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石垣島まで監視可能。中国が新たに手にした「飛行船」という軍事力

世界の軍事専門家が注目する、中国が開発した大気上層を飛ぶ飛行船。メルマガ『NEWSを疑え!』で静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之氏は、その軍事的意義について解説しています。

成層圏を飛ぶ中国の飛行船の軍事的意義

中国の飛行船「圓夢号」は10月13日、高度20キロからデータ中継と地上の観測を行った。

特定地域の上空20キロ以上に数日間とどまり、データ中継や地上の観測・偵察を継続的に行うことができる高高度滞空型無人機は、高価で脆弱な衛星機能代替する潜在力があり、米英の無人機メーカーは翼で揚力を得て高高度にとどまる無人機を試験飛行させてきたが、中国は同じ目的に対して無人飛行船というを示したとして注目を集めている。

各国がこの目的のために活用を追求している高度20キロから100キロに至る大気上層は、英語で「ニアスペース」、中国語で「近空間」と呼ばれる。この大気上層は空気が薄く、ほとんどのジェット機の飛行が不可能な一方、人工衛星の軌道としては空気抵抗が大きいことから、ほとんど利用されてこなかった

「圓夢号」は10月13日午前2時10分、北京の430キロ北の内モンゴル自治区シリンホト市に設けられた拠点から離陸し、ヘリウムガスの浮力によって50分後に高度20キロまで上昇した。操縦可能な飛行船が高度20キロに達したのは、2005年に米国のサウスウエスト研究所と陸軍が飛行船「ハイセンティネル号」を浮揚させて以来、10年ぶりのことだ。

ヘリウムガスを充填中の「圓夢号」(YouTube映像「現場:中国新型軍民通用飛艇「圓夢号」首飛」)

「圓夢号」は広告などに使われる一般的な飛行船より大きく、外皮の容積は1万8,000立方メートル、全長は75メートル、全高は22メートルある。外皮の上側に柔軟に形状を変えることが可能な太陽電池パネルを貼り付けて、プロペラとペイロードの電源とすることによって、3か月以上滞空時間と、5トン以上搭載量を実現している。北京の民間企業・南江空天科技、北京航空航天大学、内モンゴル自治区シリンゴル盟(シリンホト市を含む行政区)が共同開発した。

中国政府の科学技術部が所管する科技日報(10月14日付)は、「圓夢号」のことを「軍民両用新型ニアスペース・プラットフォーム」と表現している。

「圓夢号」の太陽電池パネルと外皮(同)

南江空天科技は、成層圏飛行船の用途を以下のように説明している。

  1. 大気・水質汚染の観測
  2. 都市の観測による交通情報収集、違法建築摘発、突発事件の情報収集
  3. 陸地から最大500キロ沖の船舶に対する第4世代移動通信システムの提供
  4. ブロードバンドテレビ放送
  5. レーダーによる気象観測と天気予報
  6. 赤外線センサーによる林野火災の監視と消火支援

南江空天科技が3. について述べているとおり、高度20キロの飛行船から地平線までの距離は500キロある。500キロといえば、浙江省と福建省の沿岸から沖縄県石垣島までの距離であり、上海から九州・沖縄までの距離の半分以上にあたる。

中国は高高度滞空型飛行船の開発によって、自国の地対空ミサイルの傘の中から500キロ以上沖の海上精密監視する手段を手にしたことになり、その軍事的意義の大きさを否定する世界の専門家はいない。

後方から見た「圓夢号」のイメージ図(南江空天科技サイト)

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

image by: YouTube

 

『NEWSを疑え!』第436号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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