きょう17日は全国的に記録的な暑さとなった。まだ6月にもかかわず甲府市では38.2℃を記録。最高気温35℃以上の「猛暑日」や、30℃以上の「真夏日」が各地で観測された。この酷暑、熱中症予防など体調への注意が必要なのはもちろんだが、防災面や私たちのビジネス、日本経済全体に与える影響も無視できないという。エコノミストの斎藤満氏が詳しく解説する。(メルマガ『マンさんの経済あらかると』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ラニーニャ猛暑への備え
プロフィール:斎藤満(さいとう・みつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
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ラニーニャが示唆する「暑く長い夏」に備えよう
気象庁は10日、関東甲信地方が梅雨入りした模様と発表しました。この日、九州など西日本では「梅雨末期」にみられる豪雨に見舞われています。そして気象庁はこの夏も猛暑になる可能性を示唆しました。温暖化傾向に加えて、一部に「ラニーニャ」的な動きも見られるため、と説明しています。暑く長い夏に備える必要がありそうです。
気象を見る際に、しばしば東太平洋(日付変更線から南米にかけて)の赤道付近の海水温が注目されます。この海域の水温が例年より高いと「エルニーニョ」といい、日本では夏が冷夏で冬は暖冬傾向となります。逆に、この海域の水温が低い場合「ラニーニャ」といい、この場合は南アジアからフィリピンあたりの海水温が高くなり、太平洋高気圧が優勢となって猛暑の夏となります。
この夏は西のチベット高気圧と太平洋高気圧が強く、北に張り出す模様と言われます。この場合、梅雨明けがかなり早まり、暑い夏が長く続く可能性があります。去年、おととしも夏は暑かったのですが、この夏はさらに暑い夏になる可能性があり、しかも台風が発生した場合、二つの強い高気圧に挟まれて、強い勢力となって日本に近づく経路をたどる可能性が高いといいます。
「四季」が崩れ、亜熱帯気候になりつつある日本
日本の良さの一つに「四季」があり、これがさまざまな文化を育んできました。ところが、近年の日本ではこの「四季」が崩れつつあります。具体的には春と秋の平均気温の上昇が大きく、結果として従来春や秋だったものが「夏」に組み入れられるようになり、夏が長くなり、春と秋が短くなっています。
ちなみに、従来「真夏日」は年間40日余りだったのが、近年では80日から90日に増えています。そして真夏日を観測した最初の日から最後の日までの期間(夏期間)が昨年は129日もあったといいます。1年の3分の1が夏、ということになります。日本が次第に「亜熱帯型」になりつつあります。今年の梅雨明けはまた早くなる可能性があり、暑く長い夏となる可能性があります。
四季のパターンが変われば、四季を相手にするビジネスにも影響が出ます。衣料品の世界では春物、秋物商戦の期間が短くなり、夏、冬物の需要が増えます。ビアガーデンやプールの営業期間も、夏の長期化に合わせて期間の延長が考えられます。扇風機や虫除けスプレーの需要も長期化し増えます。
「猛暑リスク」は体調だけじゃない。たとえばこんな影響が
猛暑が続けば、体にも堪えます。熱中症で救急搬送するケースが増えていますが、救急車が間に合わずに命を失うケースも報じられています。街の金融機関などでは一般市民に冷房の効いた休憩所を開放するところも増えています。飲料水を備えた猛暑避難所の提供がますます必要になります。夏用の冷感衣料も増えています。
猛暑となれば、また米の作柄が気になります。あまりに暑いと米が白濁して主食米の供給にも影響が懸念されます。昨年も「特A」に認定されないブランド米が少なくなかったといいます。今年の新米の季節を前に、小泉農水大臣は備蓄米をさらに20万トン放出するといいます。その場合、残りの備蓄米は古古古古米10万トンになります。もし東日本震災クラスの自然災害が起きると、米の緊急供給が問題になります。
特に、チベット高気圧と太平洋高気圧に挟まれた「台風進路」はちょうど日本列島に沿ったものとなり、日本に接近上陸する大型台風が増える可能性があります。ますます自然災害への備えが重要になります。それまでに輸入米も含めて、緊急用の米供給体制を確保する必要があります。
猛暑となれば、米に限らず多くの農産物の作柄にも影響が出て、また生鮮野菜の価格高騰が懸念されます。1人数万円の現金給付があっても、これまでの物価高もあり、追加的な価格高騰の影響は深刻です。政府日銀は「賃上げ」から「物価抑制」に本気で取り組む必要があります。
災害につながるほどの豪雨となっても、水の供給は別です。町が洪水になっても水瓶が貯まらないケースも少なくありません。一部で期限切れの水を捨てないよう訴えていますが、今年の水問題は、豪雨災害とともに飲料水の確保にも備えておく必要があります。(次ページに続く)
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この猛暑のあとには「冬の大寒波」がやってくる可能性大…
ラニーニャ型の気象となると、暑くて長い夏とともに、寒くて長い冬となる可能性もあります。昨年も例年より寒い日が多く、一部には大寒波が襲いました。今年の冬もまた寒波が到来するリスクがあります。
日本では近年、豪雪に弱い実態がさらけ出されました。幹線道路が豪雪による車の立ち往生で機能不全となり、ドライバーの健康問題もさることながら、物流が滞る事態になりました。除雪車の不足、人員の確保の問題などが指摘されましたが、これらの教訓をもとに、今年は早めの対応が求められます。
また屋根の雪下ろしで命を落とす人が増えています。雪下ろしは二人以上で、と言っても、老人の一人暮らしではそうもいきません。雪下ろしができずに家がつぶれたり、家が孤立して動けなくなったりしても命にかかわります。
地元のボランティア・チームを早めに組織するなり、豪雪用の避難所を開設するなり、事前に対応できることはしておく必要があります。日本の場合、イタリアなどでの避難所の整備に比べると、単なる場所の提供にとどまり、そこで病気になり、関連死するケースもあり、日ごろから安心して暮らせる避難所の体制づくりが必要になります。
豪雨災害、川の氾濫、豪雪被害は同じようなところで繰り返し発生する面があり、「50年に一度」の自然災害が毎年のように起こる異常気象が定着してきました。そして今年は「ラニーニャ」に近い動きで、猛暑、寒波の到来が予想されます。
「運が悪かった」では済まないので、豪雨、豪雪被害が予想される地域では、早めの備えが必要になります。地域で対応しきれない問題には、政府が積極的かつ迅速に対応し、「第二の能登半島」を生まないよう、事前準備が必要です。
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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年6月13日号「ラニーニャ猛暑への備え」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。当月配信済みバックナンバーもすぐに読めます。
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