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同盟国を脅し敵国を元気づけるトランプ米国の終焉。NYタイムズが喝破した「ラックス・アメリカーナ」の異常性

第2次世界大戦後、曲がりなりにも「民主主義の規範」的国家として世界を導いてきたアメリカ。しかしトランプ大統領の手により民主主義は歪められ、覇権国家としての立ち位置にも揺らぎが生じているのが現状です。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、トランプ政権下で顕在化した米国の変質を、米紙コラムニストの議論等を踏まえて分析。その上で、今後の国際秩序の行方について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:パックス・アメリカーナからラックス・アメリカーナへ/トランプ政権はどこに向かって坂道を転げ落ちつつあるのか

プロフィール高野孟たかのはじめ

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

パックス・アメリカーナからラックス・アメリカーナへ。国際社会が目の当たりにする米国の転落

ワシントンのコラムニスト=カルロス・ロザダがNYタイムズ国際版4月1日付に寄せた1ページ半に及ぶ大論説のタイトルは、「パックス・アメリカーナは今やラックス・アメリカーナに」である。

Pax Americanaは言うまでもなく「米国(の力)による国際平和秩序」で、「米国の覇権」の上品な言い方だが、Lax Americanaのlaxは「衰えて弛んでだらしがない」からさらに転じて「お腹が緩んで下痢をしている」の意味で、「米国(の衰え)による国際平和秩序の崩壊」と訳せばいいだろうか。ロザダは言う。

▼かつて我々がパックス・アメリカーナと呼んだのは、米国が同盟国と諸制度をリードすることで米国の利益と価値を増進させるとともに、第2次大戦後の数十年間に渡り大きな紛争が起きるのを回避させることの出来たシステムのことである。しかしそれはすでに終焉し、二度と蘇ることはない。

▼そのパックス・アメリカーナに代わって我々が目撃しつつあるのは、ラックス・アメリカーナとでも言うべきもので、それは、軽率、天真爛漫、かつ他人のことなどお構いなしの米国という超大国が、昔からの友好国を脅しつける一方で昔からの敵国を元気にさせ、自国と世界を危険に晒すことなど一切無頓着に、短期的な利益を追求するような、そういう世界である。

▼これは歴史的に見て異常事態である。リーダーシップをとるというのは他の奴らから食い物にされることなのだと結論づけて、勝手にリーダーの役割を放棄する超大国?価値観などしょせんはフェイクだと決めつけて、もはやそれを増進しようとはしない超大国?国際的なルールや制度を構築するために長い年月を費やしてきたというのに、そんなことはもはや苦労するに値しないとして諦めてしまう超大国?

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栄枯盛衰は世のならい。ロザダが取り上げた歴史書の古典的名著

このあとロザダは、歴史書の古典的名著をいくつか取り上げて、超大国の栄枯盛衰の理をいろいろな角度から論じているが、その一々に立ち入ることはしない。ただその書名だけを列記して読者各位の研究の参考に供したい(出版社名などがないものは未邦訳)。

● ポール・ケネディ『大国の興亡/1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争』(草思社、上下、1988年)
● チャールズ・カプチャン『アメリカ時代の終わり』(NHKブックス、上下、2003年)
● イマニュエル・ウォーラーステイン『脱商品化の時代/アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界』(藤原書店、2004年)
● ファリード・ザカリア『アメリカ後の世界』(徳間書店、2008年)
● ロバート・カプラン「ユーラシアに迫り来るアナーキー」(フォリン・アフェアズ・リポート、2016年3月号)
● サミュエル・ハンチントン『文明の衝突』(集英社、1998年。同文庫、上下、2017年)
● ロバート・ギルピン『覇権国の交代/戦争と変動の国際政治学』(勁草書房、2022年)
● ピート・ヘグセス『戦争と戦士たち』(2024年)
● マーク・カーニー「ダボス会議でのミドルパワー演説」(2006年1月、全訳@在日カナダ大使館web→本誌No.1349)
● マルコ・ルビオ「ミュンヘン安全保障会議での基調演説」(2026年2月、全訳@ニコニコチャンネル2/14)

私の希望としては、このリストの4番目あたりに、

◆ 高野孟『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版、2006年)

を挿入して貰いたいが、世界の片隅で出版された日本語の本では叶う訳もない。ただし同書の中で私が重視して引用している、

◆ エマニュエル・トッド『帝国以後/アメリカ・システムの崩壊』(藤原書店、2003年)

はこのリストの2番目あたりに是非とも加えておいて頂きたい。

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アメリカ後の世界に別の覇権国など現れることのない当然の理由

さて、ロザダの議論の中で私が賛同しかねるのは、米国の覇権が終わった後に誰か別の者がその座を乗っ取るか、そうでなければ19世紀の野蛮な列強戦争の時代に戻るかのように述べていることである。彼は言う。

▼米国は、この80年間ほどは上手くやってきた。しかし、米国が自由世界のリーダーを辞めたことは明らかだ。その座の後継者は未だ指名されておらず、EUなりNATOなり、今の“西側”の内部から誰かが昇進してくるということもありそうにない。

▼「過去80年間の世界秩序を支えてきたアメリカの力は、今度はそれを破壊するために使われることになる」と、〔ネオコンの理論家〕ロバート・ケーガンはこの1月に警告を発した。彼が2006年に、植民地時代から19世紀に至る米国の外交政策史を描いた歴史書『危険な国家』を出版してから約20年後のことだ。「19世紀の列強による多極世界の現代版のような世界が現出し、中国、ロシア、米国、ドイツ、日本その他の大国が組み合わせを変えながら少なくとも10年に一度は戦争し、国境を描き換え、住民を追放し、国際通商を妨害し、破滅的な世界戦争を引き起こしかねないことになる」と。

しかし私の説では、「覇権交代」とは、資本主義の勃興期から隆盛期にかけて、海軍力を中心とする軍事力で優越しさえすればまだ誰も手が届いていない未開のフロンティアを先取することが出来た時代に特有の力任せの国際政治の野蛮な属性である。

水野和夫が言うように、もはやこの地球上に物理的なフロンティアが存在しなくなり、それを軍事力を以て争奪することの意味が失せたことによって資本主義は衰退期から終焉期に向かうのであり、従って米国の後に別の覇権国など現れることはないのである。

とはいえ、米国には、自国が衰退した後に中国が覇権を奪い、ロシアとも手を結んで“西側”を脅かすのではないかという恐怖感が根強い。

もし本気でそう思っているなら、それは冷戦後遺症で、かつてソ連・中国はじめ共産主義の脅威に雄々しく立ち向かった頃の米国の強さへのノスタルジアである。本気でないとすれば、愚鈍な日本の指導者などを脅し上げて高額な不要兵器を買わせるための方便に過ぎない。

ケーガンの19世紀的な列強乱立時代というイメージも、冷戦ノスタルジアの一つの変形種で、米国の没落を早め墓穴を大きくするだけである。

覇権主義の対立概念は多極主義ではなく多国間主義で、その中心原理は武力抗争ではなくザカリアが示唆した「3C」すなわちconsultatioin, cooperation and even compromiseである。

そんな書生っぽい議論は御免だと?これが国連憲章が規定する国際社会の編成原理としての多国間主義の要諦であり、米国以後の世界は結局、その本道に戻っていくことになる。そのことはまた必要に応じて体系的に論じることにしたい。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年4月6日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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