ジャーナリストの高野孟さんも先日掲載の記事で取り上げるなど、北朝鮮による拉致問題の「本質」に迫った『北朝鮮拉致問題の解決』が大きな話題となっています。そんな書籍にも寄稿している有田芳生さんは今回、自身のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』で、書内で日本テレビの記者が明かした横田めぐみさんをめぐる極秘情報を紹介。さらに北朝鮮の金与正氏が日朝交渉を拒否する談話を出した事情を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:日朝首脳会談は実現するのか 横田めぐみさんの「歯」をめぐる謎(上)
警察は極秘扱い。横田めぐみさんの「歯」をめぐる謎と日朝首脳会談の行方
2004年5月22日に小泉純一郎首相(当時)が2回目の訪朝をして金正日総書記と会談して20年。日朝首脳会談はそれ以来実現していない。安倍晋三政権から岸田文雄政権まで、日朝首脳会談の模索はあったが、実現の見通しは立っていない。日本政府と北朝鮮政府のなかで何が起こっているのか。
5月15日の『毎日新聞』夕刊に掲載された「特集ワイド」が関係者に衝撃を与えている。〈取材22年 日テレ記者の悔恨と「極秘情報」〉〈「拉致3原則」見直しを〉〈政府方針にメディア迎合〉と見出しにある。リード文には
一冊の本が波紋を広げている。
中でも20年あまり取材を続けてきた日本テレビの福澤真由美さんが明かす「極秘情報」に関係筋はどよめいた。
と書いた。「一冊の本」とは、3月26日に岩波書店から発売された和田春樹編『北朝鮮 拉致問題の解決』だ。私も「拉致対策本部は20年何をやってきたのか」を寄稿したが、「波紋を広げている」のは、福澤さんの「拉致された人々を取材して─知られざるその肉声から見えるもの」だ。拉致被害者で帰国した人たちの経験を記したことも貴重だが、もっとも関心を呼んでいるのは横田めぐみさんの安否に関わる内容だ。
2004年に日本政府代表団は北朝鮮と交渉した。そのときめぐみさんの夫だった金英男氏は、遺骨を日本政府に提供した。そこからめぐみさんのDNAが検出されず、別人2人のものだったことから「ニセ遺骨」と日本政府に断言された。ところが福澤さんの取材では、めぐみさんの「遺骨」とともに「歯」が入っていたというのだ。
福澤さんはめぐみさんの膨大なカルテを翻訳した政府関係者にも取材している。結果は歯とカルテが一致したというのだ。経過などは単行本に詳しいが、『毎日新聞』のインタビューで「調査団のあるメンバーが06年7月に証言しました」とこう語っている。
この時「遺骨」とともに、北朝鮮当局からめぐみさんのものとされる分厚いカルテも渡されていたんです。証言したメンバーはカルテの翻訳も担当した人ですが、「歯はカルテの治療データとも付合する。めぐみさん本人の歯のようだ」「警察はなぜかこの情報を極秘にしている」とも話しています。
カルテの翻訳者は医療の専門家ではない。警察が極秘にしているのは鑑定で一致したとしか読めない。それでも疑問がある。遺骨は高温で焼かれたものだ。歯も高温で焼かれていたなら溶けているはずだ。北朝鮮側も遺骨については説明しているが、歯については一度も触れていない。今後の日朝交渉で、北朝鮮側から「歯の問題」が持ち出されたなら、日本政府はどう答えるのだろうか。
接触さえ拒否する談話により閉ざされてしまった日朝交渉
メディアは小泉訪朝から20年、ストックホルム合意から10年の節目に日朝交渉を取り上げている。安倍晋三総理が「条件を付けずに日朝首脳会談を」と発言したのは、2019年5月だったから、それからでも5年になる。拉致対策本部ルートが水面下交渉を切り拓いたものの、北朝鮮側は金与正副部長の談話(3月26日)で「日本は新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない」「朝日首脳会談は我々の関心事ではない」とし、さらに外相や北京大使による交渉どころか接触さえ拒否する談話によって、日朝交渉は閉ざされてしまった。
ここでいくつかの問題がある。日本政府が拉致問題を重要課題だとしていることは、北朝鮮にとっても前提だ。北朝鮮が「拉致問題は解決済み」と繰り返すことに、林官房長官が「受け入れられない」とコメントすることは当然であって、それはお互いの暗黙の了解だった。ではなぜ金与正談話は出されたのだろうか。そこには北朝鮮の権力構造に変化があるようだ。北朝鮮関係筋による解説を聞くと、日本政府が水面下交渉で約束したことを破ったとする見方ではなく、アメリカ、韓国、日本にどう対応するかという大きな国際的構図での判断があったようだ。(次号に続く)
※ 本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2024年5月24日号の一部抜粋です。続きをお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録の上お楽しみください。このほか、1ヶ月単位でバックナンバーもご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。
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