「激励の言葉」は、かけた側と受け取る側でニュアンスが異なり、かえって「逆効果」になってしまうこともあるようです。よく使われる「頑張れ」という言葉について、スピーチのプロフェショナルである森裕喜子さんは、自身のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』の中で、失敗エピソードを明かしながら、そのことで気付いた丁寧な言葉選びの大切さを説いています。
「頑張れ」は逆効果?新入社員に響く“ひと言”の選び方
先日、公園の前を通りかかったときのことです。
小学生くらいの男の子とお父さんがキャッチボールをしていました。
微笑ましいな、と思いながら歩いていると、男の子が球を拾い損ねて、私の足もとにボールが転がってきました。
それを拾い、男の子に渡そうとすると、彼は「すみません」大人のように謝りました。
私は「頑張ってね」と小さく発しました。
その瞬間、彼の顔が少し曇ったように見えたんです。
(言葉選びを間違えた!)と私は気づきましたが、もう遅かった。
がっくりしながらその場から離れ、頭の中で思った。
あのとき私が少年に伝えたかったのは「頑張ってね」ではなく「頑張ってるね」だったのではないか。
少年が「すみません」と言ったのは、「ボールを拾ってくれて、ありがとう」の意味もあったかもしれませんが、それ以上に「ボールを取れなかった自分が悪い」だったのではないか。
きっと、お父さんが厳しく指導しているのでしょう。
それに応えながら、彼はすでに精一杯頑張っていたのです。
それなのに私は、少年の今の頑張りを認めることなく、もっとやれ、と意図する言葉を贈ってしまった。
「一生懸命やってるけど、やっぱり、まだ足りないんだね?」
と彼に受け取らせてしまったかもしれません。
これ、私の考えすぎかもしれません。
でも「頑張って」「頑張ってるね」たった数文字の違いの2つの言葉は受け取る方にとっては大きな違いです。
この記事の著者・森裕喜子さんのメルマガ
ある中小企業の部長さんが話してくれました。
入社3ヶ月目の新入社員は表情が曇りがちになり、ミスも増えてきた。
面談で理由を尋ねたところ、返ってきた言葉はこうでした。
「毎日“頑張れよ”って言われるたびに、自分はまだ足りないって言われてる気がして、どんどん苦しくなってきたんです」
こう聞いて、部長さんはハッとしたそうです。
そして、次の日からは「頑張れ」ではなく、「お、ここまで来たんだね」「今の進み方いい感じだね」と“認める言葉”に切り替えた。
すると社員の表情は明るくなり、結果的に離職も防げたとのこと。
落語家・古今亭志ん生の噺に、こんな一節があります。神輿がどうにも動かなくなったときに「頑張れ!」と言うんだそうで。
つまり、もうこれ以上、どうにもこうにもならないときに使う言葉なんですね。
言葉は習慣で出るものですが、慎重に、丁寧に、選びたい。
いつもそう思っているのに、咄嗟の場面では、それができなかった自分。
「頑張って」ではなく、
「よくやってるね」
「着実に進んでるね」
「任せて安心だったよ」
こうした“今”を認める言葉が、信頼を育て、成長を促し、風通しのいいコミュニケーションにつながるのでしょう。
自分の言葉選びのダメさにがっくりしながら、そんなことを思いました。
そして、もしかしたら、どんな言葉よりもにっこり笑って、ただボールを返してあげることが一番良かったのかもしれない、とも思いました。
キャッチボールの少年に気付かされた出来事でした。
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