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トランプ大焦り。習近平が軍事パレードで見せつけた圧倒的な軍装備とアジアやグローバルサウスの国々との強固な結束

世界中のメディアが一斉に報じた、中国共産党主催の「抗日戦争勝利80周年」記念軍事パレード。中国人民解放軍の軍備の凄まじさを見せつけるには十分すぎるほどの式典となりましたが、習近平政権が国際社会に「それ以上」の政治的インパクトを与えることにも成功したという見方もあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、このパレードの「2つの効果」を解説。その上で、アメリカに対する中国政府の思惑を推察しています。。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:9・3軍事パレードはトランプ政権の対中政策に変化をもたらすのか

トランプの対中政策に変化をもたらすか。習近平「戦勝80周年」軍事パレードの衝撃

9月3日、中国が「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利80周年記念行事」(以下、「戦勝80周年」)に合わせて行った軍事パレードは、世界に大きなインパクトを与えた。

披露された最新兵器に各国の軍事専門家たちが興奮気味に解説を加える動画がSNSにもあふれた。

世界のどの地点の目標に対しても打撃が可能という長距離ミサイル・東方5C(DF‐5C)や現状ではロシアと中国しか達成していないスビートで標的を狙い、迎撃が難しいとされる極超音速ミサイル鷹撃17(YJ‐17)。無人潜水艦や空の無人機。ドローン部隊。そしてドローンを迎撃するレーザー兵器や地雷を探査するロボット犬までが方隊の一角に加わった。女性兵だけで構成される隊や民兵方隊など全45の方隊は見どころは満載だった。

装備の先進性がどれだけ実戦に反映されるのかについては未知数だとしても、少なくとも中国に手を出そうとする国の動機に強いブレーキをかける効果は十分に果たせたのではないだろうか。

気になるのは、超大国・アメリカの反応だ。これを中国の「重大な挑発」と受け止めれば、一時、米中対立に絡んで流行語となった「トゥキディデスの罠」が再び大きな話題となることだろう。

トランプ政権の安全保障政策を概観すれば、海外に展開する米軍の規模を整理し、同盟国の負担を増やし、対中国の戦力を充実させる方向に向かうことは間違いなさそうだが、問題はその同盟国と、それを取り囲む世界情勢の変化だ。

中国がこの軍事パレードで見せつけたのは、単に中国人民解放軍の装備の近代化にとどまらず、アジアやグローバルサウスの国々との結束にまで及んでいたからだ。

アメリカの警戒心は、ドナルド・トランプ大統領が軍事パレードの2日後、SNSで「インドとロシアを、最も深く、最も暗い、中国に奪われたようだ。長く繁栄する未来を彼らが共にするように!」と皮肉交じりに発信したことからもよく伝わってくる。SNSには軍事パレードの2日前まで天津市で開催されていた上海協力機構(SCO)首脳会議で撮られた3首脳の写真も貼り付けてあった。

戦勝80周年に合わせた中国の外交成果は、トランプが反応したこの中印ロのスリーショットと天安門上で撮られた中ロ朝首脳のスリーショットに象徴されているといっても過言ではない。

日本人からすれば、アメリカをはじめ西側先進国の現役リーダーが誰も参加しなかった式典を「成功」と呼ぶことに違和感を覚えるだろう。

だが、現実的にはインド、北朝鮮、ロシアという中国を取り囲む国々との関係が安定すれば、この地域での中国の悩みの多くは解消されるのだ。

戦後、朝鮮半島や中国との関係でぎくしゃくを繰り返しながらもアメリカとの関係さえ安定していれば安心できた日本人には理解しにくい感覚だろうが、周辺の国々との安定した関係は、中国にとって内政の安定と密接に関わる重大事なのだ。

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習近平が集めたメンバーの顔ぶれに焦りを隠せぬトランプ

ただ今回の戦勝80周年のイベントで重視されるのは地域の安定にとどまらない。

軍事パレードの解説のためアメリカのテレビ番組に出演したカート・キャンベル元国務副長官が指摘したように、中国があの場に集めたメンバーは今後の経済発展が予測される地域のリーダーばかりだったという点にも注目されているからだ。

アメリカの焦りは明らかだ。

軍事パレード以前には、ロシアのウクライナ侵攻に絡んでインドばかりを批判してきたアメリカが、にわかに中国の責任にも言及するようになったのは一つの兆候だ。

トランプは軍事パレードの翌日、フランスのマクロン大統領らヨーロッパ首脳と電話で会談した際、中国が経済的にロシアを支えていると指摘。加えて「中国に経済的な圧力を加えなくてはならない」と主張したのである。

軍事パレードを実際に見るまでトランプは、「習近平国家主席との関係は良好だ」などとして「懸念はない」という認識を示していた。その根拠は「中国は我々を必要としている。習主席との関係は良好だ。米国が中国を必要とする以上に、中国は我々を必要としている」というものだった。

中国がアメリカを必要としていることについては、そのとおりだ。しかし、トランプ政権やその前のバイデン政権が繰り出す関税政策や一部のハイテク製品を対象とした輸出規制に、中国が唯々諾々と従うのかといえば決してそうではない。

対決や対抗は望まなくても、アメリカの思い通りにはさせないというわけだ。

その中国の姿勢が表れたのが軍事パレード後の深夜に中国が発動したアメリカ企業に対する反ダンピング関税だ。

対象はアメリカを原産地とするカットオフシフトシングルモード光ファイバーを扱う2つの企業で税率は最高で78.2%。中国がこのタイミングを狙って発動したのか否かは不明だが、今年3月から「反規制回避調査」を行ってきた。

中国の課税は世界貿易機関(WTO)のルールに則ったものだが、いずれにせよ「やることはやる」との宣言に等しい。

SCOで中国を抱き込もうとしたインドとロシア。軍事パレードで中国との親密さを演出したロシアと北朝鮮。いずれの思惑とも中国は一線を画しているが、アメリカの思い通りにならない世界を拡大させたいと考えていることは間違いなさそうだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年9月7日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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