6月1日の早朝、通行人が発見した靖国神社の石柱への落書き。犯人と見られる中国籍の男性はすでに帰国していることが分かっていますが、現在のところ中国当局がその人物を拘束したとの情報は伝えられていません。今回、台湾出身の評論家・黄文雄さんが主宰するメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、この騒動が天安門事件発生の6月4日直前に起きていることに注目した上で「中国共産党が仕組んだ可能性」が否定できない理由を解説。さらに天安門事件を知らない中国の若者たちが日本を訪れる意義を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【中国】訪日中国人に「中国共産党の真実」を教える拠点となる日本
日本で学べる中国共産党の非道の歴史。訪日中国人の新たな「旅の楽しみ」
今年の6月4日は、1989年の天安門事件から35周年にあたります。中国国内では例年以上に警戒体制が敷かれました。以前は追悼集会が行われていた香港でも、2020年6月に国家安全維持法が施行されてからは、厳しく取り締まられるようになりました。6月3日、香港では6と4という数字を手で空に描くパフォーマンスを行った芸術家が警察に拘束されました。
● 「6月4日を忘れるな」天安門事件から“35年” 群衆の前で香港の芸術家拘束 日付示唆する「六と四」を手で空に書く
また、香港のビクトリア公園内で6月4日、太鼓を叩きながら読経した日本人男性すらも地元警察に連行されるという事態が発生しました。
● 香港警察が日本人男性を一時連行 天安門事件35年の4日夜に読経か
そればかりか、街のショッピングモールに出かけていた、ナンバープレート「US8964」のポルシェのスポーツカーすらも、警察に止められ、レッカー移動させられたということです。このくらいのことでも、現在の香港ではすぐに拘束されてしまうのです。
そこで、最近では台湾や日本で、天安門事件の追悼集会を行う中国人が増えてきています。
台北市では香港から移住した人を始めとして多くの民衆が追悼集会に集まり、64秒間の黙祷が行われました。
● 天安門事件から35年…台湾で追悼集会「6月4日を忘れない」64秒間黙とう 頼清徳総統「尊敬すべきは民衆が大きな声で話せる国家」
日本でも、6月1日の夕方に新宿駅前に、在外中国人による「民主中国陣線」といった団体による追悼集会が行われ、100人ほどの人がキャンドルライトを手に集まったそうです。
● 生きづらさ感じ日本へ 天安門事件追悼に集う中国の若者たちの思いは
天安門事件にかぎらず、最近は中国での厳しい言論統制で自由に表現活動ができないことから、中国のアーチストなども日本でコンサートを開き、中国人が大挙してそうしたコンサートに参加するということも起こっています。
たとえば、「中国のロックシーンを変えた」と言われてきた李志氏もその一人です。今年4月、彼は4月下旬から約10日間で、大阪、名古屋、福岡、仙台、東京の5つの都市でツアーが行われ、すべての会場でチケットは完売、その約1万人の観客のほとんどが中国人だったとのことです。
● 会場は日本なのに…中国国内“ライブ禁止”のロック歌手の歌を聞くためだけに多数の中国人来日し涙 日本人が知らない“中国”の一面
これまで李志氏は中国国内で多くのアルバムをリリースし、1,000回以上のコンサートを開いてきましたが、2019年以降は「不品行」を理由に、中国国内での活動を事実上、禁止されることになりました。
その理由は表向きは明らかにされていませんが、彼が天安門事件を記念する歌を書き、中国本土の言論検閲を揶揄するような表現を行ったからだと、多くの中国人から信じられています。彼がつくった「広場」「人民に自由は必要ない」という歌が、それにあたるとされています。現在、中国では彼はコンサートを開くことができず、歌も公開禁止されているといいます。
そこで日本でコンサートを開催したというわけです。わざわざ来日して彼のコンサートを観た中国人のなかには、涙を流す人も少なくなかったといいます。
この記事の著者・黄文雄さんのメルマガ
中国共産党が仕組んだ可能性も否定できない靖国落書き事件
一方、5月31日の夜、ある中国人男性が靖国神社の石柱に「TOILET」と落書きし、その様子を動画に撮影してSNSに投稿するという、とんでもない事件がありました。動画では、犯人は小便を石柱にかけるような仕草もしていました。
● 靖国神社にスプレー缶で“トイレ” 中国籍の人物が落書きか
男は、福島原発の処理水放出に抗議するためだと主張していましたが、こうした中国人の野蛮な行為に対して、中国外務省はわざわざ「靖国神社は日本軍国主義が発動した侵略戦争の精神的な道具であり象徴だ」と主張したうえで、「中国公民は理性的に訴えを表現するように」と、おざなりに呼びかけました。
● 「靖国神社は侵略戦争の象徴」 中国外務省が落書きで主張、「外国では理性的に」と注意も
この時期にあえてこのような騒ぎを日本で起こすということは、ある意味で、天安門事件の追悼集会に関する注目を阻止するために、中国共産党が仕組んだ可能性もあります。そもそも、この中国人の顔も素性もすでに明らかになっており、「中国人がいかに恥知らずで迷惑な存在であるか」を日本のみならず世界に知らしめた存在ですから、通常ならば中国当局が拘束してもおかしくはないはずです。
とくに、こうした日中の政治問題に直結する騒ぎを、個人の中国人だけの判断で行うのは、極めてリスクが高いはずです。しかし、中国当局からお咎めもないということは、「そういうこと」である可能性も否定できません。
もしも中国当局が関係していないということであれば、中国国内では絶対にできないことを日本でしたということにもなり、中国当局も統制できない、危険人物であるということになります。「愛国行為」がすぐに「政権批判」に転化することは、中国共産党がよく知っているはずです。
ただ、この中国人男性の「放尿&落書き」動画は、すぐにネット民に、習近平主席の顔に放尿・落書きする動画に改変され、拡散されました。まさに習近平の面子を潰すような動画に利用されたわけですから、この中国人男性も、もしかすると今後、中国当局に狙われる可能性もあります。
現在の中国人の中には、天安門事件を知らない若者も増えてきています。日本に来れば、中国で禁止されている音楽や書籍に触れられる、天安門事件のことをもっと知ることができる、中国共産党の非道の歴史を学べる、ということになれば、それも中国人にとってひとつの「旅の楽しみ」になるのではないでしょうか。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2024年6月5日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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