糖質制限食で摂取量を増やすことになるたんぱく質について、「一度に多く摂取しても、たんぱく質を吸収できる量には限りがある」との言説があるようです。真偽を知りたくなった読者の質問に答えるのは、メルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』著者で、糖質制限食の提唱者として知られる江部康二医師です。江部先生は、その言説が「筋肉に取り込まれる量には限界がある」ということあって、エネルギー源としての話ではないと誤解を解き、食事の回数も1日2食で問題ない理由を、石器時代の日本人の食生活に遡って説明しています。
たんぱく質摂取量と食事回数
Question
43歳女性、境界型糖尿病の疑いがあり、糖質制限を行っています。たんぱく質の摂取について質問があります。
「1度に吸収できるたんぱく質の量は20g~30gなので、あまりに多くのたんぱく質を摂取しても吸収できない」という情報をよく見聞きします。であれば、例えば筋トレを行う人に推奨されている、「体重×2g」のたんぱく質を摂ろうとすれば、1日に何度も食事をすることになります。
面倒なので1日1~2回の食事で必要量をまかないたいのですが、問題ないでしょうか?
ドクター江部からの回答
- たんぱく質の摂取量と筋肉への取り込みの上限
- たんぱく質の人体への吸収
- 食事回数とたんぱく質摂取
これらについて、筋肉博士・石井直方東大教授の「タンパク質の摂取を増やせば増やすほど、筋肉が増えるわけではない!」第63回 解明されつつある最新知識:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)などを参考に考察してみました。
- 1回のたんぱく質の摂取量20gくらいが筋肉合成に役立つ量である。
- それ以上のたんぱく質(30~40g)を摂取しても、体内に吸収されるけれど、筋肉合成には利用されずにエネルギーとして使用される。
これらは石井直方教授のご見解です。日本人の普通の食事で、3食とも、たんぱく質20gくらいは摂取できそうです。ごはん・納豆・生卵を食べるだけでも15gほどのタンパク質を摂取することができますし、それにシャケの切り身を一切れも加えれば20gに達するので、普段の食事で十分ということになります。
そうなるとプロテインも不要ということになってしまいますが、たんぱく質は筋肉合成を増加させるスイッチでもあるので、20~30gを1日に複数回摂ると、効果的で便利です。
1800kcalの高雄病院スーパー糖質制限給食の平均が、脂質:56% たんぱく質:32% 糖質:12%で、たんぱく質が144g/日となります。従って筋肉量維持には充分過ぎるたんぱく質摂取量なので、余った分はエネルギーに使われている分も多いと思います。
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日本列島にヒトが居住し始めたのが38000年前の旧石器時代からです。旧石器時代はとても寒かったので針葉樹しかありませんでした。従って、食糧として手に入ったのは、マンモスやナウマン象、シカ、イノシシ、ウサギなど動物性食品のみでした。植物性食品は自然薯とコケモモくらいしかありませんでした。
すなわち日本人の身体は、肉食に特化して適合しているということとなります。旧石器時代は22000年間続いて、この間に日本人の肉体は形成されたので、スーパー糖質制限食実践で、たくさんの動物性タンパク質を摂取しても、何の問題もないのです。
またたんぱく質は、食事誘発熱産生(DIT)がとても多いです。高蛋白食は、摂食時の食事誘発熱産生(DIT)が通常食に比べて増加します。DITによる消費エネルギーは、実質吸収エネルギーの、糖質では6%、脂質では4%、たんぱく質で30%です。
食事誘発熱産生(DIT)を、もっと簡単に説明すると、食事において、
- 100キロカロリーの糖質だけを摂取した時は、6キロカロリー
- 100キロカロリーの脂質だけを摂取した時は、4キロカロリー
- 100キロカロリーのタンパク質だけを摂取した時は、30キロカロリー
が熱に変わり、消費エネルギーとしてカウントされるということです。
グリーンランドのイヌイットですが、バング、ダイアベルグらの試算によりますと、伝統的食生活の頃(1855年)のイヌイットは、
- 摂取エネルギー:3202kcal/日
- 蛋白質:377g(47.1% / 1508kcal)
- 炭水化物:59g(7.4% / 236kcal)
- 脂質:162g(45.5% / 1459kcal)
すごい量のたんぱく質ですね。
あとは食事回数ですが、人類は長い間、1日1食か2食だったので、3食食べる必要は全くありません。2食/日で大丈夫です。
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