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「ウクライナは奪われた領土もNATO加盟も諦めろ」。米ロ接触の裏に“中国が存在”の一部報道は本当なのか?

第1次政権時と同様、習近平政権に対して厳しい姿勢で対峙するトランプ大統領。しかしながら当の中国は、現在のところ落ち着き払った穏やかとも言うべき反応に終止しています。その裏にはどのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、各国メディアの報じ方を取り上げた上で、自身の分析を紹介・解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:早速コングを鳴らした米中貿易戦争でトランプの狙いは何なのか(下)

第1次トランプ政権時とは異なる反応。「余裕の表情」を崩さぬ中国

早速コングを鳴らした米中貿易戦争でトランプの狙いは何なのか

ドナルド・トランプが大統領に就任して以降、世界は彼の繰り出す「ディール」に振り回され続けている。

当初は難航が予想されていた閣僚人事も、議会での承認は意外なほどスムーズに進んでいるようだ。

前回のメルマガでは、カナダとメキシコにそれぞれ25%の輸入関税を、中国には10%の追加関税を課すと発表した直後に、カナダとメキシコが国境警備を強化したことを評価して、その発動を30日間延期したことに触れた。

中国だけは即座に反発し、対抗措置を打ち出した。

【関連】もはやアメリカを脅威とみなさず。中国が「トランプ2.0」の動きを静観している理由

トランプ政権はその後、アメリカに入るすべての鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課すと発表。続いてアメリカからの輸入品に関税をかけているすべての国に対し「相互関税を課す」とも予告した。

今後は欧州連合(EU)を狙い撃ちにした関税が焦点になるともささやかれていて、米欧の対立激化は不可避だと予測されている。

安全保障面からトランプの再登板を警戒してきたEUは、ウクライナ問題をめぐり早速トランプ節の洗礼を浴びた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談したトランプは、その直後に「ウクライナ国境がクリミア併合以前に戻る可能性は低い」とウクライナを突き放したのだ。発言を伝えた英BBCの解説記事のタイトルは「トランプ氏とプーチン氏の電話、ウクライナを犠牲に緊張を和らげる」だ。

ミュンヘン安全保障会議に出席したトランプ政権のピート・ヘグセス国防長官はウクライナの領土奪還に加えて「北大西洋条約機構(NATO)への加盟」も「非現実的だ」と切り捨てた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にとっては頭から冷や水を浴びせられるような展開だ。これまでウクライナを支援してきた欧州にとっても受け入れ難い動きだが、一部の報道では米ロの接触の裏には中国があるというのだ。

奪われた領土もNATO加盟も諦めるという提案を除けば、確かに中国は米ロの話し合いを働きかけてきた。それが問題解決の早道だと主張し、実際にジョセフ・バイデン前大統領と習近平国家主席の首脳会談の場ではそうした発言が繰り返されてきた。

だが、それにしてもトランプ新政権をめぐる一連の動きのなかで、中国の動きが抑制的に映るのが気になる。

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概して落ち着いていて穏やかなものだった中国の反応

前述したように中国は対米輸出品に10%の関税が上乗せされることに反発。即座に対抗措置を打ち出した。

その内訳は、まずアメリカ産の石炭及び液化天然ガスに対して15%。原油や農業用機械、大排気量の自動車への10%の関税を追加で課し、世界貿易機関(WTO)へ提訴。さらに、ハイテク製品の製造に欠かせないレアメタルのタングステン、トリリウム、モリブデン、インジウム、ビスマスなど25品目を輸出規制するとしたのだ。

これに加えて新疆ウイグル産綿花をボイコットしたPVHとイルミナを信用できない企業リストに追加。国家市場監督管理総局はグーグルを独占禁止法違反の疑いで調査すると発表したのだ。

信用できない企業リストに加えられると中国でのビジネスは大きく制限される。

中国が1時間もしないうちに対抗措置を発動したことも話題となった。

だが、中国の反応は概して落ち着いていて穏やかなものだった。そのことは米中の関税戦争の幕開けを報じたメディアのタイトルにも表れている。

例えば、BBCは記事「【解説】中国とアメリカは貿易戦争の激化を避けられるのか 『トランプ関税」』に対抗」のなかで、「中国は対抗措置を発表したものの、聞く耳をもち、話し合いには応じる姿勢でいることがうかがえる」と評している。

また米『ブルームバーグ』も、記事「中国が対米関税で見せた慎重さ、苦しい事情反映‐10日までの合意焦点」のなかで「中国の習近平国家主席が第1次トランプ政権時代よりも慎重な姿勢で臨んでいることを浮き彫りにした」と書いている。

また『ブルームバーグ』は、中国が慎重であることの理由として、「第1次トランプ政権以降、中国が輸入先の多様化に成功したこと、および中国経済が一段と厳しくなっていることの双方を反映している」からだと解説している。

事実、中国の報道官も「圧力と脅しは中国には通用しない」と強い言葉で応じながらも、「中国は米国に対し、誤ったやり方を正し、平等な協議を通じて各々の懸念を解決し、中米関係の安定した健全で持続可能な発展を推進するよう促す」と協力をベースにしていることを強調している。

関税発動前の1月末には別の報道官が「中米間には食い違いや摩擦があるが、両国の共通利益と協力の余地は極めて大きい。双方はこの点について対話と協議を強化することができる」と呼び掛けている。

中国が第1次トランプ政権の時とは違う反応を示していることの裏には、ブルームバーグが指摘するような貿易の多様化の成功や関税の負担が最終的にはアメリカの消費者に向かうということを学んだ点が大きい。しかし、それだけではない――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年2月16日号より。続きをお読みになりたい方は、この機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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