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すでに終焉した中国の高成長。習近平が「覇権国家の元首」になれない訳

アメリカとの間で、長きに渡り熾烈な覇権戦争を続ける中国。しかし習近平国家主席が世界覇権を握ることことは極めて難しい状況のようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、中国による対東南アジア投資額の急減と、その原因を伝える記事を紹介。さらに中国が覇権国家の座を掴むことが困難である理由を、国家ライフサイクル論等を交えつつ解説しています。

チャイナマネーの減少で中国は覇権国家になれない

中国について私は、2005年に一冊目の本『ボロボロになった覇権国家アメリカ』を出した時から、ずっと同じことを書きつづけています。

当時、日本では、「08年の北京オリンピック、10年の上海万博後バブルが崩壊し、共産党の一党独裁体制も崩れる」という「中国崩壊論」が大流行していました。

しかし、私はその時、「中国はまだ国家ライフサイクルで成長期だから、立ち直りははやい」と書き、実際にそうなったのです。

あの本を出してから15年が経ち、中国の高成長時代は終わりました。とはいえ、ここ数年、「わけのわからない年」がつづいています。

2020年と2021年は、「新型コロナパンデミック大不況」。2022年は、「ウクライナ戦争インフレ」。異常事態がつづいているので、中国の状況がわかりにくいのです。

そんな中、先日、『フォーブスジャパン』7月3日付に、面白い記事を見つけました。

中国の東南アジアへの政府開発融資(ODF)は、データが入手できる直近の年である2021年に再び減少した。同年のODFは39億ドル(約5,630億円)相当で、最も多かった2015年の76億ドル(約1兆970億円)の半分強の水準だ。2010年以降の年平均額である55億3,000ドル(約7,940億円)をも下回っている。

中国の東南アジアへの政府開発融資が、2015年の1兆970億円から、2021年には5,630億円まで減少した。6年間でざっくり半減しています。

中国に代わって他国や国際機関の存在感が増している。2015年以降、中国はこの地域最大の単独投資国として全体の25%を占めていたのが、わずか14%にまで落ち込んだ。実際、中国の投資はピーク時から急減し、今ではアジア開発銀行と世界銀行にトップの座を譲っている。

2015年から2021年までで、東南アジア投資に占める中国のシェアは、全体の25%から14%まで減少したそうです。本当に「急減」ですね。

日本は継続的に投資しており、2015年からの累計額は中国にほぼ追いついた。中国の累計投資額は379億ドル(約5兆4,690億円)で、そのほとんどが期間の前半に行われた。地道な取り組みにより日本の累計投資額は280億ドル(約4兆405億円)で、韓国もそう劣らず200億ドル(約2兆8,860億円)強だ。以下、ドイツ、米国、オーストラリア、フランスの順に多く、各国の累計投資額はそれぞれ85億ドル~54億ドル(約1兆2,265億~7,790億円)となっている。

日本、なかなか健闘しています。

そしてもう一つ。日本、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、フランスは、「反中包囲網」の「チーム」です(「一枚岩」とはいえない状況ではありますが)。日独米豪仏が東南アジアに投資すれば、それだけ中国と東南アジアの関係が薄くなります。

では、中国の対東南アジア投資額は、なぜ減っているのでしょうか?

中国の劇的な投資減は海外における優先順位の転換を反映するものではない。東南アジアは地理的に近く、貿易ルートそして国防の観点からしても中国にとって極めて重要であることに変わりはない。また、マレーシアのように中国の「一帯一路」構想への関わりに消極的な国もあるが、東南アジアの国々が中国マネーから一斉に目を逸らしたわけでもないだろう。むしろ、中国が投資を控えていることは、中国が経済と金融の問題を抱え込んでいることを改めて示している。最近のデータが入手できるようになっても、中国の投資が戻っている可能性は極めて低い。

中国が投資を控えている理由は、「中国が経済と金融の問題を抱えこんでいることを示している」

そうです。しょっちゅう書いていますが、中国は、

この3つの理由で、もはや高成長時代は戻ってきません。

中国のパワー、影響力の源泉は、「チャイナマネー」です。しかし、東南アジアの例を見てもわかるように、中国経済の問題で、ばらまけるチャイナマネーの量が減少している。それで、中国は覇権国家になれないのです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年7月4日号より一部抜粋)

image by: Naga11 / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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