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強引に中国を絡めてくる読売。ミャンマー総選挙を各紙はどう報じたか

アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟の優勢が伝えられるミャンマー総選挙。国民が現政権にノーを突きつけたこの結果を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』が詳しく分析・解説しています。

ミャンマー総選挙でのスーチー氏の勝利を、各紙はどう伝えたのか

◆1面トップの見出しは……。

《朝日》…「スーチー氏 勝利に自信」「ミャンマー総選挙」「与党 大敗認める」
《読売》…「スー・チー氏『勝利宣言』」「選挙確定一週間後」「政権交代の可能性」
《毎日》…「スーチー氏野党「勝利」」「ミャンマー総選挙」「与党敗北宣言」
《東京》…「就活面接 来年は6月解禁」「1年で見直し 学生混乱も」

◆解説面のテーマは……。

《朝日》…ミャンマー総選挙
《読売》…就活解禁変更
《毎日》…ミャンマー総選挙
《東京》…ミャンマー総選挙

※ 1面トップは《東京》を除く3紙がミャンマー総選挙、解説は《読売》を除く3紙がミャンマー総選挙。

ミャンマー総選挙を各紙がどう伝えているのかを比較しようとしても「所詮、大差はないのではないか」、そんなふうに思われる方も多いでしょう。ところが、逆に各紙の特徴が驚くほどクリアーに出ている、そのあたりをご覧いただければと思います。ということで…。

◆今日のテーマは……。

ミャンマー総選挙でアウンサン・スーチーさん率いる国民民主連盟NLD)の「勝利」を、各紙どう伝えたのか、です。

基本的な報道内容

8日開票されたミャンマーの総選挙で、最大野党「国民民主連盟」は、上下両院で70%以上の議席を獲得したと明らかにした。与党の連邦団結発展党は事実上の敗北宣言を行った。

ミャンマーの議会は上下両院664議席のうち、4分の1の166議席が予め軍に割り当てられており、選挙は残る498議席を巡って戦われた。治安上の理由で北東部の下院7議席分については投票が中止されている。

NLDが単独で過半数を抑えるためには、改選議席の3分の2、332議席を上回る必要がある。

連邦選管が選挙結果を確定するのに1週間から2週間は掛かると見られ、その後、現職の任期が満了する来年1月に国会が招集され、議員の投票によって新大統領が選ばれ、3月末には新政権が発足する。スーチー氏は、親、子、配偶者に外国籍のものがいる場合は大統領になれないとの規定により、大統領となる資格がない(子どもがイギリス国籍)。

国軍による政治支配が半世紀続いてきたミャンマーで、初の民主的な政権交代の可能性が高まっている。

真の民政移管へ

【朝日】は1面トップと2面の解説記事「時時刻刻」でミャンマー総選挙を取り上げている。

1面記事は基本的な内容に加えて、スーチー氏は経済的には現政権の改革開放政策を踏襲するとみられること、国軍最高司令官は現大統領とともに「民意の尊重」と繰り返して発言しており、新政権誕生の公算が高まっていることを伝えている。

2面の「時時刻刻」は見出しが「民主化前進 望む民意」となっている。「時時刻刻」らしく、NLD本部に集まってきた人々への取材をドキュメンタリー風に綴りながら、62年のクーデターに始まる国軍中心の政治と、それに対抗した民主化運動の歴史を織り込む。

88年の民主化運動とスーチーさんの軟禁、NLDメンバーの逮捕・投獄、NLDが8割の議席を得た90年の総選挙を無視した軍政、その後15年に及ぶスーチーさんの軟禁、2007年、僧侶らによる反政府デモと軍による弾圧

スーチーさんは「国民和解に基づく政府が必要だ」とし、他方、国軍司令官は民意の尊重の意向を示す。選挙後も影響力を維持する国軍がどう出るのか。不安は払拭されていないとし、最後にスーチーさんの「勝利を祝うにはまだ少し早い。敗者を刺激しないことが大切だ」という言葉を引用する。

uttiiの眼

《朝日》は、「軍政に対する民主化運動」という枠組みを一歩も出ずに、この問題を扱いきろうとしているように見えた。スーチーさんという存在、長年の軍による圧政、民政移管したといっても軍の影響下にある現政権…そうした要素を考えていけば、記事は当然そうなってくるだろう。もちろんそのことに合理性はある。だが、それだけでは済まない気もする。
※ 《毎日》、《東京》などのところを参照のこと。

また、ミャンマーの軍政下では、逮捕・投獄だけでなく、治安機関による暗殺も横行したと認識している。その部分は、「軍を刺激する」ので書かないということなのか。気になった。さらに、2007年に日本人ジャーナリスト長井健司さんが取材中に射殺される事件があったが、忘れてしまったのか、書いていない(これらについては各紙とも書いていない)。

私は大統領より上

【読売】は1面トップの基本的な記事に加えて、2面にも記事を載せている。見出しは「『スー・チー政権』現実味」「大統領資格は持たず」。選挙前の記者会見でスーチーさんは「私は大統領より上になる」と語っている。単独過半数を握ってNLDが政権を担当しても、党首である自分は大統領になれないように規定されてしまっている。非公式の場では「私が政策と党方針を決める」「政府はそれに従うことになる」とも発言しているらしい。《読売》は「政権運営が不透明になる可能性もある」とだけ指摘。

uttiiの眼

どう考えても、軍政から真の民政移管が果たされようとしている局面なのだが、《読売》の記事をここまで読んでくると「スーチーさんが独裁者になる可能性」を問いかけたくなるところだ。だが、仮に政権交代が実現しても、国防、内政など重要閣僚3人は軍が任命するし、議員の4分の1は軍人枠だ。むしろ、NLDの議員たちが跳ね上がって軍を挑発し、元の木阿弥になることを恐れての発言なのではないか。軍の式典にも顔を出すようになった自分なら、バランスを取りつつ、次第に軍の力を削いでいくこともできるという意味なのかとも思う。《読売》の書き方は中途半端で、間違った印象を与えかねない。
※ この背景については《毎日》《東京》が書いている。

それにしても、記事の最終段落には驚かされた。NLDが選挙公約に掲げる「積極的で自由な外交」に託(かこつ)けて、《読売》は「テインセイン大統領は、中国がミャンマー北部で建設中の水力発電ダム開発の中止を発表するなど、民政移管後は中国と距離をとるようになったが、この方針を続けるのか注目される」と、まるでそのことを期待しているように書く。

またしても中国が気になって仕方がない《読売》。

小さい問題だとは言わないが、ここで書かなくてもなあ…。ちょっと笑ってしまった。

もう1つ。ハッキリした狙いがあってのことか分からないものの、《読売》の今朝の2面には、1つ工夫がなされているように感じた。ミャンマーについての記事見出しは「『スー・チー政権』現実味」。思わず読みたくなる「引き」の強さを持った見出しだ。縦書きの各行を右から左に次々辿っていき、読み終えると、自然とすぐ下の記事の見出しに目が行くようになっている。そこに出ている見出しは「内閣支持上昇51%」。《読売》としては、1面トップにすることはできないが、どうしても読者の頭に叩き込んでおきたい見出しだろう。

国民はNLD候補者の大半が嫌い? 《毎日》

【毎日】は1面トップと解説記事「クローズアップ2015」でミャンマー総選挙を取り上げる。1面トップの記事は基本的な情報に加えて、日本や米欧、国連などからの選挙監視団についても記している。

3面記事は「変革求めた国民」との見出し。リードは、国民の心を捉えたのは「…テインセイン大統領が訴えた「着実な民主化改革の継続」ではなく、スーチー氏が掲げた「チェンジ変革)」だった。今の焦点は、NLDが政権を奪取できる議席を獲得するかに集約される」という。

uttiiの眼

3面記事本文は刺激的な書き出しだ。ミャンマータイムズという地元紙の政治部キャップの話で、「正直、国民はNLD候補者の大半が嫌いです」というのだ。続けて「NLDという組織も魅力的だとは思っていない」。ええ? という感じだが、それでも、変革を求めるという一点で、多くの国民がNLDに投票したのだという。

その意味は、NLDにはろくな候補者がいなかったが、軍政や疑似軍政のような現政権よりはマシと判断したということのようだ。スーチー氏自身、遊説の際には「候補者個人ではなく、党の名前で投票してくれ」と繰り返し、候補者は「玉石混淆。当然教育する」と公言したという。また、その候補者に対しては、「メディアの個別取材に応じてはならない」と「箝口令」まで敷いたという。《毎日》は候補者にも直接取材していて、公募で選ばれた27歳の女性は現役の学生。政治囚として2年間服役した経験があるというが、箝口令については「微妙な時期なので仕方がない」と言っているらしい(この女性に対する取材は細かくやっているはずだ。もっと具体的な答えが欲しい気がするが、何か支障でもあるのだろうか)。

《毎日》の記事は、NLDが過半数に達しなかった場合の連立相手まで探っている。与党の一員でありながらスーチー氏との関係が深かったシュエマン国会議長が有望だったようだが、落選してしまい、無理になってしまった。

以上、《毎日》は取材に基づいてなかなか興味深いユニークな記事を書いている。どうやら、ミャンマー政治につきまとう「不安」は、軍の出方だけではないようだ。

ただの政治家?

【東京】は3面の解説記事「核心」の右手に、基本的な内容を伝える記事を置き、3面のほぼ全体をミャンマーに当てた。「核心」の見出しは「軍主導政治に国民『ノー』」。現在のテインセイン政権を「軍主導政治」と位置づけている。

リード末尾には「政権与党となれば、真の民主化を目指したスーチー氏の悲願達成も目前だが、軍との関係構築や宗教対立の解消など困難な課題も待ち受けている」とある。
※ 「宗教対立」はロヒンギャの問題を指す。後述。

冒頭はスーチーさんの「私は大統領より上の存在になる」発言。その背景については、「大統領でなくても実質的に国家運営を主導する意欲を示し、選挙で上下両院の過半数を得られれば、スーチー氏に政権を託しても大丈夫だと有権者に伝えることにあったとみられる」とする。

2011年民政移管後のテインセイン政権は、政治犯の釈放や経済の対外開放などの改革を実施。それでも元軍人らが中枢を占める政権は国民にとっては「軍政と同じ」であり、軍人が私腹を肥やす実態も知れ渡ったという。

uttiiの眼

リードに出ていた「宗教対立」とは、少数民族ロヒンギャの問題。スーチー氏はロヒンギャを積極的に擁護しなかったところから、「もはや民主活動家ではなく、ただの政治家だ」と批判する向きもあるという。宗教問題であると同時に少数民族問題。「治安」を理由に選挙の投票がなかった7つの選挙区の問題もある。こちらの少数民族は長年武装闘争を続けている。

確かに、私たちの眼にも、スーチーさんが「ただの政治家」と映るときがやってくるのかもしれない。その時には、日本がこの国とどう関わっていくのかという大問題が具体的に浮上しているときでもあるだろう。2週間後、あるいは来年の2月3月には、ミャンマーからどんなことが伝わってくるのか、また各紙はどう伝えるのだろうか。

image by: 360b / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/11/10号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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