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次期大統領の座は確実か。ヒラリーが見せた「完全勝利」の瞬間

先日、いわゆる「ベンガジ事件」等の証人として米下院の喚問を受けたヒラリー・クリントン氏。その中継を視聴したという米在住の作家・冷泉彰彦さんはメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』に、これは「ヒラリー氏の完勝に終わった」と記しています。いったい、どういうことなのでしょうか?

証人喚問に「勝利」したヒラリー

2015年10月22日(木)というのは、もしかしたらヒラリー・クリントンという人物の経歴の中で非常に重要な日付になるかもしれません。他でもない「ベンガジ事件」に関する下院公聴会証人として召喚された彼女は、2回の休憩をはさんで11時間、つまり朝の10時から夜の9時まで連続して議員たちの質問に答え続けたのです。

一言で言えば、その結果はヒラリーの「完勝」でした。

とにかく最初の「オープニング・ステートメント」からして、よく練り上げられたものでした。そして質疑に入って行くと、彼女の頭脳は冴え渡って行ったのでした。CNNでの中継がずっと続く中で、さすがに私も11時間全部を見ることはできませんでしたが、要所要所に見せ場があり、結局この日は何だかんだ言って4~5時間はTVに見入ってしまったように思います。

この11時間にわたってヒラリーは常に冷静さを維持し、自分の立場について一貫したイメージを与えることに成功し、何よりも世論によるこの問題への疑念に関して、相当程度払拭することに成功したと思います。

これで俗に言う「ベンガジ・ゲート」にしても、「メール・サーバ疑惑」にしても、ほぼ疑念は消えたと言っていいと思います。共和党系の筋金入りの「アンチ・ヒラリー」は別として、中道から民主党系の有権者に関してはそうです。

下院の、特に共和党の委員たちはヒラリーの「問題点」について何度も何度も「突っ込み」を入れました。「2012年の9月11日にリビアの米国大使館が襲撃された、その直前に警備強化の要請があったのを握りつぶしたのではないか?」「自宅のメールサーバを使って違法に国家機密情報をやり取りしていたのではないか?」などといった過去に何度も繰り返された論点が、この日もまた繰り返されました。

委員の中には声を荒げ、怒りを顔に出すというケースもありましたが、ヒラリーは「一切ケンカを買う」ことはありませんでした。相手が自分を敵視して感情をむき出しにしてくれば来るほど、ヒラリーは柔和な表情低姿勢かつ丁寧な答弁で対応したのです。

もしかしたら「シナリオ」があったのかもしれませんが、ヒラリーの「味方」である民主党の委員たち(例えばエリヤ・カミングス議員など)が「共和党の委員の物言いに食って掛かる」というシーンもありましたが、そのような「自分をアシストするような感情論」ですら、ヒラリーは一段高いところから冷静な姿勢で「見守って」いたのです。

その上で、ヒラリーは「スチーブンス大使以下の死に関しては自分に責任がある」とハッキリ述べるとともに、「自分は、この一件に関しては、この場にいる全部の人間を合計したよりもずっと長い時間、眠れない夜を過ごした」という言い方で、個人的な後悔の念と反省の深さを示したのでした。

その一方で、低姿勢だけでは済まないのも事実であり、「上を目指す」以上は「敵に対する反撃」も避けられません。そこでヒラリーは、「アメリカの外交官の生命が奪われた同じような事件としては、レーガン政権下のベイルートの事件、クリントン政権下でのアフリカでの大使館連続爆破事件などがあった」として「こうした事件の際には、真相究明と再発防止のために議会では超党派的な活動がされた」として、暗にこの「党利党略による自分への告発」を批判することも忘れませんでした。

威風堂々というよりも、そこには自分は政権を担うのだという鉄の意志のようなものが感じられました。CNNで、これまではヒラリーに決して甘くはなかったジャーナリストのカール・バーンスタイン(ウォーターゲート暴露で有名)が「ヒラリーのプレジデンシー(大統領になった場合の治世の姿勢)はこんな感じだということを予感させた」という言い方で、彼女が11時間にわたって見せた「カリスマ」のことを形容していましたが、私も全く同感だと思いました。

丸1日をかけた公聴会が終わった時には、11時間にわたって「コワモテ」の表情を崩さずにヒラリーを追求し続けたトレイ・ガウディ委員長(共和、サウスカロライナ4区)に対してヒラリーは「にこやかに」握手を求め、同委員長も表情を和らげてそれに応じていました。ヒラリー勝利」の瞬間でした。

普通、議会が国政調査権を発動して、その調査のために証人喚問を行うという場合、特にその証人が何らかの疑惑を持たれている場合は、喚問におけるやり取りは「防戦的」になります。当たり前のことですが、今回のヒラリーは、自身へと向けられた嫌疑を「晴らす」だけでなく、その喚問の場を「自身の政治的勝利の場」へと変えてしまったのです。これは大変なことです。

勿論、反対派は今でも怒っています。FOXニュースのメージン・ケリーは、公聴会の直後に自分の番組に事件で犠牲になった職員の母親を呼んで「あの女は嘘つきだ」と言わせて、相変わらずの「ヒラリー叩き」をしていましたが、これはあくまで少数派であり、中道から左の世論はほぼ「ヒラリー復権」というイメージで固まったのではないかと思います。

image by: Alan Freed / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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