百田尚樹、有本香の両氏を柱に結党された日本保守党。「順調」に党員を獲得しているとも伝わりますが、彼らはいかなる主張を掲げているのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、先日彼らが発表した重点政策項目を取り上げ解説。さらに結党メンバーの1人である荒川区議の、耳を疑う「ヘイト言動」を紹介するとともに、日本保守党を「劣化した保守が集まったコミック政党」とバッサリ斬っています。
トンデモ政策の日本保守党。つぎはぎだらけの自称保守たち
今月17日、日本保守党が正式に結党され、党の重点政策が発表された。
政策発表より前に、すでに約50,000人が入党していたから、多くの人は、いよいよ自分の入った党の政策を知ることになるわけだ(ふつう、逆の気がするけど)。
まず第一に「日本の国体、伝統文化を守る」という文言が掲げられた。
一行目には、こうある。
1.皇室典範を改正し、宮家と旧宮家との間の養子縁組を可能にする。
わかってはいたので、いまさら驚かないが、のっけから、すでに詰んでいる旧宮家との養子縁組案に意地でも固執する姿勢を見せた。
そして、次に掲げられた重点政策がこれだ。
2.名古屋城天守閣の木造復元完遂
ふぉ!?
驚いて二度見したが、やはり、「名古屋城天守閣の木造復元」と書いてある。
なぜに?ネット募集で全国から入党者が集まっているのに、なぜに名古屋城?
熊本の人は、地震で倒壊した熊本城の復元が先、沖縄の人は、火事で焼失した首里城の復元が先だと思うのだが……。
どういうことかと困惑したが、日本保守党、河村たかし名古屋市長が代表をつとめる名古屋の地域政党「減税日本」と友党関係を結んだらしい。
政策面でどこまで一致できているのか知らないが、河村市長には、長年「戦後に建てられた鉄筋コンクリート造の天守閣を、どうしても、史実に忠実な木造で復元したい!」という悲願があるらしい。
過去には、尾張藩主のコスプレで記者会見を行い、「無理なら全員切腹」と述べたこともあるほど。この思いが、男系固執の「皇室典範改正」と肩を並べ、国政政党の重点政策となったようだ。
木造こだわる河村市長、無理なら「全員切腹」 対立拡大に透ける思惑 https://t.co/fVnbuEtzmD
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) October 19, 2023
名古屋城天守閣の復元に関しては、長らく議論が紛糾している。
そもそも築城当時のように復元するなんて、かなり無理があるのではと思うが、「当時のようにする」=「現在設置されているエレベーターをなくす」という構想でもあるため、反対が多いのだ。
今年6月には、市民討論会で、車いすの参加者に対する差別的な発言が飛び交ったことでも問題になった。
「天守閣までの電動かごを設置してほしい」と発言した車いすの男性に対して、河村市長の構想に賛成する参加者らから「どこまで図々しいの」「おまえが我慢せえよ」「生まれながらに不平等があっての平等」「エレベーターはどの税金でメンテナンスするの」など罵倒が飛んだのだ。発言を受けて、拍手まで起きたらしい。
会場にいた河村市長は、これらの罵倒をスルーし、「熱いトークがありまして、良かったですね」などと発言。
終了後に記者に問われると「聞こえとらなんだ」「自由に発言するのが原則」などと述べた。のちに謝罪しているが、自分の構想を後押しする罵倒だったから見逃した、というのが本音だろう。
「築城時の天守閣を復元したい♪」という夢を見て、城を見学したい市民の障害者を排除してでも成し遂げようと考えるなんて、「名古屋市長、ご乱心」である。
しかも、江戸初期の建築物の復元を「日本の国体、伝統」とはき違え、政党の重点政策に掲げるのだから、もうすべてが完全にどうかしている。
百田や有本が、明治以降の感覚を「日本の伝統」だと思って賛美する「明治アナクロ」なら、河村たかしは「江戸アナクロ」とでも言えようか。
日本保守党=「明治アナクロ」+「江戸アナクロ」説。
どうやって令和のいまを歩いてゆくのだろう……。
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「朝鮮人ヘイト」を撒き散らす迷惑な荒川区議の主張
その他の重点政策には、「憲法9条改正(2項の一部削除)」「消費税減税」「入管難民法の改正と運用の厳正化」など、自称保守派が本来目指していたものの、安倍晋三を愛してしまったがゆえに、ほとんど忘れたふりをしてごまかしてきた項目が並んでいた。
また、国会議員が親から地盤を引き継ぐ「世襲」であることに強い反発があるようで、「議員の家業化をやめる」という主張に重きを置くらしい。
岸信介、佐藤栄作、安倍晋太郎など政治一家から輩出された安倍晋三を、一体どう捉えているのか、小一時間、問い詰めたい。
こう眺めると、日本保守党は、実は「安倍晋三アンチ」なのかもしれない。
大ファンで、愛してやまないはずの安倍晋三に、たびたび裏切られ続け、実は心の底に不満が渦巻いており、その愛憎が「日本保守党」という表現になったのか?
日本保守党=「安倍愛憎の結晶」説。
はやく自由になれるといいね。
さて、そんな17日の結党後には、東京都内で記者会見が行われた。
会見には百田尚樹、有本香のほか、減税日本の河村たかしと広沢一郎、そして、無所属から日本保守党結党メンバーとなった東京都荒川区議の小坂英二が登壇した。
質疑応答に挙手したメディアは、産経新聞、ニコニコ動画、フリーライター、スポーツ新聞、名古屋と大阪の地方局などで、大手マスコミは出席していたのかどうかもわからなかった。
この会見に登壇している荒川区議の小坂英二もまた、ものすごく迷惑な人物だ。
区議20年目の50歳で、「タブーに斬り込む」を売りにしてきたらしいが、やってきたことはというと──。
「日本のパチンコ店の3~4割を経営しているのは在日朝鮮人」という理由から、「パチンコ違法化・大幅課税を求める議員と国民の会」を立ち上げ、延々と「パチンコ撲滅運動」「朝鮮学校廃絶」「在日特権を許さない」を訴えまくり、排外主義の代表格である「在特会(在日特権を許さない市民の会)」とも協力しながら、在日朝鮮人ヘイトに血道を上げてきたという、“ネトウヨ代表”のような人物なのである。
和装で記者会見に登壇した小坂は、「素晴らしい日本の縦糸を、守り引き継ぐなかで築き上げられてきた日本文明」とキレイな言葉を並べたあと、「反社会的な朝鮮学校への補助金、カルト宗教やパチンコ依存症による大量の不幸の生産に目を背ける政治」など自身の思いを訴えて「保守」を自称した。
パチンコ店は、コロナで4社に1社が消滅し、総売上高は過去3年で5.2兆円も減ったのだが(帝国データバンク)、まだまだ叩きたいらしい。
いろいろ言葉で飾っても、言いたいことは、結局「在日朝鮮人ヘイト」でしかないので、保守にとっても和服にとっても迷惑なことだと思った。
さらに驚いたことに、小坂は、SNSにこんな内容を投稿している。
「関東大震災時に乗じて朝鮮人が井戸に毒を入れようとした」という話が流言飛語の代名詞として使われることすらありますが、「流言」ではなく「事実」であったことを日本人は知らねばなりません。
「関東大震災時に乗じて朝鮮人が井戸に毒を入れようとした」という話が流言飛語の代名詞として使われることすらありますが、「流言」ではなく「事実」であったことを日本人は知らねばなりません。…
— 小坂英二 荒川区議会議員(日本保守党) (@kosakaeiji) August 30, 2023
当時流された朝鮮人の震災下での凶悪犯罪やテロ活動の話。それは嘘や伝聞での拡張も含まれていましたが、実は真実が多数有りました。
(日本保守党・小坂英二区議)
これは100年前の文章ではない。
2023年8月30日、小坂が、百田新党の結党メンバーになることを宣言する前日に投稿されたものだ。
「関東大震災の直後『朝鮮人が井戸に毒を入れたらしい』という根拠のないうわさが広まり、恐怖に駆られた日本人によって多くの朝鮮人が殺傷された。だが、実際に井戸に毒を投入された事実はなく、目撃者もおらず、うわさはすべてデマだった」
これは、日本人の常識だ。
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劣化した自称保守が集まった「コミック政党」状態
小坂は、発災から50日ほど経過した1923年10月22日付の「東京時事新報」(現・産経新聞)の記事を掲載。
「李王源という人物が、飲用の水道栓の近くを徘徊していたところ、群衆に捕まえられ、持っていた毒物を無理やり飲まされて死亡した」という内容だ。
この記事は、当時の司法省の発表をもとにして書かれたもので、小坂は「司法省が発表したのだから正しい」と強弁しているのだが、その後の検証で、井戸に毒を入れた事実はおろか、凶悪事件で起訴された朝鮮人は一人もいなかったことが判明しており、司法省の発表そのものが間違っていたことが確定している(1925年7月に警視庁発行『大正大震火災誌』参照)。
関東大震災の前後にわざわざこんな投稿をする目的は、「防災の日に乗じて朝鮮人ヘイトをしたい」という差別心にほかならない。それが現職の区議会議員なのだから、荒川区の住民には広く知らせたほうがよいと思う。
「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というデマは、2016年の熊本地震の際にもSNS上で発生して問題になった。
明らかに差別を目的とした書き込みだが、小坂のようなヘイトスピーカーに感化された人間が……いや、小坂がやっていたのでは?と疑いたくなる。
とにかく「ろくでもない」をさらに下回る、最低の人間と言っていいと思う。
日本保守党は、ネトウヨ党員を集めるためなら、朝鮮人ヘイトでも、障害者差別でもなんでもござれという凄まじい状態である。
LGBT法を契機に動き出したところから、「もうポリコレにはうんざり!」「もう既存の大政党にはうんざり!」というような反動や幻滅が炸裂したように見えるが、その炸裂の仕方がとにかく支離滅裂だ。
安倍晋三という自称保守の「扇のかなめ」が外れて、劣化した人々がてんでんばらばらになり、その中から、集められるだけ集めて組み立てたら、漫画に出てくるフランケンシュタインみたいなコミック政党になってしまった……というところか?
その後、日本保守党は、名古屋、東京、大阪などで街頭演説を開催。いずれもネットで知って集まった群衆に囲まれて大満足、といった様子である。
引き続き、観察していきたい。
(『小林よしのりライジング』2023年10月24日号より一部抜粋・文中敬称略)
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