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A news headline that says "My number" in Japanese

マイナンバーカード問題で判明。Google日本元社長が嘆く“一線を超えた”日本の大崩壊

まさに「ゴリ押し」としか言いようのない、政府によるマイナンバー制度の拡大。マイナンバーカードを巡っては呆れ果てるほどのドラブルが続発していますが、何がこのような事態を招いているのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作でも知られる辻野晃一郎さんが、問題を引き起こしている要因を5つ上げ、それぞれについて詳しく解説。さらに現状を放置する限り日本の凋落が止まることはないとの見解を記しています。

マイナンバーも入管法も。完全に機能不全に陥った国会

最近の入管法改定* の強引な進め方や、マイナンバーカードを巡る様々なトラブルを見ていると、国の崩壊レベルがすでに一線を大きく超えてしまっているのではないかと危惧しています。

マイナンバーカードに関しては、

  1. マイナポータルで他人の年金記録を閲覧できた
  2. コンビニで住民票などの証明書を他人に発行した
  3. マイナ保険証で別人の情報をひも付けた
  4. マイナンバーとひも付ける銀行口座に別の人のものを登録した
  5. カード発行などで得られるポイントを他人に誤って付与した

など、本来あってはならないさまざまなトラブルが多発しています。

これだけトラブルが続出すれば、一度立ち止まってこの制度の基本設計から見直すのが当然だと思いますが、担当の河野大臣はどこまでも強気一辺倒で、マイナンバーの活用拡大を目指した改正マイナンバー法などの関連法も、6月2日の参院本会議であっさり可決・成立してしまいました。

政府は、もともと保有が任意であったマイナンバーカードを、健康保険証と置き換えることで実質強制保有に近い形とし、2024年秋には健康保険証を廃止するとしています。さらには、2026年中に、偽造防止などセキュリティーを高めた新しいカードの導入を目指すとしていて、今のカードの安全性が十分ではないことを自ら認めています。

現在トラブルが続出していて、2026年には新カードに置き換えるのであれば、現行カードの普及を何故ここまで急ぐ必要があるのか、まったく理解できません。

マイナポータルの利用規約には、「免責事項」として、「(デジタル庁は)利用者または他の第三者が被った損害について一切の責任を負わない」ともともと記載されていました。5月11日に改定された最新版では「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」に書き換わっています。「故意又は重過失」であるかどうかを判断するのはデジタル庁ですし、利用規約などはいつでもサービス提供者が改定できるものです。

任意であればわかりますが、国が国民に実質強制するサービスの利用規約を、国が一方的に決めるのもおかしな話です。

そもそも、マイナンバーやマイナンバーカードの導入に関しては、政府の目的や、国民にとってのメリットが十分に説明されているとは言えません。もちろん、「行政のデジタル化」は待った無しで進めねばならない課題であり、それによって行政手続きなどの国民負担が軽減されて、給付金支給などの行政サービスがスムーズに受けられるようになれば、国民にとっても大きなメリットですが、今の進め方では、国民の疑念や不安をいたずらに高めるばかりです。

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河野太郎を厳しい立場に置いておきたい岸田

このような混乱を引き起こしている理由は、主に以下の五つに整理されるでしょう。

一つ目は、前述の繰り返しですが、マイナンバーやマイナンバーカードの導入によって何を実現しようとしているかについて、政府から国民への説明が不十分ということです。

最も疑念を持たれているのは、政府や財務省が、国民の資産状況等の個人情報を集めて、課税強化などに都合よく利用しようとしているのではないかという点なので、個人データの利用について、政府側を規制する法律や、第三者機関による監視などの仕組み作りが必要です。

二つ目は、担当大臣である河野大臣の進め方があまりにも強引で性急過ぎるということです。特にマイナ保険証については、昨年6月の段階では、従来の保険証とマイナ保険証の選択制を打ち出していましたが、従来の保険証を廃止してマイナ保険証で一本化する、という乱暴なやり方は、河野大臣が担当になってから打ち出されたものです。

突破力を売りにしているようですが、「ブロック太郎」の呼び名が示す通り、ワクチン担当大臣の時にも問題になった「聞く耳を持たずに無理難題を強引に推し進め、反対されるとやたらと切れまくる強行突破スタイル」に批判が集まっています。

三つ目は、その河野大臣を監督する立場であり任命権者でもある岸田首相のリーダーシップの欠如です。これだけの混乱が広がっているにも関わらず、本件に関しては河野大臣のやり方を容認するばかりで、岸田首相の存在感がまったくありません。本来なら、首相の権限で進め方を見直したり、それに伴う大臣の更迭などがあってもいい状況ですが、「我関せず」という印象です。

おそらく、岸田首相は個々の政策にはまったく関心がなく、気にしているのは、解散時期を含めた政権の維持だけなのでしょう。ライバルの一人でもある河野大臣を、厳しい立場に立たせて追い込んでおけば、政局的にも有利、という判断が働いているのだと思います。そうだとすれば、自己都合が最優先で国民そっちのけの政治と言わざるを得ません。

四つ目は、野党第一党の立憲民主党のだらしなさです。マイナンバーに限らず、入管法改定案* 、原発の運転期間延長法案、防衛財源確保法案など、今国会では、本来なら与野党の激突になるような重要法案審議が目白押しです。

頑張っている議員も少なからずいるものの、党として徹底抗戦しているようにはとても見えません。表向きは各法案の問題を指摘して闘っているように見えますが、結局国会の審議日程では与党の言いなりで、結果的には法案成立に協力しています。政権与党に本気で対決姿勢を示さない野党第一党に存在価値はありません。

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政権に飼い慣らされた大手メディアの責任放棄

そして五つ目が、政権にすっかり飼い慣らされてしまった感のある新聞やテレビなどの大手メディアが、国民に伝えるべきことを伝えないことです。政府発表を無批判に垂れ流すことが増え、政府に都合の悪いことはあまり扱わなくなりました。

入管法にしろ、マイナンバーにしろ、徹底的に問題点を洗い出したり、政府の姿勢を追及したりするような報道番組はほとんどありません。統一教会問題にしても、結局、被害者救済法でお茶を濁しただけで、解散命令どころか、自民党内部の浄化などでも何も進展がないままですが、いつの間にかすっかり報道されなくなってしまいました。

冒頭述べた通り、今やこの国の統治の仕組みである議会制民主主義は相当程度壊れてしまっています。今回はマイナンバーを例にしましたが、マイナンバーに限らず、あらゆる重要法案審議に関して、

「まともに説明しない」→「まともに質問に答えない」→「議論や論戦を避ける」→「数の力で押し切る」→「メディアは無批判」→「国民は無関心またはあきらめる」

というようなサイクルがすっかり常態化してしまいました。三権分立もいつの間にか形骸化していて、権力による不正に関しては、検察や司法も及び腰でまるで頼りにはなりません。

この状態を放置する限り、日本の凋落は止まらないでしょう。では、どうしたらいいのか、なかなか良い答えはありませんが、このメルマガでも引き続き多面的に考えていきたいと思います。

* 入管法改正という表記が一般的ですが、改正というよりも改悪と受け止めていますので、ここでは改定という表記を用いました。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年6月16日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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image by: yu_photo / Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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