かつてのような「安さ」だけではなく、技術力や供給力においても存在感を高めつつある中国の部品メーカー。その影響は日本のみならず、製造業の中国依存からの脱却を図る米国にも無視できない現実を突きつけています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、自動車やドローン、ヒューマノイド・ロボットを例に中国製部品の競争力を分析。さらに日本では「旧態依然の悪しき構造」と批判された「ケイレツ」と垂直分業に着目し、中国企業がその強みを最大化しつつある実態を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本製造業衰退の一因「垂直分業」がいま中国の製造業を躍進させているという不思議
なぜだ。日本製造業衰退の一因「垂直分業」がいま中国の製造業を躍進させているという不思議
日本がいま誇るべき産業とは何か。そう尋ねられたとき、多くの日本人が真っ先に思い浮かべるのは自動車産業だろう。
1980年代には家電と自動車が日本経済を支える双璧で、日米貿易摩擦の最前線もそこにあった。
しかし日本の家電量販店から「メイド・イン・ジャパン」の存在感が薄れてしまって久しい。一つの柱を失った日本にとって、いま自動車産業こそが最後の砦といっても過言ではない。
だが今年に入り、その自動車産業に関して目をそむけたくなるようなニュースが立て続けに日本列島を駆けめぐった。
例えば、テック・メディアとして定評のある『36Kr Japan』が取り上げた記事だ。
タイトルは「トヨタEV『bZ3X』、部品の9割が中国製 日本車の“系列”はなぜ崩れはじめたのか」である。
見出しだけ見ても記事の主旨は理解できそうだが、要するに「トヨタ」ブランドの新車であっても、その中身は「メイド・イン・ジャパン」ではなくなっているという話だ。
もちろん電気自動車(EV)に限ってのことだが、「トヨタ」のエンブレムのついた「中国製EV」が実際に日本市場に投入されたインパクトは凄まじい。
ここ数年中国の部品メーカーが存在感を高めてきたことは、日本でもうっすらと認識されてきた。そしてその現実はいま、自動車産業の雄であるトヨタでさえ無視できなくなったのだ。
かつて世界を席巻した「メイド・イン・ジャパン」を陰で支えてきた「ケイレツ」──。その「ケイレツ」がいよいよ中国の部品メーカーの台頭で崩れかけているのだから一大事である。
類似する報道は自動車に絡むものだけでも多種多様見つかる。試みに、その一部を取り出しタイトルだけを並べてみよう。
- 「トヨタ、中国以外で初めてCATLから電池調達――インドネシアで120億円の専用ライン」(『36Kr Japan』)
- 「『ケイレツ』の危機、翻弄される自動車部品メーカー 迫る中国勢」(『日経クロステック』)
- 「トヨタ・日産が中国部品を急拡大」(『日経クロステック』)
- 「トヨタ、中国テンセントと提携 EVにAIやビッグデータ」(『日本経済新聞』)
- 「中国車部品が日本上陸、低価格で『ケイレツ』崩し」(『日本経済新聞』)
ざっと、こんな具合だ。
日本自動車産業を下支えしてきた部品メーカーが中国の部品メーカーに取って代わられるという現象は、中国製造業全体の技術の底上げをイメージさせるが、実際、この現象は自動車産業だけで起きているわけではない。
例えば、ドローンだ。記憶に新しいところでは、米中が鎬を削る経済・貿易戦争の過程で露見したアメリカ製造業の限界だ。
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
多くの中国メーカーが垂直分業を強化しているという実態
きっかけは米連邦通信委員会(FCC)が昨年12月に発動した輸入規制だ。FCCは外国製ドローンのすべての新型モデルの輸入を禁じたのだ。「外国製」となっているが、この禁止が中国をターゲットにしたものであることは言を俟たない。
だがその直後、不思議なことが起きた。なんと輸入を禁止したFCC自身が一転してドローンの「部品に関しては『適用除外』とする」という措置を発表したからだ。
多くのアメリカのメディアは措置の修正の理由を「アメリカ企業がドローンを使い続けるためにはどうしても中国製ドローンの部品を輸入しなければならないという壁に突き当たったため」と説明している。
同じような現実は、ヒューマノイド・ロボットに対する輸入規制でも見られた。象徴的だったのは米誌『MITテクノロジーレビュー』の記事(8月4日)だ。タイトルは、「中国製ロボットを締め出す米国、その研究は中国製で回っている」である。
中国製ロボットを政治的に排除することは簡単だが、それをすればロボット開発コストは跳ね上がり、最終的にはアメリカのロボット産業そのものを停滞させてしまいかねないというわけだ。
背景にある中国部品メーカーの台頭が、「メイド・イン・ジャパン」の敗北の入り口だとすれば、それは家電以来の大きな逆風になりかねない。
かつて日本の家電産業が衰退したのは、一つにデジタル化という波に乗り遅れたこと、そしてもう一つが垂直分業から水平分業へとシフトする世界の流れに、日本だけが取り残されたからだと指摘される。「ケイレツ」や「擦り合わせ」という「メイド・イン・ジャパン」の強みが、皮肉にも変革を妨げた、と。
家電での敗北から多くの日本製造業は「脱ケイレツ」を進め、「ケイレツ」を旧態依然の悪しき構造と批判した。それは企業から柔軟性と身軽さを奪うと。
しかしトヨタ自動車のEV分野での苦戦を目の当たりにし、その最大のライバルとされるBYDの状況をのぞいてみると、意外なことに気づかされる。
それはBYDなど多くの中国メーカーが、むしろ時代に逆って垂直分業を強化しているという実態だ。
事実、BYDは、リチウム電池の材料確保のための鉱山取得から出荷のボトルネックを補う専用の貨物船の保有まで、あらとあらゆる関連産業で存在感を高めている。それは「ケイレツ」以上の垂直分業だ。
彼らが進める垂直分業には、一方で巨額の投資という負担がのしかかる。しかし、他方で中間マージンの削減や調整の手軽さや開発・改良のスピード確保といったメリットも大きい。サプライチェーンを安定させ、品質管理も容易になるという利点もある。
もしグループの慢心や硬直化を防ぐことができれば、「ケイレツ」はその強みを最大化することができる。中国が進める新たな垂直分業は、そのことを実証しているのかもしれない。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年8月30日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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