【中島聡×辻野晃一郎】日本の技術者を殺す「ノリと雰囲気」とは? Google日本元社長とWindows95の父が語るAI革命と2025年のゲームチェンジ

2023.07.11
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

コードを書けない日本の経営陣はChatGPTも「自分で触らない」

叶内:辻野さんは日本の企業風土みたいなものが大企業病とおっしゃいましたけれども、大企業じゃなくても「何となくみんな一緒にね」という考えが、閉塞感のもとにもなっているのかと思うんですけど、どうでしょうか?

辻野:言葉は大企業病って言うんだけど、別に規模は関係ないんですよね。中小企業でも零細企業でも、現状変更を嫌う人たちが、結果的には大企業病にはまっていくんだと思います。そういう病は、今、日本中に蔓延していますよね。だから、だんだん国力が衰えていくんだろうと思います。そこをどうやって打破していくかというのが、今、我々に突きつけられている課題だと思います。

昔のMicrosoftとか、昔のソニーとか、昔のGoogle……本当に起業家スピリッツ、アントレプレナーシップが溢れ返っていた頃の活力をもう一回取り戻していくことが非常に重要なんだと思うんです。そういうものが今、日本の産業界からかなり失われてしまっているので、そこが大きな課題だと思っています。

叶内:そういうスピリッツが失われている日本の課題は、どんなところにありそうですか?

中島:根本原因の話に立ち戻るとまた深くなっちゃうけど、症状だけ見ると何か新しいもの、例えば本当に冗談抜きにパソコンを使ったことがない大臣みたいのがいっぱいいるわけじゃないですか。経団連も同じですけど、そういう人たちが、いまだに社会で力を持っている。

たとえばアメリカだとね「バリバリやっている連中は当然ChatGPTを使っているよ」みたいな話があるわけですよ。でも日本だと、まずスマホを使っている……ぐらいの話になっちゃうので、経営トップのレベルが段違いなんですよ。例えば今、アメリカなら、経営陣が集まったときに「お前、ChatGPTをいじったことあるよな」という話になって、20人中18人がいじっていて、2人の人がいじっていなくて、怒られるみたいなことが起こっている。

日本だと、経団連のトップの人に「スマホを使えますか?」とか「Googleアカウントを持っていますか?」って言っても、ポカンとしている段階で、ChatGPTの記事ぐらいは読んでいるけど、使うのは自分じゃなくて部下にやらせているみたいな状況だと僕は思っています。すごくそれは危機的状況だと思います。

辻野:僕は最近、ChatGPTが話題になってから、企業経営者とかビジネスマンにお話しする講演会とかで、必ず「ChatGPTを使っていますか?」って質問するんですよ。そうすると、本当におっしゃる通りで、手を挙げる人がいないんですよ。いてもパラパラ。

「仕事で生かすところまでいっているか?」っていう質問と、「そこまではいっていなくても、個人でいろいろ触ってみていますか?」っていう質問を両方するんだけど、後者でも、手を挙げる人はあんまりいないんですよ。だから、「この同じ質問をアメリカの経営者の人たちにしたら、きっと全員が手を挙げますよ」「いいも悪いも実際に触ってみないことにはわからないので、まずは触ってみましょうよ」と言うのですが、中島さんが指摘した通りのことを、私もそういう場でいつも体験しています。

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新しいテクノロジーとかが世の中を発展させるためには、ノリの良さってすごく大事じゃないですか。だけど今みんな、ノリが悪くなっている気がします。日本の会社で経営幹部に登っていく人たちって、上に行くにつれて、どんどんハンズオフになっていきますよね。細かいことはスタッフに任せて、自分で直接試すことをしなくなる。耳学問優先で、スタッフとかから知識としては吸収するけど……。日々忙しいのはわかりますが、何でも自分で試せるものはまずは自分で気軽に試してみればいいんじゃないのって思う。ノリが悪いんですよ。

だから結局、役員室に閉じこもって、身の回りの世話は秘書やスタッフがやってくれて、社用車がついて、そういう閉ざされた空間の中でどんどんハンズオフになっていく。そしてしまいには電話の取り次ぎもできないしコピーも取れないとかね。コーヒー一杯も自分では入れられないとか。もう、そうなっちゃうじゃないですか。そこは、Googleなんかとは真逆なんですよ。Googleの経営幹部も皆超多忙ですし、秘書やスタッフもいますが、出張の手配や経費精算なんかの細かいことでも、秘書とかに投げないで、ツールを使って自分でサクッとやってしまう人たちが結構いました。  

叶内:私もChatGPTの講演会に行ったりすると「使っていますか?」っていう質問があって、私は聴衆でいたんですけど、半分しか手が挙がっていなくて。「えっ、ここの講演会に来ている人なのに、半分なの!?」ってすごいびっくりしました。面白がっていないんですよね。

日本企業に必要なのは、テクノロジーに対する“遊び心とノリの良さ”

中島:そうですね。だから、僕はChatGPTをいじったら何か得をするとか、偉くなれるとか、時代に先に乗れるとかではなくて、とにかく楽しそうって思ってしまう。触らずにいられないですよね。

たとえばiPhoneが出た時も、そもそもiPhoneが発表されるって噂を聞いて、僕はWWDC(Appleが毎年6月頃に開催する世界開発者会議に行きました。もう手に入れなきゃしょうがないって思いますよ。今度もVision Proが出るじゃないですか。もう申し込みが始まったらすぐに買います。もう値段とか関係ないんですよ。ああいう新しいものが出たら触らないといけないという純粋な興味を持ってしまうんです。 

新しい技術について、勘違いする人がいるんだけど、別に使ったほうがいいとか得をするとかじゃないんですよ。本当に心の底から、ああいうものを楽しいって思える気持ちが大事で、多くの人にそこが欠けている気がします。それが閉塞感なのかな、どうして楽しいって思えないんだろうと、僕はすごく感じます。

辻野:そうですね。そういう所で、さっき僕が言ったノリの良さっていうのがどんどん失われている感じがします。こういう面白そうなものが出てきて、まず居ても立ってもいられなくなんないと、おかしくないですか?しかも、フリープランでただで使えるバージョンもあるわけだから「じゃぁ、ちょっと使ってみよう」って普通は思うでしょ。しかも経営者だったら、「これをうちの業務にうまく生かせないかな」とか「これを使うと仕事のやり方とかがどういうふうに変わるのかな」とか、使ってみないと分かんないし、興味津々でそうするのが当たり前だと思うんだけど、日本の経営者たちは全然そうしない。そこは本当に問題だと思いますよね。

叶内:ノリが悪いんですね。 

中島:たとえば、ソニーという企業がすごくいい時代だったときは、ソニーはそういうことを面白がる人が集まる場所だったから、強い会社になったんじゃないでしょうか。

辻野:そうですね。盛田さんとかは、アメリカに出張すると、よく現地で流行っているおもちゃなんかを買ってくるんですよ。それで、会長室で自分で床に這いつくばって、遊んでいたりするわけです。創業者からしてそういう遊び心満載でノリのいい人たちだったんで、昔は社員もみんな同じだったんです。みんなすごく遊び心があって、「いいね!いいね!」って、何か面白そうなものがあると、興味津々でどんどん人が集まってくるみたいなカルチャーでした。

だけど、大企業病になってくると、そういうことを馬鹿にしたり否定したりするような人たちがどんどん増えてノリが悪くなるというか白けてくるじゃないですか。そして、フィックスト・マインドセットって言うんだけど、失敗は絶対に駄目とか、失敗を忌み嫌うようになる。失敗を恐れてチャレンジしなくなり、チャレンジしないからイノベーションも起きない。その逆に、グロース・マインドセットっていう言葉があって、「失敗は成功の母」みたいな意味ですけど、「いろいろとチャレンジしたり、いろいろとやってみたり、試してみたりして、どんどん前に進んでいこうよ」「失敗しても、自分の成長の肥やしになるからいいよね」っていう考えがイノベーションにもつながる。

そのグロース・マインドセットがどんどん失われて、フィックスト・マインドセットが支配するような社会に日本全体がなってきている感じがすごくするんですよね。ノリが昔とまったく変わってきちゃっている。もちろん、若い人たちの中には、ものすごくノリのいい人たちもたくさん出てきていますよ。かつ、グローバルに通用するような人材もどんどん出てきています。ここは大きな希望なのですが、一方で、失敗を恐れる古い体質が根強くて、なかなか消えていかないというところがありますよね。

叶内:面白がる人が集まっていると、そこにさらに面白いことが集まってくるみたいな感じがありそうですね。

中島:そうそう。それが結局、イノベーションに繋がっていくんですよね。

日本の技術者を不幸にする「ITゼネコン」という病

叶内:日本社会にはそれがないから、新しいものが生まれない、イノベーションが起きないんですかね?

中島:でも、やっぱり日本だって人はいるわけで、優秀な人もいっぱいいるし、そういうマインドに溢れた若い人たちもいっぱいいるんです。だけれども、やっぱりそういう場がない。全くないわけじゃないけど、そういう人たちが働きたい会社とか、そういう魅力にあふれた会社が少なくなってしまった。

それには、いろんな原因があると思うんです。アメリカの場合はシリコンバレーっていうシステムがあって、新しい企業にお金が流れ込む形ができたけど、日本は政府のお金がいまだに古いビジネスモデルの会社に流れ込む状況が続いているじゃないですか。今回のマイナンバーシステムの話とか聞いていると、旧態依然としている。例のみずほ銀行のシステムを作ったような連中が、またあれを作っているわけで、うまくいくわけないんですよ。

僕は昔から指摘しているんだけど、ああいういわゆるITゼネコンは、仕様書だけを書いて下に丸投げするので、いいものができない、かつ人が育たないっていう、もう悪循環になってしまっている。でも、そこに政府がずっとお金をあげ続けるから、いつまでも生き残って、いつまでも反省しないで直らない。逆に、そういう企業が理系の優秀な連中を取っちゃうから、もったいないですよね。僕の同期の連中も、結構そういう大きなITゼネコン系に行きましたけど、今はもう全然プログラムを書いてない。管理職ですよね。

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GoogleとかAppleとかだと、本当にバリバリの理科系の連中が、もうずっとプログラムを書いて「俺は管理職になりたくない!」みたいな連中がいっぱいいるんですよ。僕もそうでしたけど。だから、それは力になりますよね。

叶内:プログラマーでずっといられるというのがモチベーションにもなりますよね。

中島:そうですね。この前、僕が仲良くしている若い連中から言われたことがあるんです。「中島さん、日本は、偉い人はコードを書かないんですよ。中島さんぐらいですよ」って言われて、僕はそうかなと思ったけど、でも考えてみると、僕も60を超えていますけど、この年齢でプログラムを書いている日本人って、多分、ほとんどいないんだと思います。アメリカだと、いくらでもいますよ、本当に。

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