生成AIの急速な進化は、私たちの暮らしや仕事を大きく変えつつあります。その一方で、その利便性や性能だけでなく、「誰のために、どのような価値観に基づいて開発・運用されるべきか」という倫理的な問いも、これまで以上に重要になっています。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、、東京大学が開設した社会連携講座「AIR/E」の概要や、「ケア」の倫理を軸としたAIへの新たなアプローチ、その社会的意義についてまとめています。
AIを開発するための責任と倫理を考えるために「ケア」を
東京大学はソフトバンクとライン・ヤフーの協力を得て、同大学院情報学環で実施する社会連携講座「責任あるAI倫理の創造と持続可能な未来構築」(通称: AIR/E、エアー)に向けたキックオフ・シンポジウムを開催した。
この講座は、東京大学とソフトバンクが「世界最高レベル」のAI(人工知能)研究機関として2020年に設立した「Beyond AI 研究推進機構」の取り組みの一環で、社会科学の分野からAIの「責任ある」位置づけを模索しながら、そのアプローチを考える内容である。
東京大学副学長でプロジェクト推進役である林香里・同大学院教授は、自らの研究領域でもある「ケア」の考え方を説明しながら、AIという「技術」は人間が「不完全なまま生きるためにある」とし、「AIもケアの倫理から捉えなおすことができる」と、ケアの倫理を重視しながらAIを捉え直そうという姿勢を明確にした。
林教授は2020年設立の「Beyond AI 研究推進機構」の6年間の活動で、AIが飛躍的進歩を遂げる中で「AIについて考えることは人間について考えること、技術と人間の関係性を考えることに気付いた」とし、「いかにAIと共に生きるかを設計する時である」との認識を示しながらも、現状は「責任あるAIの必要性は深まっていない」という。
さらに「人間は孤立して自立しているものではない。ケアされることで生きている」とし「依存は人間そのものの条件」であることで、AIを考える際に必須な「ケアの倫理」の必然性を説いた。
講座の名称である「AIR/E」について、AIとR=Responsibility(責任)とE=Ethics(倫理)であることに加え、ケアを意識すること、他者とのつながりを考えることで、EはEmpathy(共感)をも意味すると説明した。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
東京大によると、講座の目的は「AI倫理を単なる理念や規範として捉えるのではなく、実際の課題を踏まえて研究開発や事業設計のプロセスに組み込むために、AIガバナンスの実践的な担い手を育成すること」。
特に、責任あるAIの策定に向けた「クリティカルAIスタディーズ」を、学際的・国際的な視点から理論的・実証的に研究するという。
「クリティカルAIスタディーズ」とは、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)やAI倫理を考える前提となる人間観・社会観・価値秩序を問い直す研究分野。
この社会連携講座で提供するのは「レクチャーシリーズ」「フィールドトリップ」「ワークショップ」の3種類の予定。
レクチャーは学生やソフトバンクの社員に「正義」「創造性」「安全保障」などのテーマを通してAIの倫理的課題を多面的に学べる内容である。
AI倫理に関する課題の解決策を発見し、研究開発や事業設計、ガバナンスに実践的に生かせる人を育成するのが狙いで、まずは正しい見識を東京大やソフトバンク周辺から育てようとの戦略と思われるが、一般学生や市民に広げ、講座を経たことで
「確か」になったAIの倫理を社会と共有しブラッシュアップしていくことを望みたい。
フィールドトリップは連携する自治体に、AIを活用して地域課題の解決策を提案するもの。レクチャーシリーズやフィールドトリップ、その他のイベント参加者には、少人数のグループでAI倫理に関する課題を議論するワークショップを提供する予定もある。
林教授は「倫理的課題を遵守のためのチェックリストに還元するのではなく、従来のAI開発・実装において前提とされている既存の人間観・社会観・価値秩序そのものを問い直す」との考えで、講座は「技術の未来ではなく、人間社会の未来、AIを評価するためのプロトタイプ」に向けたものであることを強調した。
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