終わりの見えない中東情勢に長期化するウクライナ戦争、その裏で存在感を強める中国。国際社会では現在、「個別の危機」を超えた大きな変化のうねりが起きつつあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中東、欧州、アジア太平洋地域で同時進行する国際情勢の変容を分析。さらに世界が直面する「秩序再編」の実態と、各国の思惑が複雑に交錯する現状について詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:世界は今、どこへ向かうのか?‐中東・欧州・東アジアで進む“秩序再編”の正体
国際秩序の最終的な再編プロセス。世界は今、どこへ向かうのか?
【世界で起きる出来事は、決して独立して存在しない】
これは私が国際紛争の現場や外交交渉の世界で学んだ最も重要な教訓の一つです。
表面上は別々に見える危機が、実は一本の大きな流れによってつながっている。これこそ今まさに世界で起きていることです。
私は現在の国際情勢を【冷戦後の国際秩序の最終的な再編プロセス】として見ています。そしてその再編は、中東地域、欧州およびコーカサス地域、そしてアジア太平洋地域という三つの戦域で同時進行しています。今回はその構造について考えてみたいと思います。
まずは【イラン情勢が示す新たな危険】についてです。
ここ数週間で今週、最も緊張が高まったのがイラン情勢です。ホルムズ海峡付近で起こった“イラン革命防衛隊による米軍アパッチヘリコプターの撃墜”と、その報復としての米軍によるイラン攻撃の勃発は、水面下で進み、「合意は近い」とトランプ大統領が何度も繰り返していた米・イラン間の和平協議を破綻させ、終わりなき戦いの応酬とホルムズ海峡の封鎖の解除が見渡せないという状況を長続きさせる懸念を高めました。
アメリカ軍によるイランへの攻撃は継続しており、戦争はエスカレーションの様相を呈していますが、興味深いことにイランもアメリカもどこか自制的で、それぞれに国内外へのアピールに集中しているように見えます。
米・イラン間の睨み合いは、このままだとまだまだ続きそうですが、問題の解決を難しくさせているのがイスラエルの態度です。
2月28日(および昨年6月)の米・イスラエルによるイラン攻撃が、ネタニエフ首相がトランプ大統領を引きずりこんだものかどうかは分かりませんが、イスラエルとしては宿敵であり、自国の生存の最大の脅威に位置付けるイランに対しての攻撃を行い、イラン側からの反撃を誘い、かつ周辺国を戦争に巻き込んだ結果、戦争が長引くことで、ネタニエフ首相に対する国内の支持は高まるという方程式が成り立つ限り、イスラエルとしては対イラン攻撃および対ヒズボラ(レバノン)攻撃を思いとどまる理由はなく、仮にトランプ大統領から停戦を強く依頼されても、攻撃を続ける理由が存在します。
イスラエルにとって“イランによるホルムズ海峡封鎖”は想定外だったようですが、ホルムズ海峡の封鎖そのものはイスラエルにとって直接的なコストとはならないため、いくらアメリカから非難されても、またすでに孤立を極めている国際社会から罵られても、イランおよび親イラン勢力に対する攻撃を止めるインセンティブが発生しないのが事実です。
事態をややこしくしている要因の一つが【ネタニエフ首相とトランプ大統領のジレンマの衝突】です。
今回のイラン情勢およびレバノン情勢を理解する際に、興味深いポイントは、イスラエルとアメリカの温度差が拡大していること・明確になってきていることです。
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イランが採る「相手国に負担を強いる」という戦略
ネタニエフ首相にとっては、戦争の継続が政治的生存に直結していますが、一方でトランプ大統領にとっては、戦争終結こそが政治的利益になります。
ここに解決が非常に困難な大きなジレンマが存在します。
【ネタニエフ首相は戦争を続けたい】
【トランプ大統領は戦争を終わらせたい】
アメリカとイスラエルは“特別な”同盟国同士であり、かつ同じ戦争を共に戦っているにも関わらず、それぞれの政治的利益を叶えるための手法は必ずしも一致しておらず、全く逆方向に進んでいることが分かります。
これを見て分かることは、外交において最も難しい交渉は敵との交渉ではなく、味方との交渉であるということです。
現在の米イスラエル関係はその典型と言え、その交渉が順調に進まないことが、イラン情勢とレバノン情勢の解決を非常に難しくしています。
そこにイランの戦略が絡み、さらに状況を複雑にしています。
米・イスラエルとイランが攻撃の応酬を続け、かつイランによるホルムズ海峡の封鎖が行われる中、注目すべきなのは、【イランが軍事的勝利を目指しているわけではない】という点です。
冷静に軍事力だけを比較すれば、アメリカ軍、イスラエル軍、イラン軍(正規軍と革命防衛隊)の間には大きな能力差があり、イラン指導部もそれを明確に理解しているため、イスラエルに対しての意識ははっきりしませんが、少なくともアメリカに対しての軍事的勝利を目的に掲げていません。
だからこそイランは、【相手(アメリカとイスラエル、そしてその仲間たち)に勝つ】のではなく、【相手に負担を強いる】戦略を採っています。
ちなみにこれは交渉でもよく見られる構図で、【力で勝てない側は、相手のコストを引き上げることで、戦いのフォーカス(力点)をずらし、かつ相手の最大の弱点を突く】作戦を取っています。
イランの場合、その手段の中心がエネルギーの流通網の掌握です。
そのために今回、イランは禁じ手ともいえる“ホルムズ海峡の閉鎖”という交渉カードを戦いの場に持ち込み、アメリカとの対峙に乗り出しています。
皆さんもご存じのように、世界の原油輸送の大部分がホルムズ海峡を通過しており、イランによる海峡の封鎖は、中東湾岸諸国にエネルギー資源を依存している日本を含む多くの国々の物流およびエネルギー安全保障に大きな負のインパクトを与えて懸念を増大させ、エネルギー価格の高騰を招くことで、すでに大きな損失を与え、各国で厭戦機運を高めています。
ここで重要なのは、実際にイランがホルムズ海峡を封鎖するかどうかよりも、【イランがいつ何時、ホルムズ海峡を完全封鎖するかもしれない】と各国に思わせ、危機感を募らせることです。
米・イラン間の攻撃の応酬を受け、イランの革命防衛隊はホルムズ海峡の完全閉鎖を発表し、それに加えて、クウェート・バーレーン・ヨルダンの米軍基地に対する攻撃を行うことで混乱を高めています。
ちなみに、皆さんよくご存じのように、市場は可能性だけで反応します。結果として、物流に係る保険料が上がり、輸送コストが上がり、それが各国における物価の高騰に繋がりますし、より直接的には、すでに高騰している原油価格がさらに上昇傾向を見せ、かつホルムズ海峡の完全閉鎖の“うわさ”によって物流ショックが加速し、その結果として世界経済全体に影響が及ぶのは、すでに私たちも経験済みです。
イランは軍事力ではなく、エネルギー市場を戦場に変え、世界経済の要としてのアメリカの信頼性を貶めようとしているのです。
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鮮明化する「中東地域における戦闘拡大」の兆し
ところで、イラン問題を理解する上で重要なのが、イランが掲げる【抵抗の枢軸(Axis of Resistance)】という考え方です。
私たちが目にする“国際関係”ではしばしば、イラン、ヒズボラ、フーシー派、イラクのシーア派民兵などを別々の主体として扱いがちですが、実際には、これらは緩やかなネットワークとして機能し、一種の相互安全保障体制を築いているのが現実です。
そのため、イランへの圧力が強まればヒズボラが動いてイスラエル攻撃を行い、ヒズボラが攻撃されればイエメンの親イラン組織フーシー派が反応して、紅海の緊張を高めてイスラエルが対応を強いられるという構図が形成され、こうして戦線が連結され、アラビア半島全域にわたる一連の対イスラエルの包囲網が形成されていきます。
それゆえに、今週に入って親イランのイエメンのフーシー派とイランが協力して紅海の封鎖も視野に入れ、相手にさらなる負担を強いる作戦を立てているようです。
イラン革命防衛隊コッズ部隊によると「ホルムズ海峡からバベルマンデブ海峡、そしてペルシャ湾から紅海にかけて、新しい抵抗の安全保障ベルトを築く」という計画が発表されていて、この試みにフーシー派が参画するものと思われます。
この海峡閉鎖のベルトが成立することになると、ホルムズ海峡からの迂回を強いられている世界のエネルギー資源物流は“代替案”を失い、実質的に麻痺することが予想されます。
特にバベルマンデブ海峡はアジア諸国行きの原油の多くが通過することに加え、現在、ホルムズ海峡の封鎖に伴う迂回輸送路の要でもあるため、ここが親イラン勢力のコントロール下に置かれたら物流は確実に滞ることになります。
アメリカとイスラエルの利害が必ずしも一致していない現状において、抵抗の枢軸国が実行に移すか、または脅している内容を未然に防ぐことができるかは、非常に微妙です(アメリカのペンタゴンに勤務する友人曰く、「だから今、アメリカはイランにサイド攻撃を加えている」とのことでしたが、トランプ大統領の発言を聞く限りは、実際にはどうだかわかりません)。
この【抵抗の枢軸】によるイスラエルへの攻撃およびアメリカの権益に対する挑戦の高まりを見ればわかるように、中東地域における戦闘拡大の兆しが鮮明になってきています。
イランとアメリカ、イスラエルの三つ巴の戦争に加え、フーシー派とイスラエルの攻撃の応酬、イスラエルとヒズボラの戦闘の激化、ガザとヨルダン川西岸地区におけるイスラエルとパレスチナの戦い、そしてUAEとイランの戦いなどが同時並行で起き、地域が不安定化しているのは事実です。
混乱の大きな要因となっているのが、イスラエルによる“ヒズボラ掃討”という大義名分の下で続けられているレバノンへの攻撃と、停戦合意に違反する一方的なレバノン南部でのイスラエル軍の駐留延長です。
現在のレバノン情勢も抵抗の枢軸の文脈で見る必要があり、決して中東地域において対イラン戦争に続く【第二戦線ではないこと】を理解しておく必要があります。
皆さんもご存じの通り、ヒズボラは単なるレバノン国内勢力ではなく、抵抗の枢軸というイランの地域戦略の重要な一部であると同時に、多くのレバノン国民の支持を得ている有力な政治勢力でもあります。半ば無政府状態と言ってもよかったレバノンの内政において、ヒズボラは国民を庇護するだけでなく、教育や労働の機会を与え、公衆保健を充実させ、レバノンの日常を作り出していると言っても過言ではない存在です。
私たちが目にする報道では「ヒズボラの存在ゆえにレバノンが攻撃されるのだ、と国民はヒズボラに否定的である」といった論調が目立ちますが、実際には「レバノンに攻撃を仕掛け、レバノン国民の権利と安心を脅かしてきたイスラエルから、レバノン国民を守る存在がヒズボラ」という認識が強化されているのが現状です。
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イランを軸とする「抵抗の枢軸」の背後に存在する国々
やっとできた現政権は、トランプ政権とネタニエフ政権からの支援を得て成り立っているという背景があるため、表向きではイスラエルとの和平に前向きで、かつトランプ大統領のアメリカにも“従順”な感じを醸し出していますが、レバノン国民の支持を得ておらず、レバノン国民は、程度の強弱の差はあるものの、ヒズボラ支持で揃っています。
イスラエルは自国の安全保障と生存の確証のために、レバノンを弱体化したいと考え続けてきましたが、そのためにはヒズボラの弱体化と国民からの引き剥がしが必要だと考えて、工作活動を強めるとともに、レバノンへの攻撃を激化させることで、国民のヒズボラ離れを起こしたいという目的が、戦略の核にあります。
それに対して、ヒズボラはイスラエルへの抑止力を維持して、レバノンがイスラエルに蹂躙されることを許さず、そのための闘争を続ける必要があると認識して、イスラエルからの度重なる攻撃を受けても怯まず、まるでアメーバのように広域にネットワークを張り巡らせて、イスラエルに対する抵抗網を堅持しています。
イスラエルを国家安全保障および地域の安定の最大の敵と考えるイランは、抵抗の枢軸の中心を構成するヒズボラを失いたくないと考えて、ヒズボラに武器弾薬を与え、資金支援も行って、対イスラエル戦線の最前線を任せています。
私たちが“レバノン情勢”と呼ぶ紛争案件は、この三者(イスラエル、レバノン、イラン)の利害が複雑に絡み合っている状況だと見ることが出来ます。
そして、このイランを軸とする抵抗の枢軸の背後には、通称、CRINK(クリンク)と呼ばれる国々のネットワークが存在します。
これは中国(C)、ロシア(R)、イラン(I)、そして北朝鮮(NK)の連携を指す表現で、最近、アメリカ政府内の安全保障界隈でよく用いられるものですが、これらの4か国とその仲間たちの間で、相互に軍事的な技術や知見の共有が行われています。
弾道ミサイル技術をはじめ、恐らく核兵器の開発における協力も含まれる複次的な繋がりですが、現在、同時進行で進む各地の戦争・紛争において、CRINKの協力例として最近特に注目されているのがヒズボラによる有線ドローンの実戦投入です。
有線ドローンは、その名前の通り(無線ドローンと違い)、ジャミング(電波妨害)による影響を受けないため、イスラエルなどが得意とする従来の電子戦では無力化しにくく、小型で探知も困難なため、イスラエルが迎撃できず、結果としてイスラエル各地での多くの損害に繋がっています。
おまけに数十キロメートルに及ぶ有線での運用が可能で、かつドローンに精巧なカメラが搭載可能なため、離れた位置から映像を見つつ、確実にターゲットをしとめるという、恐ろしい技術がすでに投入されています。
現在、ヒズボラが用いている有線ドローンは、中国製のものが多く、実はウクライナ軍が対ロシア戦線で投入されているものと同様のものと思われますが(ロシアも対ウクライナ戦で投入し、ウクライナの防空網を突破して、各地で損害を与えている)、それがイランにも提供されていると思われ、今後、ホルムズ海峡におけるアメリカとの対峙にも投入される可能性があります。
安価でありつつ、高い効果を発揮する有線ドローンのような軍事技術の進歩が、あらゆるところで戦場のルールを変えています。皮肉なことに、ウクライナ戦争で起きているドローン革命が、中東にも広がり始め、これまでの戦力差による勝敗の決定という図式を変え、小が大を制しかねない状況を作り出し、かつ民間人の犠牲を増やすきっかけになってしまっています。
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当事者間に「停戦の意思」が存在しないウクライナ戦争
最近、イラン情勢(米・イラン間の戦闘、ホルムズ海峡の閉鎖など)に目が行きがちで、あまりニュースになっていないように感じていますが、ロシア・ウクライナ戦争を巡る状況も変化しています。
ロシア・ウクライナ戦争は、4年4か月ほど泥沼化していますが、もはやこれは領土争奪戦ではなく、国家としての持久力を競う消耗戦になっていることは明らかです。
ロシアは中距離弾道ミサイルとドローンでウクライナのインフラを攻撃し、ウクライナは長距離ドローン(無線ドローンと有線ドローンの併用)でロシア国内の石油施設や軍需施設を攻撃して、ロシア軍の補給路を断ち、ロシア経済の根幹を揺るがすための作戦を実行して、双方とも相手の戦争継続能力を削ろうとしているのが、本当のロシア・ウクライナ戦争の姿ではないかと感じています。
歴史を見てみれば、これは第一次世界大戦後半にも似ているように見えてきます。決定的勝利が難しくなると、相手の疲弊を待つ戦争に変化し、ただただ睨み合いが続き、犠牲者の数はうなぎ登りに増え、当事国のインフラが惨めなまでに破壊され尽くして、損害が制御不能な状態で拡大し続けています。
そしてさらに、あまりにも戦争が長続きし、常態化してしまったがゆえに、当事国以外にとっては関心もコミットメントも継続せず、口々に「停戦すべき」と叫んでも、誰一人HOW(その方法)を知らず、また提示もしない状況が生まれています。
まさに袋小路に迷い込み、ロシアもウクライナも、そしてそれぞれの背後に控える“友好国”も、どこに向かえばいいのかが分からなくなっているように見えます。
よく“停戦交渉”の話題が出てきますが、ロシア・ウクライナ戦争については、停戦は非常に難しい状況に陥っていると見ています。
私はこれまで多くの停戦交渉(紛争調停)に関わってきました。その経験から言えば、停戦が成立する条件は単純で、それは【双方が、「これ以上戦っても得るものが少ない」と感じ始め、出口を探り始めること】です。
しかし現在のロシアとウクライナは違います。ロシアは敗北を認められませんし、(これは至極当然の要求ですが)ウクライナは領土の一体性(integrity)を諦められないといったように、双方とも譲歩できない事情を抱えています。
そのため、【停戦交渉は存在しても、当事者間に停戦の意思は存在しない】という状況が続いています。
そのような事態を打開しようと、ゼレンスキー大統領はプーチン大統領に公開書簡を送り、首脳会談の開催を呼びかけましたが、プーチン大統領は公開書簡を用いたコミュニケーションを無礼千万と激怒して見せ、「今、あえて会談に臨む意味が見当たらない」と全面的に拒否し、ロシア軍に対してドンバス地方全域の掌握のため、作戦のレベルアップ(段階を上げる)を命じると同時に、国内で広がる不安の払拭のため、防空態勢の迅速な強化を命じ、ウクライナ攻撃を継続し、激化させることを匂わせました。
ゼレンスキー大統領は脱米依存を確実にするために、英仏独の首脳と会談し、欧州との安全保障協力体制を強化するように要請するとともに、【ブカレスト9】(NATOに加盟する中東欧・バルト三国の9か国の枠組みで、ロシアの脅威に対抗するため、地域の安全保障やウクライナ支援について緊密な協議を行っている)の首脳会議にも出席して、ロシアの企てを挫き、力による一方的な支配構造を否定するべく、協力することを求め、こちらもまた全面的な対抗姿勢を示し、対ロ戦争の継続を匂わせています。
アメリカが中東地域に釘付けで、かつトランプ大統領のイランやイスラエルへのこだわりの強さゆえに、アメリカの関与が期待できない中、誰もロシアとウクライナの間に入ってディール・メイキングを行うことができない状況下では、近日中にロシア・ウクライナ戦争が終わる見込みは限りなく低いと言わざるを得ません(ちなみに、アメリカとロシアは、昨年8月の米ロ首脳会談時に合意したらしい“ベーリング海峡で米ロを繋ぐ海底トンネル”の実現に向けて協議をしており、トランプ大統領の関心がロシアとの経済的なディール・メイキングに移っていることを推測させる動きが、今週に入って活発化していることも申し添えておきます)。
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「習近平の訪朝」に見え隠れする中国の不安の存在
そのような中、大国の中で唯一まだ戦争に参加していない中国が不安を抱いています。
今週最も重要な出来事を一つ挙げるなら、私は中国の習近平国家主席の訪朝を選びます。その理由は、見え隠れする中国の不安の存在です。
中国は一体何を恐れているのでしょうか?
1つは「いつアメリカが中国に牙をむいてくるか」という見えない不安です。先述の通り、アメリカのトランプ政権はイラン情勢とイスラエル絡みの中東情勢に注意もエネルギーも注いでおり、その結果、アジアの守り(つまり対中圧力)を担うはずの戦力はペルシャ湾に縛り付けられ、アジア太平洋地域は手薄になっています。
日本を含め、アジア太平洋地域には伸び続ける中国の軍事力とプレゼンスに単独で対抗できる存在はなく、それを一つ一つ確認するかのように、中国はアジア諸国のレッドラインを試すべく、威嚇行動を繰り返しています。“有事”として警戒されている台湾海峡情勢も例外ではありません。
アメリカのルビオ国務長官は台湾に対する武器販売を再開すべきと発言して、中国の動きをけん制してみる構えを見せていますが、アメリカ軍の支持がセットでついていない台湾の軍備増強は恐れるに足らずと中国の動きを抑制するには至っていません。
しかし、中東情勢が何らかの形で落ち着けば、トランプ政権のナイフの先は中国に向けられるのではないかという恐れを常に抱いており、アメリカ対策においては、強気の姿勢を維持するとともに、動きや思考が全く読めないトランプ大統領の機嫌を損なうことが無いように、過度な刺激は避けています。
その点では、今回の北朝鮮訪問と、中朝関係(血盟)の確認という動き、そして名指しはせずともアメリカを共通の脅威と認識している発言を公表したのは、アメリカへの牽制という側面以外に、ロシアに対するメッセージでもあると考えられます。
言い方を変えると中国はロシアに対しても恐れを抱いているものと考えられます。それは、すでにウクライナを舞台にしたロシアと北朝鮮の急接近のように、両国の関係が急速に深まれば、中国の対北朝鮮影響力が低下する可能性があります。
それは、中国にとって重要な緩衝地帯である北朝鮮を失うことにも繋がりかねません。
ゆえに今回の訪朝は、「北朝鮮を中国陣営につなぎ留めるための最高レベルでの外交」という意味合いが強かったと考えられます。
よく【中露朝連携】という言葉が使われますが、現実はもっと複雑です。
当たり前と言えばそうなのですが、中国には中国の利益があり、ロシアにはロシアの利益がある。そして、北朝鮮には北朝鮮の利益があるわけで、三者はその利害が一致するなら協力することもありますが、そうでない場合には競争もしています。
北朝鮮は三つ巴のバランス状況を巧みに利用し、中国とロシアを天秤にかけながら、自らの戦略的価値を最大化しようとする【小国外交・中間国外交の典型的な生存戦略】の一つです。
今回の訪朝で中国は、日米韓による中国包囲の圧力に対抗するにあたり、北朝鮮の戦略的重要性を認識し、北朝鮮の核保有を実質的に黙認する方針転換を行ったことで、アジア太平洋における自国の影響圏の拡大も図ることになり、一気に中国のプレゼンスが高まる方向に進んだと見ています。
そのことで、私はアジアの地政学図が大きく変わる節目に直面していると考えています。
現在、アジアは米国の相対的プレゼンス低下や中国の影響力拡大に加え、ロシアの東方シフトや北朝鮮の存在感増大を受けて、その立ち位置・あり方を急ぎ検討し、実行に移さなくてはならない段階に来ています。
私は今後のアジアが進む未来には三つのシナリオがあると考えています――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年6月12日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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