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「奴らにリードを許すな」トランプも強く警戒。中国がAI技術で“アメリカ最大の脅威”になる日

大統領に再就任するやいなや、矢継ぎ早に新たな政策表明を行い始めたトランプ氏。注目されるのは対中関係ですが、トランプ政権は中国とどのように向き合うのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、「トランプ2.0」における米中関係を予測する重要要素として、バイデン政権下の対中外交を詳しく振り返っています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:バイデン政権の対中政策とは何だったのか 閣僚・高官の言葉から振り返る

「トランプ2.0」外交にも影響か。バイデン政権の対中政策を振り返る

アメリカが直面した最も危険な敵──。

ドナルド・トランプ次期大統領が国務長官に指名した共和党のマルコ・ルビオ院議員。そのルビオの承認を巡る議会での公聴会が1月15日、行われた。

冒頭に紹介したのは、ルビオが中国について語った発言だ。

衝撃的、といいたいところだが、対中強硬派として知られるルビオであれば、予想の範囲だろう。

そもそも国務長官や安全保障担当大統領補佐官が対中強硬派になったからといっても、結局はすべてを決めるのはトランプなのだ。そしてトランプは大統領就任式に習近平国家主席を招いて世界を驚かせた。

真意はどこにあるのか。

前回のメルマガでも触れたように、もしグリーンランドやパナマ運河、カナダなど領土拡張に本気で取り組むというのであれば中国の問題は後回しになる可能性が高い。

【関連】中国批判から一変?トランプ発言で浮き彫りになったアメリカの変化

アメリカの歴史にどんな名を遺すか、その功績に興味を示していると予測されるトランプの個人的な思惑と、ワシントンの意思とがどのように交わるのか。それが一つの焦点であることは間違いない。

そうした意味でも、バイデン政権下の対中外交を今一度見直しておくことは、政権移行期に重要な意味を持つはずだ。

バイデン政権の対中外交といえば、目立ったのはハイテク技術に対する中国からのアクセス、つまり輸出規制だ。そして安全保障面では同盟・友好国との関係を強化した対中包囲網の形成だった。

2つの視点をそれぞれ実務を担った閣僚たちの直近の発言から振り返ってみたいのだが、今回は輸出規制を進めたジーナ・レモンド商務長官の発言に光を当てたい。

ハイテク技術の対中輸出規制、いわゆる「スモールヤード・ハイフェンス」の成果はどうだったのか。

奇しくも政権交代を間近に控えた1月12日、ホワイトハウスはエヌビディアなどが開発した人工知能(AI)向け先進半導体の販売について包括的な新規制を発表した。

新たな規制は「1年以内に発効する予定で(中略)企業からの意見公募期間を120日と異例の長期に設定され、業界や他国との協議を経て規制の習熟や変更を行う時間的な余裕をトランプ政権に与えている」(Bloomberg)というから、まさしくトランプ政権への置き土産となる新規制だ。

バイデン政権の昨年末からの動きを見る限り、もはや「スモールヤード」とはいえないほど範囲を広げて規制をかけ始めていることがわかるが、今回はとくにAIを狙い撃ちしているのが特徴だ。

そして興味深いのは、AIはトランプ自身も、中国の先行を強く警戒している点だ。昨年6月13日には、「AIの分野で中国にリードを許してはダメだ。AIは脅威だ。人知を超える存在だともいわれている」とテレビ番組で発言し、中国をけん制した。

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グーグル元CEOも募らす「中国の猛追」への危機感

現状、AI技術に関してはアメリカが世界を大きくリードしている。しかし、中国の猛追は、いまや先行するアメリカにとって重大な脅威になりつつある。

1月9日、アメリカの公共放送PBSの番組に出演したグーグルのエリック・シュミット元CEOは、「以前は中国に(アメリカは)2年ほどリードしていると考えられてきた。しかし、ここ6カ月ほどで(中国が)追い付いてきた」と危機感を募らせる。

シュミットが語った「追いついた」とは、AIプログラムの一つ「DeepSeek(ディープシーク)」のことを指しているが、それは「バイデン政権がチップを遮断したにもかかわらず開発された」というから悩みは深い。

半導体を遮断されスマートフォン製造の道を断たれたはずのファーウェイが、数年後に独力で復活してしまった過去とも重なるが、こうした中国の躍進をバイデン政権はどうみてきたのか。

レモンド長官は昨年12月6日7日、レーガン・ナショナル・ディフェンス・フォーラムでそのことを振り返っている。

バイデン政権下での対中政策のキーワードは「精密攻撃」と「同盟国との協力」だ。

精密攻撃が意味するのは輸出規制で、その効果を徹底させるために同盟国との協力が必要だったとレモンドは語る。

「私たちは歴史上最も強力な輸出規制を実施した。在任中は、主に半導体と半導体製造装置の輸出を規制してきた。(中略)リーダーシップを発揮し、同盟国と協力して、中国が欲しがっている最も高度な技術を拒否することが大切だ」(レモンド長官)

だが、レモンドの語る「拒否」は、日本人の多くが期待するような「中国の衰退」を意味するものではない。

レモンドは「中国を抑えることも重要だが、それは単なるスピードバンプ(スピードを遅らせる装置)に過ぎない。中国を遅らせることはできるが、中国を打ち負かすことはできない」とはっきり語っている。

中国を「打ち負かす」ためにはアメリカが中国より速く走ることが必用であり、そのために「アメリカに投資し、アメリカのテクノロジーに投資し、インフラに投資し、人材に投資する」(レモンド長官)というのが彼女のロジックだ。

同時にレモンドは、「(中国との)デカップリングは愚の骨頂。デカップリングは愚かな行為」と切り捨てる。

こうした政策が、関税を最重要視するトランプの下でどのように引き継がれるのか。現状を見る限り、積極的ではない。

もしトランプが前政権の取り組みに冷淡な態度を取れば、それはスピードバンプとしての効果さえ発揮されなくなるかもしれない。

トランプは17日、習近平国家主席と電話会談を行った。そのなかで、「習主席との素晴らしい関係を大切にし、今後も対話と意思疎通を続けていきたい。(中略)アメリカと中国は今日、世界で最も重要な国であり、長期にわたる友好関係を保ち、世界平和の維持のために協力すべきだ」と述べたという。

もちろん、この穏やかな会談も米中関係の明るい未来を担保するものではない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年1月19日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Chip Somodevilla / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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