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「高市圧勝は虚構だ」発言に疑問符。小選挙区制を嘆く野党と左翼の“思考停止”をジャーナリストが斬る

高市自民党の「圧勝」について、「小選挙区制のバイアスによる虚構だ」という批判が相次いでいます。しかし、そもそも小選挙区制は偏った結果が出ることを承知の上で導入されたものであり、2009年には民主党にも「圧勝」をもたらしています。問題は制度を嘆くことではなく、イタリアのように不断に見直す努力を怠ってきたことにあるのではないでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、ジャーナリストの高野孟さんが、93年政治改革の原点に立ち返り、選挙制度論の本質を鋭く問い直しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

偏った結果が出て当然の小選挙区制。高市「圧勝」を生んだ選挙制度がおかしいと言い募る思考の衰弱

高市自民党の「圧勝」を受けて、その結果は「小選挙区制バイアス」によるもので、民意を正しく反映するものではないーーという指摘が散見されるが、私はこれに賛成しない。

一例は、『サンデー毎日』3月15日号の倉重篤郎による志位和夫=共産党議長へのインタビュー「『高市圧勝』はミスリードだ」で、要旨はこう述べる。

▼確かに、議席数で言えば自民単独で316議席、さらに比例の名簿不足で他党に譲った14議席を足した330議席は圧巻である。ただ、政党の真の実力を表すと言われる比例区の得票率、得票総数から見るとまた違った景色が見える。

▼有効投票総数が分母になる相対得票率では36.7%、有権者総数を分母にした絶対得票率では20.37%と5人に1人が自民党に投票したに過ぎない。得票総数は、自民党2102万票に対し、中道改革連合は1048万票だったが、自民党の半分の票を取ったにもかかわらず、議席に換算されると、自民が316議席(譲った分を加えると330議席)、中道が49議席(譲られた分を引くと42議席)と8倍近い差になっている。

▼要は、小選挙区比例代表並立制という選挙制度が持つ小選挙区部分の民意増幅機能が作用した結果である。ここでもまた1人1票の平等性という建前と理念を大きく毀損する結果となった。この選挙制度のマジックを今ひとたび点検する必要があるのではないか。

 以上の倉重の前振りを得て、志位は「我が意を得たり」とばかり、要旨こう語る。

▼これはひとえに小選挙区制の作り出した虚構の数字だ。私が衆院議員に初当選した宮澤喜一政権下の1993年の衆院選の時はまだ中選挙区制だったが、この時の自民党の選挙区での得票率は36.6%で、今回とほぼ同じで、得た議席数は223と過半数割れで下野を余儀なくされ、細川護熙非自民連立政権が誕生した。

▼〔今回自民党は〕中選挙区であれば、下野するような得票しか得ていないということだ。国民民意の多数を得ているとは言えない。……

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93年政治改革のそもそも論

2人のやり取りが奇妙なのは、ベテラン政治記者と老練左翼政治家が揃って、小選挙区制バイアスの極端さに今回初めて気が付いたかのようなウブなことを言っていることである。

「1人1票の平等性」を求めるなら、究極のところ、完全比例代表制にすればいいだけのことである。今の選挙制度を採用するに至った1993年春の「政治改革国会」のテーマはそこにはなかった。それどころか、むしろ真逆で、平等性は二の次、三の次。とにかく自民党一党専横とその下での金権体質蔓延の温床となってきた中選挙区制を廃棄し、政党単位・政策本位で争う小選挙区制を主とする制度に置き換えることによって、政権交代が起きやすい政治風土を涵養することが主眼とされた。小選挙区制では、他よりも0.1%でも上回る票を得た候補者が1議席を奪い、それ以外の候補者への票はすべて死票となるので、その時々に世論の支持を得た、あるいは人気が高い政党や政党連合が圧勝して政権を獲得する可能性が高い。

従って、まず第1に、この制度の下で起きた「高市圧勝」について、「1人1票の平等性」が毀損された(倉重)とか、「虚構の数字」だ(志位)とか批評するのは筋違いである。この制度は、こういう偏った結果が出ることがありうることを百も承知の上で導入したのであり、その意図に違わない効果を発揮していることを、決して否定的に捉えてはならない。

第2に、従って、今回の結果を1993年総選挙の結果と引き比べて、中選挙区制の方が理にかなった政権交代が起きやすいかに言う(志位)のは、全くの錯誤である。中選挙区制では政権交代が起きず金権腐敗の泥沼を脱することができないからこそ「政治改革」が必要となったのである。このような何とはなしの(論理性を欠いたノスタルジックな気分の)中選挙区制回帰論は、共産党だけでなく公明党の全部、その他野党や自民党のかなり多くの部分に根強いが、酷い間違いである。

実際に政権交代を実現した民主党

第3に、志位が引き合いに出すべきは、細川政権を生んだ1993年総選挙でなく、鳩山=民主党政権を生んだ2009年総選挙である。93年に自民党が敗北し下野したのは、本音では中選挙区制維持論でありながら世論に押されて口では「政治改革? やりますよ」と言っていた宮澤首相ら自民党指導部に反発して小沢一郎・羽田孜ら、武村正義・鳩山由紀夫らが次々と離党して同党が崩壊状態に陥ったためであって、中選挙区制の作用によるものではない。

それに対して09年の結果は、小選挙区制を主とするこの制度が、時と場合によって野党にも「圧勝」をもたらし、正々堂々の政権交代を惹き起こすことを証明した貴重な事例であって、もし今回の「高市圧勝」が何かの毀損だったり虚構だったりするのであれば、09年の「鳩山圧勝」もまたそのようなものとして否定的に評価しなければならなくなる。

ご存じと思うが、今回の総選挙の前は、09年に民主党が獲得した308議席が史上最高の記録だった。参考のために、09年と今回の基本数値を挙げておこう。

       09年比例代表   26年比例代表
相対得票率  民主党 42.4%  自民党  36.7%
       自民党 26.7%  中道連合 18.2%
絶対得票率  民主党 28.7%  自民党  20.4%
       自民党 18.1%  中道連合 10.1%
得票総数   民主党 2985万    自民党  2103万 
       自民党 1881万    中道連合 1044万
議席数    民主党 308/480   自民党  316/465
       自民党 119     中道連合  49
議席占有率  民主党 64.2%   自民党  68.0%
       自民党 24.8%   中道連合 10.5%

 09年の民主党は42.4%の得票率で64.2%の議席を占有したのに対し、今回の自民党は36.7%の得票率で68.0%の議席を占有していて、今回のほうが偏りの度合いは大きいが、それにはネット上でそれこそ虚構の「高市ブーム」を作り出して広告料を稼ぐという、09年にはなかった新しいビジネスの横行による増幅分が含まれていると見るべきだろう。これはこれで、制度問題とは別に、何らかの規制を検討しなければならないだろう。

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不断に見直すべき選挙制度

「この選挙制度のマジックを今ひとたび点検する必要があるのではないか」(倉重)の意見には賛成である。「マジック」と言うと何やら騙しのテクニックのように聞こえるが、そうではなくて、小選挙区制を基本とする制度にした場合に必然的に付随する「偏り」をどう補正するかという問題として国会自身が不断に議論し法改正して試行し、また手直しする必要がある。

イタリアの場合は、日本と同じ時期に、同じように保守政党の腐敗問題をきっかけに、それまでの比例代表制から日本と似たような小選挙区比例代表並立制(小選挙区4分の3、比例代表4分の1)を採用し、保守もリベラルもそれぞれに政党連合(例えば左翼民主党中心の「オリーブの木」のように)を組んで早速に政権交代ある政治を実現した。

しかしそれに安住することなく、2005年には比例代表制に転換、いくつかのプレミア方式を試した後、2017年に再び小選挙区比例代表並立制(小選挙区3分の2、比例代表3分の1)に戻して今日に至っている。しかもイタリアでは、上下両院の選挙制度を同質にしてどうしたら国会が民意をよりよく集約する場となるかを追求し続けている。

このような不断の改革努力という点では日本はまったく落第で、衆院の制度の点検・見直しも参院や地方選挙との整合性探究の努力も何も行われていない。

細川護熙が語っていた「連記制」

93年の細川改革では、最初の与党案は小選挙区300+比例200で出発して、一度は小選挙区250+比例全国区250という分かりやすい案で衆院を通過したものの、野党の自民党も与党の社会党も内部がゴチャゴチャで、加えて衆院議長である土井たか子が職権を超えて法案の中身に口を出すなどして大混乱。社会党の村山が「小選挙区が275以上になるなら連立を離脱する」などと訳の分からぬことを言ってゴネるので、細川が274+226=500という妙な案で収拾を図ろうとしたりしたが、結局300+200で96年から実施。

それが変遷を経て今は289+176=465となり、さらに自維政権合意でその比例の176のほうを45減、ということは289+131=420(小選挙区68.8%+比例31.2%)にしようという方向になっているが、この中途半端なバランスは果たしてそれでいいのか。また分かりにくくて評判の悪い重複立候補による小選挙区落選者の比例復活という細川政権と自民党の奇妙な妥協の産物は、このままにしておくのか。さらに、そのように衆院ばかりをいじって参院との整合性を考慮しないのはどうなのか。

制度全体については、安易な中選挙区回帰論には私は断固反対だが、同じ中選挙区制でも「連記制」は試すに値すると思っている。細川は回顧録『内訟録/総理大臣日記』(日本経済新聞出版社、2010年刊)で、あの時は小選挙区比例代表並立制でみんなの合意が出来たのでそれで進んだが、本当は……と同書P.512で語っている。

▼私はもともと定数が2以上の選挙区で有権者が複数の候補者に投票する連記制みたいな形がいいのではないかということを言ってきました。しかし、とりあえずは新しい制度をつくり、自民党の一党支配の状況を打ち壊すことに当時としては一番の政治的狙いがあったわけですから、その後、現にそういう状況になったのですから、それなりに意味があったということではないでしょうか。

▼ただ制度というものは、時代とともに変わっていくものだから、何回か選挙をやって、改善するところがあれば、それで変えればいい。今の制度でも必ずしも2大政党にはなっていない。イギリスのような完全な小選挙区制の国でもそうですから。

▼日本でも2つの大きな勢力とは別に、今後ともいくつかの政党が出てくるということが、この制度のもとでもないわけではないと思いますね……。

圧勝した与党の側からは単なる定数削減という話しか出てこないから、野党の側からもっと大きな見地に立った選挙制度見直しの議論を吹っかけて貰いたい。それが出来ずに、高市「圧勝」を生んだのは小選挙区制のせいだなどと言っているのは、思考が衰弱している証拠である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年3月16号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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