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NHKアナウンサーの“強い口調”に感じた「命を守るのだ」という気概

日が経つほどに被害の大きさが明らかになる令和6年能登半島地震。地震発生直後に最も心配されたのは、大津波による被害でした。避難を促す切迫感に満ちたNHKのアナウンサーの声に、特別な思いを感じたのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さん。東日本大震災の風化を防ごうと歌曲「気仙沼線」を作詞した引地さんは、大震災の教訓を生かしたメディアの気概を評価し、いつどこで大地震が起こってもおかしくない日本では、一人ひとりが考え続けなければならないことがあると伝えています。

地震の多い国で私たちがするべきことに気づかされる「声」

1月1日に能登半島を震源にした最大震度7の地震が発生し、NHKではアナウンサーが非常に強い口調で現地に避難を呼びかけた。この呼びかけに多くの人が切迫した状況であることを認識できただろうし、気を緩めて海に近づく人も限りなく少なかったのではないだろうか。

倒壊した家屋の下敷きになり犠牲となった方々の数が増える中で、避難に関する検証はされていないが、このアナウンサーの呼びかけを真剣に受け止めることを地震が頻発する国に住む私たちが持つ日々の心構えとしたい。

特にアナウンサーが強い口調で「東日本大震災を思い出してください」と具体的なイメージを喚起させたことは、大津波の被害の甚大さから得た教訓を示してくれた。それは、東日本大震災で避難を呼びかけて亡くなった方の思いものせているような気がしてならない。

NHKでは地震発生時に日本代表とタイ代表の男子サッカーの試合を中継していたが、すぐに緊急番組に切り替わり、山内泉アナウンサーが「強い揺れに警戒してください」と注意を促した。

さらに立て続けに緊急地震速報、津波警報が発令されると、口調は強くなり「津波警報です!津波警報が出ました。すぐに逃げてください!」「今すぐ可能な限り高いところに逃げてください」「東日本大震災を思い出してください」と避難を促し、そして大津波警報が発令されると「今すぐ逃げること!」と口調はさらに厳しさと強さを増した。

テレビ報道では異例の強い口調である。「怒られた」と感じるほどの強さだが、その強い口調は、アナウンサーが「声」で命を守るのだという気概に満ちていた。

東日本大震災をきっかけに、災害報道や被災地でのインタビュー手法等を見直し、変わったものは多い。NHKも自らの報道を検証し教訓として次の災害に備えてきた中で、人的被害を最小限にとどめようとする避難の呼びかけはそのひとつである。

その考えは分かっているものの、実際に災害を目の前にした時に躊躇なく実行することは簡単ではないだろう。しかも今回の被災現場から遠い東京で、切迫感を持って伝えることは、アナウンサーに課せられた責務として重いかもしれない。しかし、それも役割なのだろう。

報道によると、能登半島地震は45秒間に少なくとも3つの断層がずれ動いて大きな破壊につながったという専門家の指摘がある。地震のメカニズムは後から言及されるが、発生時には誰もわからない。被害の予想も難しい。

だからこそ、逃げることが最優先である。それを伝える声の大切さは、アナウンサーを規範としながらも、近所や周辺に避難を呼びかけることになる一人ひとりの役割でもある。

2011年3月の東日本大震災で、防災無線から「高台に逃げてください」と最後まで呼びかけて亡くなった遠藤未希さんの家族は、その声、その思いを後世に伝えなければならないと話していた。

それを受けて、私は歌曲「気仙沼線」の歌詞の冒頭で「3月の寒い日でした。娘は仕事を全うし、命と引き換えに声をのこした」と書いた。無念の中から生きる、つなげる希望を見出そうと絞り出した言葉ではあるが、それが一人でも多くに響けば、命を守ることにつながればとの思いは変わらない。

能登半島の被災地では今も余震が続き、さらなる被害の恐れもあるし、津波がいつ襲ってくるかわからない。ライフラインの復旧も避難生活も長期化しそうだ。富山は私の記者時代の赴任地でもあった。この時期の北陸地方は雪が多く、凍える寒さである。命を守る「声」をどのように伝えていくか、今も遠くにいる私たちができることのひとつとして考え続けなければならない。

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image by:beeboys/Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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