今や「karoshi」として世界に通じる言葉となってしまった過労死。そんな日本語由来の不名誉とも言うべき国際共通語に、「kodokushi」が加わる日もそう遠い将来ではないようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、今年だけでも高齢者の孤独死が7万人近くに上るという内閣府の推計結果を紹介。なぜ孤独死が「我が国独特の問題」となっているのかを分析するとともに、日本社会全体で高齢者問題をどう考えるべきかについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自由な人生と“kodokushi”
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
もはや時間の問題。世界で通じる日本語になる“kodokushi”という言葉
東京都内の独居高齢者の世帯数が、20年間で2.4倍になったことがわかりました。
2000年に約39万だった都内の独居高齢世帯は、2020年には約92万まで増加。世帯全体の12.7%を占め、40年には15.8%に上ると推計されています。
6月には内閣府が、自宅で亡くなった独り暮らしの高齢者が今年1~3月だけで約1万7,000人(暫定値)に上り、1年間に6万8,000人の「65歳以上の高齢者の孤独死が見込まれる」との推計結果を公表。未婚のまま高齢期を迎える人や、子どもと別居する高齢者も増え続けているので、今後は高齢者の独居世帯の支援のあり方が大きな課題になりそうです。
改めて言うまでもなく日本は世界一の高齢社会ですが、ドイツやフランスでも急速に高齢化が進んでいて、高齢者の単身世帯の増加が社会問題化しています。しかし、孤独死問題は日本独特で、“Kodokushi”が世界で通じる日本語になるのは時間の問題です。
その理由の大きな原因の一つが「日本人の働き方」、いや、正確には「日本の働かせ方」です。
「定年」という会社員人生の大きな節目が曖昧になり、65歳まで働くのが当たり前になりました。「それでも足りぬ!」と国をあげて「もっと働け!70歳まで働け~!」策がとられ、「長く働くのは元気な証拠」的価値観が出来上がってしまったのです。
実際、労働力人口総数に占める65歳以上の割合は、1980年には4.9%から、2012年には9.3%に倍増。21年には13.4%まで増え、今後はさらなる増加が見込まれています。
もちろん働く時間が増えて、それが生きがいとなっているのなら問題はありません。しかし、実際には働き続けないと生活できない人たちが多く、厚労省の調査では65歳以上の高齢者世帯の48.3%が「生活が苦しい」と回答しています。
一方、ドイツやフランスでは、60歳になると多くの人がリタイヤして、次のフェーズに移行します。「私」が主人公の「自由な人生」です。
趣味や関心のある活動に積極的に参加して自由な時間を楽しんだり、ボランティア活動に参加したり。それを可能にするのが色々な働き方です。本当にさまざまな選択肢があるので、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるし、その都度自分の都合で選択できます。
環境適応力の高い段階で、会社員人生にピリオドを打ち、自分で選んだ集団に移行すると、スムーズに新たなコミュニティを形成できるので、人との関わりを維持することが可能です。
日本の場合「シニア社員」という言葉があるように、同じ会社で働き続けてもコミュニティの「外」に追いやられがち。また、60歳をすぎると非正規雇用になるケースも多く、会社員コミュニティの「外」を余儀なくされます。
その結果、つながりが途絶え、孤立し、仕事以外の人間関係を作るのが難しくなってしまうのです。日本では経済的な不安もつきまといますが、欧州は累進課税がしっかりしていて、富裕層の負担率が高いためリタイヤしても金銭的な不安は少ないそうです。
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欧州の「高齢者の力を社会に生かす」という価値観
国の考え方も日本とはちょっと違います。
本来、人口構成が変われば社会のスタンダードも変える必要があるのに、日本はいまだに「元気に動ける人」「バリバリ働ける人」モデルで社会が回っていますが、欧州のそれは「高齢者仕様」です。
スタンダードを高齢者仕様にする=若者も住みやすくなる、との考えに基づき、10年前から高齢化を見据えた住宅、交通、市民生活など具体的な対策が進められました。
フランスでは、誰もが元気に年を重ねることができる社会の構築を目指して、2015年12月に「高齢化社会への適応に関する法律」を制定。18年6月にはマクロン大統領が「高齢者の自立のための公共政策改革」を発表し、高齢者の住みよい社会作りをテーマに、大規模な市民協議会が開催されフランス全土で41万5,000人超が参加しました。
ドイツの取り組みは1971年から始まっていて、ベルリンでは市民団体が、高齢のコミュニティづくりを目的に趣味のプログラムを実施。1990年代には多くの都市で、高齢者のボランティアを支援する窓口を設置しました。2003年には高齢者と若い世代が一緒に暮らす多世代型の住宅づくりも行われています。
フランスもドイツも共通して高齢者を取り巻く課題を、次世代の高齢者である若者にも共通の課題として認識してもらうことにあります。社会全体で考える=「高齢者の力を社会に生かす」との価値観が存在するのです。
日本では「高齢者=認知症」という対策ばかりが先行していますが、もっと「高齢者の力を生かす」ためにどうすればいいのか?を社会全体で考えた方が、若者の未来を照らす光になると思うのです。
みなさんのご意見、お聞かせください。お待ちしています。
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