、未来に向かい現実的な対応をする。新しい日韓関係を築くには今が好機である。

この記事の著者・引地達也さんのメルマガ

初月無料で読む

image by:Conor P. Fitzgerald/Shutterstock.com

引地達也この著者の記事一覧

特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスティックなやさしい未来 』

【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け