響け、港町のジャズ=宮城県気仙沼市の被災喫茶店、交流の場に-東日本大震災8年半

2019.09.11
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by 時事通信


老舗喫茶ヴァンガードで開かれるジャズ勉強会で、セッションを楽しむ参加者たち=8月17日、宮城県気仙沼市

 東日本大震災で甚大な被害を受けた港町、宮城県気仙沼市にある喫茶店「ヴァンガード」。半世紀以上にわたり、住民にジャズとコーヒーを届けてきた老舗だ。11日で震災から8年半。店はレトロな雰囲気を守りながら、ジャズを通して誰もが交流できる場へと進化している。
 店は津波に直撃されたが、建物はかろうじて残った。当時の店主らの必死の復旧作業で、4カ月後に再開。現在の店主、小松和雄さん(65)は「店の向かいに、いろいろなものと一緒にグランドピアノが捨てられていた光景が忘れられない」と言葉少なに振り返る。
 切り盛りしてきた当時の店主2人は2016年と17年に相次いで亡くなり、再び存続の危機に。常連客だった元市職員の小松さんと自営業の今川富保さん(70)が心を決め、引き継いだ。コーヒーの入れ方から勉強したという。今川さんは「ここに来れば友人に会える、大事な場所。絶やしてはいけない」、小松さんは「街並みは激変したが、この店が変わらずにあることが心の支えになっていた」と語る。
 あるとき客から、店でジャズ勉強会を開きたいという相談を受けた。小松さんは「年代問わず交流できる場になれば」と快諾。勉強会の名だが、今年から毎月1回、参加自由のジャズセッションを繰り広げている。
 8月の勉強会では、県内外から集まった10~60代の約20人が、あっという間に席を埋めた。ピアノ、サックス、ドラム、ウッドベース-。それぞれの楽器で代わる代わるセッションを楽しんだ。
 企画した地元の会社員武田行広さん(48)は「上手下手にこだわらず、ジャズで気軽に交流できる場所をこの街につくりたかった」。ドラマーとして、岩手県釜石市から何度も参加している小学校教諭多田俊輔さん(33)は「見ず知らずでもセッションに歓迎してくれる。こんな場所はなかなかない」と笑顔を見せた。
 小松さんは「ヴァンガードはずっと続くべき場所。そのためにも、若い人たちが気軽に入れる店にしたい」と意気込む。港町の老舗喫茶は、前へ前へと進み続けている。(2019/09/11-06:57)

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