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故・石井紘基氏を殺したのは“誰の自由”か?自民党政策活動費と特別会計の深い闇

「二階元幹事長に約50億円」など、使途を明かす必要がない「政策活動費」への批判が高まっています。この「合法的な裏金」の問題点にいち早く気づき、初めて国会で質問したのが故・石井紘基議員でした。しかし石井氏は、自民党の政策活動費や国の裏金である「特別会計」の問題を追及する最中の2002年10月、右翼活動家に刺殺され61歳でこの世を去ることに。岸田首相は「政治活動の自由と国民の知る権利のバランス」を言い訳に使途公開に応じない構えですが、もしも石井氏が今の日本を見たら何と言うでしょうか?メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが解説します。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題「自民党腐敗の根源は合法的な裏金『政策活動費』にあり」

自民党腐敗の根源は合法的な裏金「政策活動費」にあり

使途を明らかにしなくていいとされ、裏金の温床となっている政策活動費。

約5年にわたって自民党幹事長を務めた二階俊博氏は、党からこれまでに約50億6千万円も受け取っていたことが明らかになっている。

茂木幹事長は2022年の1年間だけで約10億円である。

政治資金規正法は、なぜこんな秘密資金を許しているのか。そう思って、法の条文をくまなく探してみても、そこに「政策活動費」という言葉もないし、使途不明でいいとも書いていない。つまり、法による明確な規定はないのである。

石井紘基氏の戦いは今も続いている

政策活動費の本質的な問題に気づき、初めて国会で質問をしたのは、前明石市長、泉房穂氏が恩師と仰ぐ石井紘基氏(故人)だった。特別会計という国家の“隠し金庫”に厳しく切り込もうとしたことで知られる政治家だ。

2002年3月13日の衆議院行政監視委員会。沖縄及び北方対策・科学技術政策担当の尾身幸次大臣に対する次の質問。

「尾身大臣は、鈴木宗男さんの前任者として総務局長をやっておられた。自民党の財務には、たしか政策活動費という費目がある。これを尾身大臣も受け取られていた。そこで三点伺います。まず、この使途は何なのか。二つ目は、このお金を何かに使って、その支払い先の領収書を提出するようになっているのかどうか。三点目は、個人に渡されるお金だから、当然、個人の雑所得になるが、この税務申告というものをしたのかどうか」

政策活動費について、現在でも問題になっている点をあげて追及したのだが、尾身大臣は「自民党の政治活動の話であり、内閣の一員として私が説明することは適当でない」とかわし、答弁を拒絶した。

その後の石井氏の国会における足跡を国会議事録でたどると、独立行政法人通則法改正案など三つの法律案を他の5人と共同で議員提案し、同年10月18日に衆議院災害対策特別委員会の委員長に選任されている。

「与党がひっくり返る」直前に刺殺された石井氏

その直後の同年10月25日をもって、石井氏の政治活動は突然、ピリオドが打たれる。この日、東京・世田谷区の自宅駐車場で迎えの車に乗ろうとしたとき、右翼団体代表の伊藤白水によって刺殺されたのである。

伊藤は当初、恨みによる殺人であるかのように供述していたが、のちに「ある人物から依頼された」と話を変えたといわれている。しかし真の動機が解明されることがないまま、2005年11月、最高裁で無期懲役の判決が確定した。

石井氏は10月28日に予定されていた国会質問で、「特別会計」の問題を取り上げる予定だったとされ、「これで与党の連中がひっくり返る」と周囲に話していたという。

石井氏は膨大な資料を集めて分析を進めていたが、ほぼ単独行動であったため、生きていれば質問したであろう内容は定かではない。ただ、尾身大臣にただした自民党の「政策活動費」の問題についても、追及をやめることはなかったと推測できる。

石井紘基衆議院議員お別れの会 2002.11.7(旧民主党Webサイトより)

自民党の「巨額秘密資金」に2つの抜け道

「政策活動費」という“抜け道”は、政治資金規正法のなかに仕組まれている。企業・団体から政治家個人への寄附をいっさい禁止する一方で、政党が政治家個人に行う寄附については認めていること。政治資金収支報告書は政治団体の会計責任者が作成すること。この2点が“抜け道”をつくっている。

つまり、収支報告書は政治団体が提出するのであって、政治家個人には求めていない。そして、政治家個人に対して、政党は何の制限もなく寄附をすることができる。

したがって、自民党本部から幹事長個人が「政策活動費」という寄附を受け取っても、収支報告書をつくって使途を公開する必要がないということになってしまうのだ。

自民党はこれを利用し、巨額の秘密資金を支出してきた。

一般企業でいえば、社長に支給して、精算しない「渡切交際費」に当たる。本来なら、これを受け取った政治家が雑所得として申告し、税を納めるのがあたりまえだが、あくまで政治活動に使うカネだとして課税を逃れているのだ。

何に使っても自由なカネが、なぜそんなに必要なのか。自民党幹事長室は「党勢拡大や政策立案、調査研究のため」というが、誰も納得できないだろう。そのような正当な目的のためなら、「使途不明金」にしておく必要などさらさらないはずだ。

今年1月29日の衆院予算委員会で、この問題が取り上げられ、野党議員から「二階元幹事長に渡った政策活動費の使途を公開すべきではないか」と問われたさい、岸田首相は次のように答弁した。

「政治活動の自由と国民の知る権利のバランスで議論が行われ今の扱いに至っている」

不思議な理屈だ。「政治活動の自由」と「国民の知る権利」のバランスとは何か。使途不明の政治資金をなくし、全ての資金の流れを国民に公開すると、なぜ政治活動の自由が脅かされるというのだろうか。

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政治を監視するはずのメディアが「裏金容認」の茶番

フジテレビ上席解説委員、平井文夫氏は2月1日の夕刊フジ「ニュース裏表」で、次のように書いている。

岸田首相の言う「政治活動の自由」は非常に重要だ。(中略)30年ほど前の政治改革では、政治家と特定の団体や企業との癒着を断ち切るために、献金やパー券の規制を厳しくして額を減らし、その分を政党交付金として税金から配ることになった。この改革を否定はしないが、「政治活動の自由」が制限されたというのも事実だ。すなわち支援したい政治家に自由に支援できなくなった。三十数年ぶりの「政治改革」という大きな流れの中で、「透明化」「厳罰化」のために「政治活動の自由」はさらに失われることになるだろう。

支援したい政治家に好きなだけカネを提供することが「政治活動の自由」だというのだ。筆者などは、むしろ政治がカネに縛られて不自由になるのではないか、民主主義にとってマイナスではないかと考えるのだが。

異常に多額な渡辺博道氏「1億3250万円」の使途は?

自民党の収入は、国民の税負担で賄われる政党交付金が70%近くを占め、あとは企業・団体献金の受け皿である国民政治協会や所属議員からの寄附などによるものだ。そこから、政策活動費が支出されてきた。

自民党の2022年分の収支報告書によると、政策活動費を受け取ったのは15人で、合計14億1630万円。金額の多い順に6人を並べてみた。

もちろん茂木幹事長が突出しているわけだが、注目すべきは渡辺博道氏であろう。

渡辺氏は茂木派の副会長で、文字通り茂木氏を支える存在。2022年5月18日に7500万円、12月7日に5750万円を受け取っている。

同年12月27日に二度目の復興大臣に就任するまで党の経理局長だったとはいえ、総務会長や国対委員長と比べればわかるように、異常に多額だ。茂木幹事長がどんな目的で側近にこれほどの“つかみ金”を党の金庫から出したのか、ぜひ知りたいものである。

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政策活動費は「政策」以外に浪費されている可能性大

さて、1年に10億円を超える秘密資金を手にした茂木幹事長がどのようにそれを使ったのかは、想像するよりほかにないが、「政策」とはあまり関係はなさそうである。

自民党は、政策でつながっているというより、人間関係で成り立っている集団だ。仲良くなるための飲み食いや贈り物が欠かせない。

それが常識的な範囲なら、収支報告書に記載すればいいのだが、そうではないから、裏金でということになる。

最も大きな使途は選挙がらみだろう。昔から、いかに数多くの議員を選挙で当選させるかが自民党幹事長の値打ちだと相場が決まっている。

国会議員にしても都道府県の知事にしても、地方議員や土地の有力者と仲良くし、いざ選挙が近づけば集票のためにしっかり動いてもらわなければならない。

そのために大勢の秘書を雇って日常的な地元活動をやらせるわけだが、喉から手が出るほど欲しいのはやはり軍資金だ。

そこで、目をつけた議員には、幹事長が資金援助をする。裏金だと、収支報告書に書かなくていいので、依怙贔屓してもわからない。幹事長からもらったカネを国会議員が地方議員に配るにも、裏金なら「俺にはこの額かよ」と思われる心配は無用だ。

無所属が多い地方議員のほうでも、特定の政党からカネをもらっていることを他党に知られたくないから、裏金はありがたい。

もちろん、これを選挙期間中とか、それに近いタイミングでやると、買収と見なされることがある。

2019年の参院選広島選挙区で起きた河井克行元法相夫妻による大規模買収事件でも、政策活動費が使われた可能性がある。

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裏金を透明化しても「政治活動の自由」は脅かされない

22年前、石井紘基氏が国会で指摘した「政策活動費」というインチキは、法に違反していないという理由で、野党の一部にも伝播して継続されてきた。

パーティー券売上をめぐる裏金疑惑が持ち上がったことをきっかけに、ようやく廃止や透明化を求める声が上がりはじめたが、岸田首相は「使途を公開すれば、個人のプライバシー、企業団体の営業秘密を侵害する」などと、消極的な姿勢を崩さない。

国民の血税による巨額の政党交付金をもらっている政党が、「政策活動費」と名づけさえすれば、政治家個人に対していくらでも裏金として渡すことができる仕組みはどう考えてもおかしい。違法でないからやっていいということにはならないはずだ。

真剣に政治改革を進めているように見せかけても、裏金づくりのための法の抜け穴を残すかぎり、国民の信頼は取り戻せない。

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image by: 首相官邸Webサイト

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