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キリンビールの工場見学で見えた、あの「生麦事件」と「震災」を結ぶ歴史

キリンビール横浜工場の見学ツアーでは、ビールづくりの工程だけでなく、企業の歴史や哲学にも触れることができます。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、工場見学を入り口に見えてくる“横浜という街の記憶”をたどっています。

キリンビール工場見学と交差する横浜の歴史

キリンビール横浜工場では見学ツアーに参加しビールの製造工程やビールの歴史、そしてキリンビールの考え方に触れることができる。

企業の見学施設だから少々、企業のフィロソフィーを伝える温度が熱い気がするが、それがキリンビールの「品質本意」の源流であるのであれば、それは受け入れていこう。

キリンビールの歴史は、横浜の山手で始まった。

この場所はフェリス女学院の本部がある場所の近くであったが、1923年の関東大震災により建物は壊滅的な被害を受けて、現在の横浜市・生麦に移転した。

以来、日本のビールの生産拠点の中心として役割を果たしてきた。

関東大震災で校舎が壊滅的な被害を受けたフェリス女学院の校舎は、瓦礫と化してその下敷きになった第3代校長ジェニー・M. カイパーを失った。

下敷きになったカイパー校長に火の手が回ってくる中で、助けようとそばにいた人々に逃げるように叫び、「御心がなりますように」との言葉を残してことはフェリス女学院の中で語り継がれている。

キリンビールの起源は、1870年にノルウェー系アメリカ人のウィリアム・コープランドが設立した醸造・販売会社「スプリング・バレー・ブルワリー」。

このコープランドは、工場に隣接する自宅を外国人居留者と外国船の船員向けに「スプリング・バレー・ビヤ・ガーデン」を開設した。

それは、日本初のビアガーデンとも言え、外国人居留地の社交の場となった。

一方で震災の被害を受けての移転先となった横浜・生麦の地は、1962年に薩摩藩藩主島津茂久の父、島津久光の行列と対面した馬に乗ったイギリス人一行が「不遜」な行為をしたとして、薩摩藩士が切りつけ、1人死亡、2人が重傷を負った生麦事件の現場である。

事件の処理や賠償をめぐって英国と薩摩藩は折り合いがつかず、翌年には薩英戦争に発展した。

イギリス人と薩摩人の文化的差異と、お互いが持つプライドが事件となり、結果的に薩摩で砲弾が行き交う戦争になった。

この隊列には、後に明治維新を成功させ日本政府の中心人物となる大久保利通もいた。

外国人の社交の場から、外国人との摩擦の象徴的な場所で、キリンは発展していく。

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工場の見学では、大ヒット商品「一番搾り」の説明に時間が割かれた。

当然の看板商品であるが、この商品が出た当時、あまりビールの味の分からない私はCMで伝えられるイメージで、ビールを「味わって」いたように思う。

1987年にアサヒビールがスーパードライを販売すると、「切れ味」という新しい感覚が市場に受け入れられ、シェアを拡大していく。

これに対抗したのがキリンの一番搾りである。

この一番麦汁だけを使った商品もヒットしたが、そのイメージ戦略も「本物」と位置付けるためのイメージ戦略が印象的だった。

一番搾りのCMに俳優の緒形拳を起用したのは、当時本格映画俳優として、テレビに軽々と出演しなかった「本物」を演出したかったのだろう。

市場は反応し、本物が本物を飲む印象は確実に市場の心をつかんだ。

ビールの味も知らない私も強面で演じる俳優が満面の笑みでビールを飲む姿に、知らずに心惹かれていたように思う。

文明開化後の横浜には多くの歴史が潜んでいる。

意外な事実の発見、遭遇は面白い。

見学ツアーは最後にビールを飲めるから、ビール好きにとっては、至極の一杯を味わうことができる。

お酒を口にしない私はおいしそうに試飲のビールを飲む面々に微笑みながら、キリンの大ヒット商品であるキリンレモンと午後の紅茶を楽しみ、キリンとフェリスの歴史の交差と発見を楽しんだ。

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image by: Shutterstock.com

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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